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第3話 じいちゃんと魔物




 『面白くなってきた!』

 『ご先祖様が、代々守ってきたダンジョン……?』

『生配信で凄い発見ですね――!』

『え――? ヤラセじゃん?』

 『奥に何があるの?』

『嘘くさい……』

 『危なくないですか?』

 『今北産業!w』

『どうなっている?』

『本当だったらすごい発見だけど?』

 :

 :

『今、来た人へ。じいちゃんの家の裏山で洞窟ダンジョン(みたいの)が見つかった』

『じいちゃんと一緒に裏山探検したら、洞窟が見つかった』

『それが先祖代々守ってきたダンジョンらしい』

『入り口に水晶の柱があったけど、もしかして結界だった……?』

『説明thx!』

 コメはこんな感じだった。これだけたくさんのコメは初めてなので驚いた。


『とりあえず……。じいちゃんと進んでみます。危なかったら引き返します』

 配信途中なので視聴者さんに話しかける。先に進むなんて怖いけれど……。

『引き返せ』というコメもあったけれど、せっかくなので行き止まりまで行ってみたい。


 「えっ!?」

 じいちゃんの手にはいつの間にか立派な刀が握られていた。

 「じ、じいちゃん! その刀はどうしたの!?」

 「扉の中に飾られてあった」


 『え? 本物の刀?』

『かっこいい――!』

『なぜ?』

『なんか出てくるフラゲじゃないよな……?』


  コメを見ると不穏なことが書いてあった。やだな……なんか出てこないといいな。

 俺とじいちゃんは前に進んだ。


『なんか……変ながします。生臭いような……』

 あまり嗅いだことのない、臭い。臭いので鼻をつまんだ。


『臭い?』

『屁した?w』

『生臭い? なんだろう?』


 「……お前は下がっていろ」

 じいちゃんは急に立ち止まって、刀を構えた。ピリピリとじいちゃんから警戒を感じ取った。

 「いったい……」

 俺が言いかけたとき、緑色の何かが飛び出してきたのが見えた。


 ギャギャギャ――――!


 『えっ!? あれ、ゴブリンじゃないか!?』

『うそだろ? ここ日本だよな?』

『本物!? 逃げて!』

『ヤバい! 逃げろ!』

『うわ! マジ!?』

 :

 :

またすごい速さで流れていくコメを見て、逃げなきゃと思った。

 「じいちゃん! 逃げよう!」

 俺は叫んだ! 

 なんで!? じいちゃんの家の裏山にダンジョンがあって、そんで、ゴブリンがいるの!?


 コメも『早く逃げろ!』と、たくさん書かれている。俺はじいちゃんの腕を引っ張って逃げようとした。


  「落ち着け。孫よ」

 ゴブリンの方を向いたまま、俺に穏やかに話しかけてきた。

 あまりにも落ち着いていたので俺は、じいちゃんの足がすくんで動けなくなったのかと思った。

 「動けなくなったなら、俺が背中に背負っていくから! 逃げよう!」


『早く逃げて!』

『やだ! ゴブリンが近づいてくるよ!』

『早く逃げろ!』

『逃げて――!』


 俺がじいちゃんの腕を掴もうとした時に、ザッと風が吹いた。

 「じいちゃん!?」

 逃げようと思って掴もうとした腕は空振りになって、じいちゃんはゴブリンの方へ向かって行った。


『じいちゃん!?』

『なぜ逃げないの!?』

『うそっ!?』

 『じいちゃん――――!?』


 俺は時間が止まったかと思った。走ってゴブリンへ向かって行ったじいちゃんは、まるで物語の勇者のようにゴブリンを刀で切り裂いていった。


『!?』

『え? マジ?』

『カッコイイ!』

『え? AI動画?』

 『ちがうw』

『本物?』

『マジ、ゴブリン倒している』

 :

 :

 :


 「何が……、おきているの……?」

俺は目の前の、じいちゃんが刀でゴブリンを迷いなく、切り裂いている姿を見て呆然としてしまった。


  ザシュ! ザシュ! という切り裂く音と、ゴブリンが倒れる一部始終を見て、信じられなかった。

 でもこれは……。


『これはけっして、CGでもないしAI動画でもないです……。俺も信じられないです……』

 それが俺の言える精一杯の言葉だった。


 『すげ――! 本物だってさ!』

『これ一体どこ?』

『特定班! 出番だぞ』

『スゴ……』

『リアル!』


 「これ……。生配信だけど、やめた方がいいのかな?」

 俺は震えながら言った。じいちゃんはバーサーカーのようにゴブリンを駆除していた。


 『うそ――やめるな!』

『このままお願いします!』

『大発見!』

『じいちゃん、スゴイ!』


 「何が何だかわからないけど……。じいちゃんを置いて逃げられないので、継続して配信します……」

 そうするしかない。俺が震えて、じいちゃんが戦っている姿を撮っているとゴブリンの数が減った。


『気をつけて!』

『じいちゃんを置いて逃げないなんて、えらい!』

『じいちゃん、すごくない?』

『マジ、戦っている……』

『頑張れ! じいちゃん!』

コメはじいちゃんを応援であふれていた。


 ギャギャギャ!

 ゴブリンがあと数匹と少なくなったとき、大きな鳴き声が聞こえた。

 「な、なに!?」

 見ると、数匹のゴブリンが逃げていくところだった。


『逃げていった?』

『じいちゃん、追い払ったのか!』

『ゴブリン、逃げた?』

『勝利?』


 「ど、どうやら、ゴブリンは逃げたようです……」

 俺は腰が抜けて、座り込んでしまった。でも配信はちゃんと映している。


 『うわあああああ――!』

『じいちゃん、すごい!』

 『勝利!』

『カッコイイ!』

『終わった?』

『リアル、ゴブリン討伐』

『わああああああ――――! オメ!』

『ゴブリン倒した!』

 :

 :


 「じいちゃん!」

 俺はじいちゃんに駆け寄った。

 「やつら、逃げていったらしい。もう大丈夫だ」

 じいちゃんは少し、ハアハア……と息を荒げていたけれど俺の頭を撫でてくれた。

「じいちゃん、ケガはない?」

 「ああ。ケガはない」

 疲れた顔をしていたけど、どこもケガをしてないようだった。


 『無事で良かった!』

『ケガもないようで良かった!』

『良かった!』

『じいちゃん……』

『すごいのを観せてもらった』

『ありがとう!』


『とりあえず。今のうちにダンジョンを出ます。奥に続いてあるみたいだけど、また違う日に調べたいです』

 俺はもうこれ以上、奥へ進めないと思って生配信をとめることにした。


 『ありがとう! すごいのを見せてもらったよ!』

『出来たらまた配信お願い!』

『また観たい!』

『これ大発見だろ?』『土地はじいちゃんのものだから大丈夫だろ』

『乙!』

『また~!』


 『では。ありがとう御座いました』

 俺はスイッチを切った。


 【配信は終了しました。】の文字が見えていた。――俺はじいちゃんと、ダンジョンから脱出した。


















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