『面白くなってきた!』
『ご先祖様が、代々守ってきたダンジョン……?』
『生配信で凄い発見ですね――!』
『え――? ヤラセじゃん?』
『奥に何があるの?』
『嘘くさい……』
『危なくないですか?』
『今北産業!w』
『どうなっている?』
『本当だったらすごい発見だけど?』
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『今、来た人へ。じいちゃんの家の裏山で
『じいちゃんと一緒に裏山探検したら、洞窟が見つかった』
『それが先祖代々守ってきたダンジョンらしい』
『入り口に水晶の柱があったけど、もしかして結界だった……?』
『説明thx!』
コメはこんな感じだった。これだけたくさんのコメは初めてなので驚いた。
『とりあえず……。じいちゃんと進んでみます。危なかったら引き返します』
配信途中なので視聴者さんに話しかける。先に進むなんて怖いけれど……。
『引き返せ』というコメもあったけれど、せっかくなので行き止まりまで行ってみたい。
「えっ!?」
じいちゃんの手にはいつの間にか立派な刀が握られていた。
「じ、じいちゃん! その刀はどうしたの!?」
「扉の中に飾られてあった」
『え? 本物の刀?』
『かっこいい――!』
『なぜ?』
『なんか出てくるフラゲじゃないよな……?』
コメを見ると不穏なことが書いてあった。やだな……なんか出てこないといいな。
俺とじいちゃんは前に進んだ。
『なんか……変な
あまり嗅いだことのない、臭い。臭いので鼻をつまんだ。
『臭い?』
『屁した?w』
『生臭い? なんだろう?』
「……お前は下がっていろ」
じいちゃんは急に立ち止まって、刀を構えた。ピリピリとじいちゃんから警戒を感じ取った。
「いったい……」
俺が言いかけたとき、緑色の何かが飛び出してきたのが見えた。
ギャギャギャ――――!
『えっ!? あれ、ゴブリンじゃないか!?』
『うそだろ? ここ日本だよな?』
『本物!? 逃げて!』
『ヤバい! 逃げろ!』
『うわ! マジ!?』
:
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またすごい速さで流れていくコメを見て、逃げなきゃと思った。
「じいちゃん! 逃げよう!」
俺は叫んだ!
なんで!? じいちゃんの家の裏山にダンジョンがあって、そんで、ゴブリンがいるの!?
コメも『早く逃げろ!』と、たくさん書かれている。俺はじいちゃんの腕を引っ張って逃げようとした。
「落ち着け。孫よ」
ゴブリンの方を向いたまま、俺に穏やかに話しかけてきた。
あまりにも落ち着いていたので俺は、じいちゃんの足がすくんで動けなくなったのかと思った。
「動けなくなったなら、俺が背中に背負っていくから! 逃げよう!」
『早く逃げて!』
『やだ! ゴブリンが近づいてくるよ!』
『早く逃げろ!』
『逃げて――!』
俺がじいちゃんの腕を掴もうとした時に、ザッと風が吹いた。
「じいちゃん!?」
逃げようと思って掴もうとした腕は空振りになって、じいちゃんはゴブリンの方へ向かって行った。
『じいちゃん!?』
『なぜ逃げないの!?』
『うそっ!?』
『じいちゃん――――!?』
俺は時間が止まったかと思った。走ってゴブリンへ向かって行ったじいちゃんは、まるで物語の勇者のようにゴブリンを刀で切り裂いていった。
『!?』
『え? マジ?』
『カッコイイ!』
『え? AI動画?』
『ちがうw』
『本物?』
『マジ、ゴブリン倒している』
:
:
:
「何が……、おきているの……?」
俺は目の前の、じいちゃんが刀でゴブリンを迷いなく、切り裂いている姿を見て呆然としてしまった。
ザシュ! ザシュ! という切り裂く音と、ゴブリンが倒れる一部始終を見て、信じられなかった。
でもこれは……。
『これはけっして、CGでもないしAI動画でもないです……。俺も信じられないです……』
それが俺の言える精一杯の言葉だった。
『すげ――! 本物だってさ!』
『これ一体どこ?』
『特定班! 出番だぞ』
『スゴ……』
『リアル!』
「これ……。生配信だけど、やめた方がいいのかな?」
俺は震えながら言った。じいちゃんはバーサーカーのようにゴブリンを駆除していた。
『うそ――やめるな!』
『このままお願いします!』
『大発見!』
『じいちゃん、スゴイ!』
「何が何だかわからないけど……。じいちゃんを置いて逃げられないので、継続して配信します……」
そうするしかない。俺が震えて、じいちゃんが戦っている姿を撮っているとゴブリンの数が減った。
『気をつけて!』
『じいちゃんを置いて逃げないなんて、えらい!』
『じいちゃん、すごくない?』
『マジ、戦っている……』
『頑張れ! じいちゃん!』
コメはじいちゃんを応援であふれていた。
ギャギャギャ!
ゴブリンがあと数匹と少なくなったとき、大きな鳴き声が聞こえた。
「な、なに!?」
見ると、数匹のゴブリンが逃げていくところだった。
『逃げていった?』
『じいちゃん、追い払ったのか!』
『ゴブリン、逃げた?』
『勝利?』
「ど、どうやら、ゴブリンは逃げたようです……」
俺は腰が抜けて、座り込んでしまった。でも配信はちゃんと映している。
『うわあああああ――!』
『じいちゃん、すごい!』
『勝利!』
『カッコイイ!』
『終わった?』
『リアル、ゴブリン討伐』
『わああああああ――――! オメ!』
『ゴブリン倒した!』
:
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「じいちゃん!」
俺はじいちゃんに駆け寄った。
「やつら、逃げていったらしい。もう大丈夫だ」
じいちゃんは少し、ハアハア……と息を荒げていたけれど俺の頭を撫でてくれた。
「じいちゃん、ケガはない?」
「ああ。ケガはない」
疲れた顔をしていたけど、どこもケガをしてないようだった。
『無事で良かった!』
『ケガもないようで良かった!』
『良かった!』
『じいちゃん……』
『すごいのを観せてもらった』
『ありがとう!』
『とりあえず。今のうちにダンジョンを出ます。奥に続いてあるみたいだけど、また違う日に調べたいです』
俺はもうこれ以上、奥へ進めないと思って生配信をとめることにした。
『ありがとう! すごいのを見せてもらったよ!』
『出来たらまた配信お願い!』
『また観たい!』
『これ大発見だろ?』『土地はじいちゃんのものだから大丈夫だろ』
『乙!』
『また~!』
『では。ありがとう御座いました』
俺はスイッチを切った。
【配信は終了しました。】の文字が見えていた。――俺はじいちゃんと、ダンジョンから脱出した。