それから数日、翔太はあの不良少女のことを時々思い出していた
でも会うことはなく、相変わらず『モテ期』の非日常に悩まされていた
「先輩、これ・・・」
ひなたが手作りのクッキーを差し出してきた
最近、彼女の翔太への気遣いはますます甲斐甲斐しくなっていた
でも、なかなか告白する勇気が出ないらしく、いつも言いかけて止まってしまう
「ありがとう、ひなた」
「あ、あの・・・先輩、今度の休みに・・・」
「翔太!!!」
美雪が現れた、ひなたの言葉を遮るように
「また世話になりっぱなしね、ちゃんとお礼しなさい」
「分かってるよ」
相変わらず美雪は翔太の面倒を見てくれる
でも最近、他の女子たちが翔太に近づくのを見ると、なんとなく機嫌が悪くなるようだった
「田中くん」
また別の女子が翔太に近づいてきた
「あの、私・・・田中くんのこと・・・」
「ごめん!!」
翔太は彼女の言葉を最後まで聞かずに断った
最近、こんなことが日に何度もある
罪悪感はあるけれど、どうしていいか分からなかった
「翔太、モテモテだなー」
友人たちにからかわれる一方で、他の男子たちからは嫉妬の視線を向けられる
教室にいるのが辛くなってきた
・・・・・
その夜、翔太はコンビニに買い物に出かけた
家に父親はいない、いつものことだ
コンビニで弁当を買って、外に出ると、駐車場で騒ぎが起きていた
「おいおい、そんなに冷たくするなよ・・・」
がたいの良い男が、バイクに跨ろうとする女の子に話しかけていた
男の周りには何人かの不良たちがいる
女の子を見た瞬間、翔太は息を呑んだ
あの時、ゲームセンターで翔太たちを助けてくれた不良少女だった
黒いライダースーツを着て、ヘルメットを小脇に抱えている
「一回だけでいいから、翔太とドライブしない?」
「興味ないね」
女の子の返事は素っ気なかった
「そんなこと言うなよ。翔太たち、この辺りじゃ有名な走り屋なんだぜ?」
「だから何?」
完全に相手にしていない、でも男たちは諦めない・・・どんどん距離を詰めてくる
周りには何人か通行人がいたが、みんな見て見ぬふりをして通り過ぎていく
翔太も正直、関わりたくなかった・・・知らないふりをして家に帰りたかった
でも、ゲームセンターで友人を助けてもらった義理がある
何より、女の子が困っているのを見過ごすわけにはいかない
翔太は意を決して近づいた
「おい、やめろよ」
男たちが振り返った
「あ?何だお前」
「彼女が嫌がってるじゃないか」
「関係ねえだろ、ガキが」
「関係ある!!!見過ごせない!!!」
翔太の声は震えていた・・・でも引くわけにはいかない
「生意気な野郎だな」
がたいの良い男が翔太に近づいてきた、拳を振り上げる
その瞬間だった!!!
バシッ!!!!
鋭い音と共に、男の顔面に女の子の蹴りが炸裂した
男は呆気なく気絶して倒れた
「おい、大丈夫か!!!!」
他の不良たちが慌てて男を介抱している間に、女の子は翔太の手を掴んだ
「乗って」
「え?」
「早く!!!」
翔太は慌ててバイクの後部座席にまたがった
女の子がエンジンをかける
「掴まって」
翔太は女の子の腰に手を回した
バイクが勢いよく走り出す
「ありがとう」
信号で止まった時、女の子が振り返って言った
「助けてくれて」
「当然だよ・・・君だって、この前、俺たちを助けてくれたじゃないか」
「私は桜井レナ、君は?」
「田中翔太」
「翔太ね、バイク乗るの初めて?」
「うん」
「どう?」
風を切って走る爽快感、エンジンの音、レナの体温・・・全てが新鮮だった
「気持ちいい」
「でしょ?私、この感覚が大好きなの、風と一体になって、どこまでも行ける気がするの」
レナの声には、普段の鋭さとは違う、純粋な喜びが込められていた
「この街の夜景、綺麗でしょ?」
「うん」
高台から見下ろす街の灯り。翔太はこんな景色があることを知らなかった
「バイクに乗ると、普段見えないものが見えるのよ・・・新しい世界が広がる」
レナは気まぐれに街を走り続けた・・・翔太は彼女の背中を見つめながら、不思議な安心感を覚えていた
「翔太の家、この辺り?」
「うん、あそこのアパート」
バイクが止まった・・・翔太は後部座席から降りる
「ありがとう、レナ」
「また一緒に走りましょう」
レナはヘルメットを被りながら言った
「今度は翔太が運転してみる?」
「えっ?」
「冗談よ・・・でも、いつかね」
バイクのエンジン音が夜の静寂を破って、レナは去っていった。
バイクの音を聞きつけたのか、美雪が家から出てきた
「翔太、今のバイクの音は?」
「あー、ちょっと知り合いに送ってもらっただけ」
「知り合い?男性?女性?」
「女性だけど・・・」
美雪の表情が変わった
「どんな人?どこで知り合ったの?怪しい人じゃないでしょうね?」
「大丈夫だよ。たまたま知り合っただけだから」
「たまたまって何よ!!!ちゃんと説明しなさい!!!!」
翔太と美雪の言い合いが始まった
でも、途中で美雪が黙り込んだ
「・・・ごめん。心配になっちゃって」
「別に怒ってないよ」
「翔太が危険な目に遭うんじゃないかって思って」
美雪の心配そうな表情を見ていると、翔太も気持ちが落ち着いた
「分かった、気をつけるよ」
「うん、それならいいの」
美雪は安心したような顔で家に帰っていった
翔太は首を傾げた
なんで美雪があんなに心配するんだろう?