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第7話 気づき始めた想い

翌朝、教室に入った翔太は、いつものように席に着いた


昨夜のレナとの会話が頭から離れない


彼女の壮絶な人生・・・兄を慕う気持ち・・・そして、翔太への告白


でも、それ以上に翔太の心に残ったのは、自分自身への気づきだった


翔太も父子家庭だ、母を亡くした時、翔太の生活はどうなっていたかもしれない


でも、美雪がいてくれた


朝ごはんを作ってくれて、掃除を手伝ってくれて、宿題を一緒にやってくれて


まるで母親のように、いや、それ以上に翔太の面倒を見てくれていた


なぜだろう?・・・幼馴染だからといって、ここまでしてくれる理由が分からない


「翔太、おはよう」


美雪が教室に入ってきた、いつものように、翔太の机の前に立つ


「今日の朝ごはんはちゃんと食べた?」

「うん」

「本当?」

「本当だよ」


美雪は疑わしそうに翔太を見つめた・・・でも、その表情がなんだか愛おしく感じる


「翔太、どうしたの?」


美雪が怪訝そうに首を傾げた


「なんで?」

「なんか、じーっと見てる」


翔太は慌てて視線を逸らした


でも、無意識に言葉が口から出ていた


「ありがとう」

「え?」


美雪は驚いた顔をした


「何に対して?」

「えっと…いつも色々と、ありがとう」


美雪は首を傾げたまま、でも少し嬉しそうに微笑んだ


「変な翔太」


・・・・・


美術部の活動中、翔太は集中してカンバスに向かっていた

筆を動かしていると、心が落ち着く


「先輩」


ひなたが翔太の横に近づいてきた


「お疲れ様です」

「お疲れ様、ひなた」

「あの・・・先輩」


ひなたは何かを隠すように背中に手を回していた


「これ・・・」


彼女が見せたのは、遊園地のペアチケットだった


「日曜日、もしよろしければ・・・一緒に遊園地に行きませんか?」

ひなたの頬は真っ赤だった


これまでで一番勇気を出した告白だったのかもしれない


翔太は最近の複雑な状況を考えた『モテ期』の騒動、レナとの出会い、美雪への気づき


少し気分転換が必要かもしれない


「いいね。行こう」

「本当ですか?」


ひなたの顔がパッと明るくなった


「ありがとうございます!」


・・・・・


それから3日後の昼休み


翔太は校内の緑が茂る休憩所で、一人で本を読んでいた


『ノルウェイの森』の続きだ


「田中くん」


上品な声に顔を上げると、生徒会長の雅が立っていた


「こんにちは、生徒会長」

「一人で読書ですか?」

「はい。静かで集中できるので」

「失礼してもよろしいですか?」


雅が翔太の隣を指さした


「どうぞ」


雅は上品に腰を下ろした


「村上春樹、いかがでした?」

「面白いです、でも、少し複雑で」

「分かります、彼の作品は心の機微を繊細に描きますからね」


翔太たちは本について語り合った


雅の文学に対する知識は深く、翔太も刺激を受けた


「田中くん」


しばらくして、雅が口を開いた


「もしよろしければ、お時間のある時に、私の家でディナーをいかがですか?」

「え?」

「父も母も、田中くんにお会いしたがっているんです。私が話したものですから」


雅の家は資産家で、父親は代議士だという話は聞いたことがある・・・執事や女中さんもいるような屋敷だとか


「でも、そんな立派なお宅に・・・」

「大丈夫です。父も母も気さくな人ですから」


翔太は迷った


「一度、考えさせてもらえますか?」

「もちろんです。お返事はいつでも結構ですので」


・・・・・


その日の帰り道、翔太は美雪に相談した


「生徒会長の家でディナー?」

「うん。どう思う?」


美雪は少し考えた後、あっけらかんと答えた


「いいんじゃない?せっかくの機会だし」


でも、翔太には分かった

美雪の表情には微かな動揺があった

いつものような自然さがない


「本当にいいと思う?」

「うん、翔太がそうしたいなら」


美雪は笑顔を作ったが、どこか無理をしているように見えた


「分かった。行ってみるよ」


翔太は雅に返事をして、二週間後にディナーをすることになった


・・・・・


日曜日、翔太とひなたは約束通り遊園地に向かった


「わあ、すごい!」


ひなたは子供のように目を輝かせていた

その純粋な喜びを見ていると、翔太も自然と笑顔になった


「何から乗りましょうか?」

「ひなたが決めていいよ」


翔太たちはジェットコースター、観覧車、メリーゴーランドと、様々なアトラクションを楽しんだ


園内の動物園では、可愛い動物たちに癒され、植物園では美しい花々に感動した


「先輩、楽しいです」


ひなたの笑顔が眩しかった


「翔太も楽しいよ」


久しぶりに、『モテ期』のことを忘れて純粋に楽しめた一日だった


遊園地が閉園し、翔太たちは帰路についた


夕日が綺麗に沈んでいく


「あ、公園があります」


ひなたが指さした先に、小さな公園があった


「少し休憩しませんか?」

「いいね」


翔太たちは公園のベンチに座った


「今日は本当に楽しかったです」

「俺もだよ、ありがとう、ひなた」


ひなたは深呼吸をした。そして、翔太の方を向いた


「先輩」

「うん?」

「私・・・先輩のことが好きです!」


ひなたの声は震えていたが、はっきりと響いた


「付き合ってください!」


翔太は動転した!!!予想はしていたが、実際に告白されると、どう答えていいか分からない


「私が先輩を好きになった理由・・・聞いてください」


ひなたは一生懸命に話し始めた。

「入部した時から、先輩の真剣に絵を描く姿が素敵だなって思ってました、集中してる時の横顔、作品について熱く語る時の目の輝き・・・全部が魅力的でした」


「ひなた・・・」


「先輩は優しくて、後輩の私にも分け隔てなく接してくれて、そんな先輩と一緒にいると、安心できるんです」


ひなたの告白は真摯で、とても嬉しかった


彼女は学年でも人気があり、何人もの男子に告白されている


そんな彼女が翔太を選んでくれた


でも・・・


また美雪のことが頭に浮かんだ


ひなたは入部してから、ずっと、翔太に甲斐甲斐しく尽くしてくれた


でも美雪は、幼い頃から10年以上も翔太の面倒を見てくれている


今でも、まるで家族のように翔太を気遣ってくれる


なぜ翔太は、美雪のことばかり考えてしまうんだろう?


「ひなた、ありがとう」


翔太は慎重に言葉を選んだ


「君の気持ち、とても嬉しい、でも・・・少し時間をもらえるかな?」

「はい」


ひなたは少し寂しそうだったが、笑顔で頷いた


「待ってます・・・先輩の答えを」


翔太の心は複雑だった・・・素敵な女の子からの告白なのに、なぜ素直に喜べないんだろう


美雪の顔が、頭から離れなかった


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