ひなたの告白から三日が経った・・・翔太はその間、ずっと悩んでいた
学校の授業が終わり、家に着くと、見慣れた黒いバイクが停まっていた
レナが翔太を待っていた
「翔太、お疲れ様」
「レナ、どうしたの?」
「一緒にバイクに乗らない?」
いつものように、翔太はバイクの後部座席にまたがった
風を切って走るバイクは、またあの山頂へ向かった
街の灯りが宝石のようにきらめく、レナのとっておきの場所だ
「綺麗だね、やっぱり」
「でしょ?」
レナはバイクから降りて、翔太の隣に座った・・・しばらく黙って夜景を眺めていたが、やがて口を開いた
「翔太」
「何?」
「この前話したこと、覚えてる?」
「兄さんの話?」
「そう。私、兄みたいな人と一緒になりたいって言ったでしょ?」
レナは翔太を真っ直ぐ見つめた・・・
「翔太、付き合って欲しい」
はっきりとした告白だった
「私、本気よ・・・翔太となら、きっと幸せになれる気がする」
翔太は困惑した
レナの真剣な眼差しに、冗談ではないことが分かった
「レナ・・・」
「すぐに返事しなくてもいい・・・でも、考えて欲しい」
「少しだけ待ってもらえる?」
「うん・・・返事を待ってる」
レナは寂しそうに微笑んだ
これで二人目だ・・・ひなたに続いて、レナからも告白された
翔太はどうすればいいんだろうと・・・
・・・・・
そして、約束の日がやってきた・・・生徒会長・雅の家でのディナーだ
白鳥家の屋敷は、想像以上に立派だった
門の前で緊張していると、執事の方が現れた
「田中翔太様でいらっしゃいますね・・・お待ちしておりました」
丁寧にエスコートされ、屋敷の中に入る
廊下の長さ、天井の高さ、調度品の豪華さ・・・すべてが翔太の想像を超えていた
「翔太くん、いらっしゃい」
雅が迎えに来てくれた
いつもの制服ではなく、上品なワンピースを着ている
「こちらです」
雅に案内されて、ダイニングルームへ
大きなテーブルには、雅の両親が座っていた
「お父様、お母様、田中翔太くんです」
「はじめまして、田中くんだね・・・娘から色々と伺っていますよ」
雅の父は思っていたより気さくな印象だった
代議士という肩書きから、もっと威圧的な人を想像していたが、全く違った
「雅がお世話になっています」
雅の母も穏やかで上品な女性だった
「いえ、こちらこそ」
翔太は緊張で声が震えた
屋敷の大きさ、女中さんたちの多さ、すべてが非日常的だった
「緊張しなくて大丈夫ですよ・・・今日は家族として迎えたいと思っています」
雅の父の言葉に、少し気持ちが楽になった
ディナーが始まった
翔太のぎこちないテーブルマナーを、家族は暖かく見守ってくれた
「田中くん、読書がお好きだと聞きましたが」
「はい。最近は村上春樹を読んでいます」
「いい作家ですね。私も愛読しています」
雅の父との会話が弾んだ
「実は私たちも、最初からこんな生活だったわけではないんです」
雅の母が微笑みながら話してくれた
「私の父は町工場を経営していて、決して裕福ではありませんでした・・・主人も、苦学生でした」
「多くの方々に助けられて、ここまで来ることができました・・・だから、人との繋がりを大切にしているんです」
雅の父の言葉に、翔太は感動した
「雅も、そんな環境で育ったから、あんなに優しい子に育ったんでしょうね」
なるほど、雅の人柄の良さの理由が分かった気がした
女中さんたちに対する接し方も、まるで家族のように大切にしている
決して上から目線ではなく、感謝の気持ちを忘れない。
でも・・・
女中さんたちが翔太たちの世話をしている姿を見て、ふと美雪のことを思い出した。
確かに女中さんたちの気配りは素晴らしい・・・
でも、どこか機械的で無機質な感じがする・・・
それに比べて美雪は・・・
美雪が翔太の世話を焼いてくれる時、そこには確実に好意があった
機械的ではない、温かい感情があった
雅やその両親は、女中さんたちの好意を感じたことがあるだろうか?きっと、プロとしての仕事と、個人的な好意の違いは分かっているはずだ
そんなことを考えながらも、翔太は白鳥家の温かい雰囲気に包まれ、自然体で会話を楽しんだ
「また是非、いらしてくださいね」
「ありがとうございました」
翔太は心から感謝したのだった
・・・・・
翌日、翔太は生徒会室に呼ばれた
「昨日はありがとうございました」
雅が上品に微笑んだ
「こちらこそ、素敵な時間をありがとうございました・・・両親も、田中くんをとても気に入っていました」
「光栄です」
雅は少し緊張した様子で、翔太の前に座った
「田中くん」
「はい」
「私・・・あなたと一緒にいると、とても自然でいられるんです」
雅の頬が薄く染まった。
「普段、皆さんは私を特別視して、緊張して接してくださいます・・・でも、あなたは違う、普通に接してくれる」
「それは・・・」
「趣味も合いますし、話していて楽しいです。だから・・・」
雅は意を決したように翔太を見つめた
「私と付き合ってくださいませんか?」
三人目だった・・・ひなた、レナ、そして雅と
三人の素敵な女性から告白された・・・
「雅さん・・・」
「お返事は急ぎません・・・ゆっくり考えてください」
翔太は頭を抱えそうになった
どうしてこんなことになったんだろう・・・