ネジは新聞師の青年を見る。
おどおどしていて、ちょっと小柄だ。
腕に腕章をしている。
腕章の色は緑。
「あの…」
じっとネジが見ていると、
新聞師が消え入るような声で言い出した。
「中に入りたいんですけど…」
ネジはやっと気がついた。
真っ赤な前髪の真っ黒な聖職者と、
黒が多い仏頂面の執事。
二人で入り口ふさいでいたら、入れないのだ。
ネジがそっとよけると、
新聞師は小さくなりながら中に入って、
「あの、用件ありましたら、どうぞ」
と、ようやく普通の人並みの音量で話し出した。
「えっと、地図がほしいんだ」
ネジが話し出す。
「地図ですね。いろいろ種類がありますけど」
「うーん」
ネジは悩む。
種類があるといわれても、ちんぷんかんぷんだ。
「とりあえず中にどうぞ」
新聞師が招く。
ネジとサイカは店の中へと入った。
中はごちゃごちゃしている。
いたるところにメモが飛んでいる。
貼り付けてあるメモもある。
そして、奥にデンと置かれた機械。
「伝道機?」
ネジが指差しながらたずねる。
「はい!」
新聞師はちょっとだけ誇らしげに答える。
「ふぅん…」
ネジは伝道機を眺める。
青白い歯車がある以外は、
どんな仕組みなのかぜんぜんわからない。
新聞師はメモを拾い集めながら、椅子を出してくる。
「そのメモは?」
「ああ、これですか?これは取材のメモです」
「しゅざい?」
「この町のことを取材して、メモに残して、中央に送るんですよ」
「一大事とか?」
「そうです。そして、中央が記事を選んで、新聞が送られてくるんです」
「へぇ…」
新聞師はあらかた落ちていたメモを集めた。
「まぁどうぞ、今、地図の一覧持ってきますね」
ネジとサイカはすすめられるままに椅子に座る。
「新聞師っていろんなことしてるの?」
ネジが奥に引っ込んだ新聞師にたずねる。
「いろんなことします。取材して、伝道機使って、新聞配って、でも…」
「でも?」
「誇りを持って仕事してます。いろんなことをみんなに伝えようと」
「それはいいね」
ネジは手放しでそう思った。
誇りを持った仕事。
それはとてもいいことだ。
「あった」
小さく新聞師がつぶやくのが聞こえた。
まもなく新聞師が奥からやってくる。
「地図には何種類かありますので、この中から選んでください」
「あー…サイカ選んで」
ネジはリストをサイカに渡す。
サイカは受け取り、目を走らせる。
時々眼鏡を上げる。
「すべてのグラス、および町まで網羅したのは?」
「上から四番目までですね」
「この四種は何が違う?」
「サイズですね。上のは広いところがないと広げられません」
「四番目のは?」
「伝道機で本の形にしてあります。ページごとの地域はちょっと限られます」
「では、それで頼む」
「わかりました」
サイカがリストを返す。
新聞師はうなずき、リストを戻すと、
伝道機の前に座った。
がちゃり。
新聞師が青白い歯車に手をかける。
「こちら、グラスチーラ・マーヤの新聞師。資料を求めます」
少しだけ間がある。
そして、伝道機が動き出した。
じじじ…と、かすかに震えるような音がする。
紙が出てきた。
新聞師はそれを受け取る。
「ええと、必要な資料、地図の四、部数一部と…」
いいながらさらさらと新聞師はしるす。
そして、伝道機の端っこから、紙を入れる。
じじじ…紙がゆっくり吸い込まれる。
「これでよし」
新聞師はうなずく。
ネジにはちんぷんかんぷんだ。
「これはどういうことなの?」
「資料をくださいというのをやっただけですよ」
「へぇ…」
「あとは伝道機が製本までしてくれます」
「すすんでるなぁ」
「こういう仕事がしたくて、新聞師になったんです」
新聞師ははにかんで笑った。