ジデの町から帰ってきて、
窓の外は夕焼けになっている。
出発は明日だろうか。
トランプがネジとサイカを見つける前に、
別のグラスに行くなりしたほうがいいかもしれない。
ネジはシングルベッドに腰掛ける。
荷物の中から地図を取り出し、
ペンで旅の足跡をつける。
トーイの町、ジデの町、
グラスシャンは、海ばかりのグラスだ。
地図で改めてみると、
島が点々としていて、
この島を翼機や船が結んでいる。
地図で見ればたいした距離でない。
それでも長いと感じるのは、あてのない旅だからだろうか。
茜色の窓の光。
ネジは地図を閉じる。
サイカは次にどこに向かうのだろう。
何でネジを連れているのだろう。
ネジの少ない記憶に、サイカはいつでもいる。
守るように導くように。
どこへ行きたいのだろうか。
何をしたいのだろうか。
ネジはサイカがわからない。
いいやつだとは思うけれど、
けれど、ネジはサイカのことを何も知らない。
ネジはベッドに転がった。
ため息をひとつ。
一体どこに行こうとしているのだろう。
でも、ネジにもわかることがある。
きっと、いずれは中央に行かねばならないのだ。
中央を敵に回すとかじゃないけれど、
多分、ネジの記憶のかけらみたいなものが、
きっと中央にある。
ネジはそんな気がした。
帽子屋と三月ウサギのことがあると、
中央は大変なことになっているという。
サイカがそんなことを言っていた。
号外にもまだ載らないのだから、
そんなに大変なことじゃないのかもしれないし、
もしかしたら、中央が混乱を避けるために隠しているのかもしれない。
そもそもネジは帽子屋と三月ウサギを知らない。
ネムリネズミのトリカゴみたいに、
何かの役割なのかもしれない。
ウサギということは、すごい能力のものなのかもしれない。
シロウサギのトビラ。
それが中央で権力を持っているらしい。
偉そうなトランプよりも多分偉い人。
トランプのフラミンゴなら、ネジでもラプターで壊せる。
でも、中央を敵に回したとして、
トビラと戦ったら勝てるかなとネジは考える。
無理かなぁとも考える。
中央のやり方は、
命を道具にしたりして、
ネジはあんまり好きじゃない。
平和にしたかもしれないけど、
何でだか好きじゃない。
決定的に何というわけじゃないけれど、
ネジは自分が中央側の人間ではないなぁと思う。
そしたら多分トビラは敵になる。
ウサギクラス。ものすごい能力を持っていること。
そして、出てくると大変な、帽子屋と三月ウサギ。
それらを相手にして勝てるだろうか。
「無理だなぁ…」
ネジはため息をつく。
中央を相手に戦いを仕掛けるのは、
無謀だとネジは結論付けた。
でも、すべてを中央にゆだねるわけじゃない。
ネジの目で見て、
考え抜いた挙句に、
それでも中央の作った平和が、だめだと感じたら、
そのときは戦おう。
喜びの歯車で喜びのあふれた世界。
その世界を壊すことのほうが悪いように感じる。
ネジは何を目指すべきかが、わからなくなってきた。
こんなときにサイカだったらなんと言うだろう。
導いてくれるだろうか。
ヒントを出してくれるだろうか。
知ってることを教えてくれるだろうか。
はぐらかさないでくれるだろうか。
それとも、どれでもないだろうか。
ネジはじっとベッドに横たわる。
遠くで町の音が聞こえる。
声、音、潮騒。
窓の外は茜色から夕闇へと変わっていった。
ネジの意識は、内側に向かう。
ゆっくりと時計の歯車が回っている感じ。
ああ、自分の中に宿る時計を感じているんだなと、
ネジはおぼろげに思う。
透明の歯車がゆっくり刻みを入れている。
ネジの意識は透明の歯車に向かう。
この歯車が回りだすと、時々胸が痛くなる。
なんでだろう。
みんなにはないんだろうか。
ネジの目の前から、何もなくなる。
どうやら眠ったんだなと、ネジの意識の切れ端がそう感じた。