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第12話 一つの結論にたどり着きました。

 レオノールはベッドに突っ伏し、盛大にため息をついた。

(……もうダメだ。逃げられない)

 婚約は受け入れるしかないという結論になった以上、もはや抗う術はない。

 それに、公爵家の立場もあるし、王家の申し出を真正面から断るのは現実的ではない。

 はたから見れば、第一王子の婚約者になれるというのは貴族令嬢にとっては最高の名誉。

 そう、もし自分が“本当に”女性ならば。

「はぁ……」

 レオノールは自分の手を見つめる。

 細く、しなやかな指先。

 どこからどう見ても少女の手だ。

 鏡に映る自分の姿を思い出す。

 淡いプラチナブロンドの髪に、翠の瞳。

 艶やかで、気品のある貴族令嬢そのもの。

 だが、自分は男だ。

 この世界に“性転換の魔法”でもなければ、王妃になどなれるはずがない。

(……いや、待てよ?)

 ふと、レオノールはゲームの『レオフィア・サヴィア』のことを思い出した。

 レオフィアはゲームの中では典型的な悪役令嬢だった。

 ヒロインに対して、これでもかと嫌がらせをしてきた。

 ただ、その嫌がらせの内容を思い出してみると——。


「平民のくせに王子に近づくなんて、おこがましいですわ」

「まあ、成績がその程度では仕方ありませんわね」

「この程度の魔法もできないなんて……失望しましたわ」


 他の攻略キャラのルートでも嫌味を言うことはあったが、ヴァンツァーがいる場面では特にキツイ態度を取っていたような……。

 ヒロインがヴァンツァーに助けて貰ったお礼だと言って、クッキーを渡そうとしたときに「こんなモノを殿下に食べさせようとするなんて!」と言ってカゴごと地面に叩き落としてた。

(……あれ? これってもしかして……)

 レオノールの思考が急速に加速する。

(レオフィアの嫌がらせって、全部ヴァンツァーがいるときだけじゃなかったか?)

 それも、やたらとヒロインに絡んでは、自ら悪役ムーブをしていたような……。

 そして最終的に、ヴァンツァーに婚約破棄を言い渡される。

(まさか……レオフィアって、王子との婚約破棄を狙ってたんじゃ……?)

 そう思った瞬間、背筋が凍る。

(ってことは、レオフィアももしかして『男』だったのか!?)

 いやいやいや、それはさすがにありえない。

 ……だが。

 今の自分の姿を思い出す。

 華奢で、可憐で、どう見ても少女のような外見。

(……『男』、だよな……?)

 そんなことを考えていると、ふと姉との会話が頭をよぎった。


『なんでこんな短期間にクリアしなきゃなんねぇんだよ』

『完全クリアしてたデータが欲しいのよ。推ししかクリアしてなくてさ。他のキャラクリアするのめんどいし。来週出る続編にその完クリデータ読み込むと追加シナリオが発生するらしくてさぁ。それがもう、なかなかいい話らしくて』

『ああ、もういい。クリアすりゃいいんだろう』


(……まさか)

 レオノールはゴロンと仰向けになり、天井を見つめる。

(あの追加シナリオって、レオフィアの正体がレオノールって話だったんじゃないのか!?)

 それで続編に『レオノール』が出てくる、とか……。

「うわぁぁぁ!!」

 思わず頭を抱えて転げ回る。

(なんでオレだけそんな重要な裏設定を知らないんだよ!? こんな裏設定があるなんて聞いてない!!)

 でも、もし本当にレオフィア=レオノールだったとしたら……?

 今の自分は、ゲームのレオフィアの役割をそっくりそのままなぞっている。

(ってことは、オレはこれからヴァンツァーの婚約者になって……最終的に婚約破棄を目指せばいいってことか?)

 それなら、ゲームのシナリオ通りにいけば、自分は婚約破棄を勝ち取れる。

 ただし、ゲームの舞台となる学園に入学するのは十五歳。

 今はまだ八歳。

(……あと七年もあるじゃねぇか……)

 レオノールは再びベッドに突っ伏した。

(それまでにできることはやらないとな……)

 七年間で、自分ができること――。

 できる限りヴァンツァーに惚れられないようにする。

 婚約破棄に持ち込むための布石を打つ。

 もしものために、貴族社会で生き抜く知識を身につける。

(……はぁ……長い戦いになりそうだ)

 レオノールはもう一度、深いため息をついた。


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