目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第十話 求めあう ※海璃視点



 シャワーで濡れた髪の毛から雫が伝う。頬に触れ髪に触れ、肌に触れながらしばらく長く深い口づけを交わし続けた。執拗に絡み合っていた柔らかい舌と唇がゆっくりと離れていき、夢中になりすぎて遠のいていたシャワーの音が急に耳に戻って来る。


 白兎はくとの表情はとろんとしていて、今にも膝から崩れ落ちそうだった。それを支えるように腰に腕を回し、ぐいと自分の方へとさらに隙間なく抱き寄せる。お互いの体温がやけにあたたかく感じる。のぼせそうなほどだ。


「····海璃かいり····も、····俺······っ」


 途切れ途切れで舌足らずな白兎の言葉と、その先を求めるように訴えてくる瞳に引き寄せらせる。触れればもう立ち上がっている白兎を、もう片方の手で弄ぶように上下にゆっくりと動かして。早くイキたいのにじらされて、もじもじとしている白兎の首筋に顔を埋めた。


「白兎の肌って、こうやってあったまってくるとピンクになって可愛い、」


 そう耳元で掠れた声で囁き、そのまま耳の奥に舌を入れた。


「····な、に····? それ、や、だ······んん····っ」


 その行為で一気に感じたのか、なまあたたかい白濁が俺の手の中に広がった。射精して力が抜けたのか、がくがくとしている白兎を落とさないように片腕で強く抱きしめ、耳から舌を放してそのまま首筋を甘嚙みする。びくん、と震えて咄嗟に俺にしがみ付いてきた白兎に満足し、俺は口元を緩めた。


「続きはベッドでいい?」


「······海璃の、まだ、」


「俺のはあとで大丈夫」


 まあ、このままバスルームでするのもありだけど、どうせならベッドでゆっくり白兎としたいかな。今のは衝動的な行為だったし、立ったままは白兎がつらいだろ?


 シャワーを止めると声がよく響いた。白兎を抱っこしたまま湯船に浸かり、俺はずっと気になっていたことを口にする。


「あのさ、さっき一緒にいた同僚のひとのこと、訊いていい?」


 俺は不覚にもその男の顔を見ていない。どういうひとなのかもわからない。同じ職場にいるということは、俺の知らない白兎を知っているということ。嫉妬しないわけがない····けど、今後のためにも情報収集はしておきたい。それに、吉野さんが言っていたことも確かめずにはいられなかった。


『七瀬くん、今の子がもしかして君の言ってた"大切な恋人"かな? でもあの子、隣にいた男性ひとと手を繋いでどっかに行っちゃったみたいだけど····』


 そのひとと白兎は、本当に手を繋いでいたのかどうか。


 いや、ちょっと待った····それが本当だったら俺、どういう気持ちで受け止めたらいいんだ? 白兎のことだから、なんの気なしにたまたまそこにあった手を掴んで走り去っただけかも? けど、もしそれが一緒にいたひとの方からだったら話は変わって来る。とりあえず一回会って牽制しとくべきか? 


「····海璃? どうしたの?」


 訊いていい? から急に黙った俺を不思議に思ったようで、白兎が首だけこちらに回して見上げてくる。心の声が長すぎたようだ。


「あー····えっと、そのひとってもしかして年上?」


「うん。二十八歳っていってたと思う。水瀬蒼士みなせそうしさん。前は大手のイベント会社に勤めてたらしいよ? どういう経緯かわからないけど今の職場に転職して、職員さんたちの相談員兼事務になったみたい。甘いものが好きで、聞き上手で。俺の話も親身に聞いてくれて。俺が後悔したりしないように、ちゃんと海璃と話をするように言ってくれたんだ」


 なにその完璧ないいひとポジション。

 白兎、ホントになにもされてないよな?


「恋人以外にそんな顔見せたら駄目だよ、って。自分が悪い大人のふりをしてみせて、わからせてくれたり····って、海璃?」


 それって本当に親切心からだけか?

 ってか、白兎····いったいどんな顔してたんだ?


「俺も会ってみたいな、そのひとに」


 会って、知ってもらう必要がありそうだ。俺たちはなにがあっても離れないし、別れるなんてことは絶対にありえないってことを。


 白兎は俺のだってことも。


「う、うん? なんか楽しそうだね····あ、じゃあ来月の親睦会に誘ってみる?」


「それもいいかもな。知り合い四人くらいまではいいらしいから。雅に詩音に水瀬さん? 白兎で四人、決まりだな」


 雅たちがいるから白兎とそいつがふたりきりにはならないし、俺が近くにいなくてもとりあえず安心だよな。先に詩音に話を通しておけば、彼女がなんとかしてくれるはずだ。


 風呂から上がり髪を乾かした後、バスタオルを巻いたままベッドにふたり横になった。ベッド脇のライトの明かりを薄暗くして、俺は白兎を下にして組み敷いた。両手の指と指を絡めるように繋いで、そのまま顔を近づけていく。


「海璃の、手····あたたかくて好き」


「白兎のは冷たくて気持ちいい」


 お互いの温度が重なり合うように、溶け合うように、混じり合うように。


「····ん······はあ、····あっ······や、それ····やだ····っ」


 白兎の良いところはぜんぶ知ってる。

 白兎の「やだ」は「いい」だから。


「····かい、り······も····いっしょ······」


 とろとろにほぐれた白兎の奥まで進んでいく。


 ひくひくと中が痙攣しているのか、突き上げるたびに白兎が声を漏らして震える。いつもなら恥ずかしがって自分の腕で顔を隠すけど、今は俺の指に絡めとられているせいでもどかしそうだ。しかしもうそんな余裕もないのだろう。喘ぎ声が大きくなり、呼吸も荒くなっていく。俺ももう····。


 お互いに疲れていたせいもあって、ぐったりしている白兎の後処理をしてあげた後、行為の後でまだ火照っている身体をそっと抱き寄せて、深い眠りについた。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?