「……なにかしら、これ?」
いつものようにエミリーが学園に登校してくると、机の上に自分宛の手紙が置かれていた。
「差出人は、アンナから?」
封筒を手に取り裏返してみると、そこには幼馴染の名前が書かれていた。
「わざわざ手紙なんて……。同じクラスなのだから面と向かって話をすればいいのに」
エミリーが首を傾げながら手紙を見つめていると、教室の入り口からアンナが姿を現した。
「おはよう。ちょうど良かったわ」
これはなにかしら、とエミリーはアンナに声をかける。
しかし、彼女はふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
アンナはエミリーと言葉を交わすことは、どうしても嫌なようだ。エミリーは仕方なく手紙を開封することにした。
「絶縁状って、これはどういうことなのアンナ?」
手紙を開いて最初に目に入った言葉を見て、エミリーはつい大きな声が出てしまった。
すると、教室にいる生徒たちが一斉にアンナへと視線を向ける。
大勢に見つめられた彼女は、顔を真っ赤にしてエミリーを睨みつけてきた。
「あらあら、ちょっと待ってちょうだいな」
視線に耐えられなくなったのか、アンナは教室を飛び出して行ってしまった。
エミリーはアンナの背中に声をかけるが、あっという間にいなくなってしまう。
「えーっとどれどれ。アンナ・ニルセンは今後いっさいエミリー・ゲレンダールとの関わりを持つことをやめることにいたしますって……、ナニコレ。すごく馬鹿らしいわね」
突然の出来事に呆然としているエミリーから、友人が強引に手紙を奪い取る。友人はそのまま手紙を読み上げはじめてしまった。
教室中に響く大きな声ではっきりと話すので、エミリーは慌てて唇に人差し指を当てるが、友人は止まらない。
「絶縁の理由は、ルカス・イングスタット様との婚約を私に隠していたこと、ですって」
そこまで手紙を読んだ友人が、たまらず笑いだした。
「あははははは! 婚約を隠していたって、そんなの当たり前のことじゃない」
「ちょっと、そんな大きな声で話さないでってば。みんなに聞こえちゃうわ」
エミリーは友人を落ち着かせようと声をかける。
しかし、周囲でやり取りを見ていた級友たちが、友人の言葉に同意するように頷いているのを見て諦めた。
「お互いの親が決めた婚約でしょ。家同士が内々に進めていたことを、娘がぺらぺらと周りに話すわけがないっての」
エミリーは笑い転げる友人から、黙って手紙を奪い返す。
友人はやれやれと肩をすくめながら話を続けた。
「とはいえさ。イングスタット家とゲレンダール家の婚約の話は発表前から噂になっていたわよ。アンナはなにも知らなかったのかしら?」
「あまり人の話を聞かない子だから……ね?」
「……ああ、知らなかったわけね」
エミリーは友人と深く溜め息をついた。