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第2話

絶縁状


 アンナ・ニルセンは今後いっさいエミリー・ゲレンダールとの関わりを持つことをやめることにいたします。

 理由はルカス・イングスタット様との婚約を私に隠していたことです。


 朝刊にあなたの婚約のことが書かれていました。

 新聞であなたの婚約を知った私の気持ちがわかりますか。

 あなたと私は幼馴染です。幼馴染は親友でしょう?

 大切なお友達だと思っていたのは私だけだったのかしら。


 私は些細なことだってあなたに話をしてきました。

 親友だったらどんなことでも教え合うのは当たり前でしょう?

 婚約はとても大事なことよ。それを私に秘密にするなんてひどいわ。

 親友だったら相談するべきじゃない。

 私は誰よりもあなたのことを理解しているのに……。


 私の気持ちをあなたは踏みにじったのです。

 だから私はあなたと縁を切ります。

 今後あなたの身になにが起ころうと私は助けてあげません。

 あなたがどんなに困ったことになっても絶対です!

 覚悟をしておいてください。



 手紙を読み終えたエミリーは頭を抱えた。


「……これって、縁を切ると言いながら私になにかしてくるつもりなのかしらね?」


 アンナとは幼い頃から付き合いがある。エミリーは彼女を幼馴染であることは認めている。

 しかし、親友と呼べるほどの距離感で接していたつもりはなかった。アンナとはあまりに価値観が違いすぎるのだ。それはこの絶縁状の内容をみても明らかなことである。


「アンナがよからぬことをするつもりだったとしても、誰も取り合わないと思うわよ」


 手紙を読んでいたエミリーを見ていた友人が、呆れた顔をして言った。

 級友たちも友人に同意するように次々と話しだす。


「こう言っては悪いけれどね。エミリーがあの子と親しいと思っていたから、皆もアンナと付き合っていただけというか、ねえ?」

「アンナがエミリーとの付き合いをやめると言うなら、こちらもあの子と接することをやめるだけよね」

「私たちエミリーは好きだけど、アンナのことはそうでもないから」


 級友たちの発言に、エミリーは愕然としてしまう。

 言葉を発せなくなってしまったエミリーに、友人が優しく声をかけてきた。


「誰にも相手にされないとわかったら、アンナもすぐに諦めるわよ。あなたはなんにも心配することないわ」


「……そう、ね。いくらアンナでも……」


 エミリーがどうにかして笑顔を作って話をはじめたとき、教師が教室内に入ってきた。

 友人たちは会話を切り上げると、慌てて席につく。


「ニルセン、アンナ・ニルセンはどうした?」


 教師が点呼を取る。

 アンナは飛びだして行ったきり、教室に戻ってきていない。


「ゲレンダール、ニルセンはどうした?」


 教師は当たり前のように、エミリーにアンナのことを尋ねてくる。

 教師もエミリーとアンナが親しいと思っているのだ。


「……さあ。私にはわかりませんわ」


「そうか。ゲレンダールがわからないなら仕方ないな」


 教師はエミリーの発言を素直に受け入れた。やれやれと頭を振ると、さっさと授業を始めたのだった。



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