目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

索敵手段

……………………


 ──索敵手段



 日本海軍は複数のドローンを保有していた。


 ひとつは沿岸部の偵察や対潜任務を装備のオプション次第で行える中型ドローン。これはアメリカ海軍が2000年代に導入したMQ-8ファイアスカウトを大型化したようなものになっている。海軍も人手不足で、艦艇に所属する飛行隊の人間が揃わないため無人化しているのだ。これも強力なレーザー通信で交信することで電子妨害を無力化している。


 そして、水中用のドローンも保有している。群れを成す魚のように行動し、対潜任務や機雷除去を行うドローンは多く配備されている。アジアの戦争で機雷が無差別にばら撒かれたため、戦後の機雷除去のために活躍した経緯がある。


 後は陸軍や情報軍が保有している戦術級の小型ドローン。これこそまさに貧者の空軍に分類される脆弱なドローンだ。ハンドローンチ手投げ式のドローンや内蔵された二重反転ローターで駆動する折り畳み式の球状のドローン。これらは民兵や海賊、テロリストでも電子妨害で作戦不能にさせられるだけの強度しかない。


 そして、十分な電子防護ECCMを行うような装備を付ければ、価格が上がり、使い捨てにできなくなるし、敵に鹵獲された場合に機密漏洩が起きる。


 何せ、ドローンを使うのは先進国だけの特権ではないのだ。第三世界の軍隊だろうと、民兵やテロリストだろうとドローンを使う。中国で製造された5000円かそこらのドローンにカメラを取り付けたり、あるいは爆弾を取り付けたりするだけで武器になるのだ。


 久隆たちも敵のドローンを妨害するのに携行型の電子妨害装置を持ち歩いていた。民生用のものをちょっと改造した程度のドローンならば簡単に制御不能になって墜落する。ただし、敵も馬鹿じゃないのでドローンが妨害されたことで敵の存在を知る。


 2045年の戦争はそのようなものだった。だからこそ、索敵にドローンを用いないことが求められた。かつて空軍が保有していて情報軍が分捕った戦術級の中型ドローンですら、欺瞞信号で墜落させられるし、あのアジアの戦争の後に大量に流出した携帯式防空ミサイルシステムによって簡単に撃墜される。


 携帯式防空ミサイルシステムは厄介極まりなく、旧式のドローンは容赦なく撃墜されていった。それでいてそれを叩くのは非常に難しい。


 情報軍は最新の戦術級中型ドローンを導入し、運用しているが、それでも携帯式防空ミサイルシステムの脅威がなくなったわけではない。


 ドローンに頼らない索敵。


 日本陸海情報軍は高度な熱光学迷彩技術を富士先端技術研究所に開発させ、それを迷彩服5型として採用した。それに付随するナノスキンスーツも同様に導入された。それを索敵に使用したのは言うまでもない。


 そして、ナノマシンによる感覚の強化。


 人体にはまだまだポテンシャルがある。生物学者たちはそう結論している。それを完全に引き出し、かつナノマシンの力で補助する。


 そうすることで音や振動で敵を遠隔地から探知できるのだ。


 いつでも守護天使友軍ドローンが空から見守ってくれているわけではない。そうである以上、自分たちのことは自分たちでやらなければならない。


 久隆の索敵技術もそういう背景で習得されたものだ。こと日本国が2045年の東南アジアの戦争において少人数の地上部隊と空爆という軍事オプションを取っていたために、彼らは少人数で多数の敵を相手にしなければならなかった。そのために索敵はより重要なスキルとして、各々が取得することが望まれた。


「3階層の地図からしてオーガはこの辺り、オークはこの周辺、ゴブリンはこっちだ。見事にばらけている。連携するつもりは欠片もないらしい」


「そ、そこまで分かるものなんですか?」


「軍隊にいたからな」


 久隆はマルコシアにそう告げるとまずは乱入されると厄介なオーガを片付けに向かった。斧を持った久隆がダンジョンの廊下を進んでいく。


「ねえ、ねえ、フルフル。久隆様の索敵って本当に当たるの?」


「え、ええ。正直なところ、彼は私たちが知らない魔法を使っているのではないかと疑うほどに敵の位置を言い当てます。外したのはモンスターハウスでだけです。あの時は数を間違っていました。それ以外はほぼ的中です。一体どんな魔法を使っているのか……」


「そんな魔法なら私も教えてほしいな」


「それがですね。魔力はゼロなんです。ステータスは異常な数値ですけれど、魔力だけは全くないんですよ。だから、魔法というより呪いのような何かを……」


 うーんとフルフルが唸る。


「フルフル、マルコシア。ダンジョン内では静かに。それからフルフル付呪を頼む」


「わ、わ、分かりました……。『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士に力を』と……」


「助かる」


 それからはいつも通りだ。


 まずはレヴィアが魔法でオーガたちを攪乱し、そして久隆が殴り込む。


 オーガは久隆の索敵通り、4体。槍で武装している。


 レヴィアの氷の嵐で視野を奪われたオーガたちは槍を振り回し、見えない敵と戦おうとするが、久隆はするりとそれを躱し、オーガの首を刎ね飛ばした。そして2体目の頭を叩き潰し、3体目の腎臓を潰し、4体目の首を切り裂く。


 オーガたちは瞬く間に殲滅され、その騒ぎを聞きつけたオークとゴブリンが向かってくるのが久隆には分かった。


「マルコシア。後ろからゴブリンが5体だ。こっちはオークを相手にする」


「了解!」


 ゴブリンは5体。オークは10体。久隆は数の多い方を引き受けた。何もマルコシアの実力を信じていないわけではない。ただ、レヴィアとフルフルの援護がある自分と、そうでないマルコシアであれば自分が数の多い方を引き受けるべきだと考えただけだ。


「『降り注げ、氷の槍! 』」


「『爆散せよ、炎の花!』」


 レヴィアとマルコシアが同時に魔法を放つ。


 迫りくるオークの集団に氷の槍が降り注ぎ、オークたちが貫かれる。ゴブリンたちの集団は爆発によって吹き飛ばされ、壁に叩きつけられたゴブリンが消滅する。


 ゴブリンはその一撃でほぼ壊滅したが、オークの方はしぶとい生き残りがいる。


 久隆はそのしぶとい生き残りを片づけに向かった。


 斧を握った久隆がオークの首を刎ね、頭を潰し、腎臓を叩き切る。


 オークたちは応戦しようと槍を握ったものの、先ほどのレヴィアの魔法攻撃が響いている。攻撃は当たらない。久隆は巧みにオークたちの攻撃を回避し、腕を切り落として、オークの握る槍を奪い、そのままその槍を敵に向けて投擲する。


 槍は見事にオーク2体を貫き、オークがその様子に一瞬の戸惑いを見せた瞬間、最後のオークの頭を久隆の斧が叩き潰した。


「これで壊滅だな。この階層は恐らくクリアだ」


「大勝利なの!」


 レヴィアが片手を上げて喜ぶ。


「一応全部巡ってから降りよう。問題はないと思うが」


「凄いですね……。こんなに簡単にダンジョンを制圧してしまうなんて。1階層から15階層まで、この調子でやってきたんですか?」


「ああ。こんな感じだ。お前が加わった分、火力が増したからもっと素早く降りていけるだろう。まずは10階層だが、それは容易なはずだ。10階層は空だし、モンスターハウスも殲滅した。10階層までクリアにしたら、一度戻ろう」


 久隆はこともなげにそう告げて返した。


「はへー……。久隆様って本当に人間? 何かの上位存在だったりしない?」


「どうでしょう……。人間にしてはおかしな動きをしますが……」


 久隆は人間だ。化け物ではないし、何かしらの上位存在でもない。


「お喋りは地上に戻ってからだ。行くぞ」


 そして、第4階層へと進む。


……………………

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?