……………………
──4階層再攻略
久隆は4階層に降り立ち、即座に索敵に入る。
「鎧オーガが6体、オークが4体、ゴブリンが8体。鎧付きは相変わらずか。フルフル、付呪に余裕はあるか?」
「ま、まだまだいけます。大丈夫です。し、心配する必要はないです……」
「そうか。任せたぞ。今回は一気に9階層も降りるからな」
久隆が告げるのにフルフルが小さく頷く。
「よ、鎧付きってこの階層から出るの……?」
「そうなの。流石は超深度ダンジョンなの。けど、久隆がいれば大丈夫なの!」
こんな階層から鎧付きのオーガが出るということに、マルコシアは目を丸くしていた。レヴィアは何でもないというように、久隆の背中を叩いてそう返していた。
「やはりおかしいのか?」
「普通はこんな階層に鎧付きはでませんよ。私たちは10階層から出没するのだとばかり。上層の偵察はあまり行われていませんでしたから。やっかいなマンティコアがいて、それより上には上がれませんでしたから」
「確かに面倒な奴だったな」
久隆たちも事前の準備なしでは、マンティコアに勝利できなかっただろう。
「ゴブリンはまだ弓を持っていないはずだ。先に鎧オーガを片付けよう。後方からオークやゴブリンが乱入してきたときは頼むぞ、マルコシア」
「了解!」
マルコシアはどうやって久隆が鎧オーガと戦うかに興味があった。
戦闘経験豊富な騎士は数多くいたが、鎧オーガを倒すには苦労するのが通常だ。事実、15階層で近衛騎士たちは鎧オーガとジャイアントオーガを相手に苦戦していた。
しかし、久隆ならばどうだろうか?
久隆ならばどのように敵を叩くだろうか? 騎士たちのように苦戦はしないだろうか? それともやはりある程度は苦戦するのだろうか? 簡単に勝てるとして、他の騎士たちとどのように違うのだろうか?
マルコシアは探求心が強い。一度興味を持ったことはどうしても知りたがる。だからこそ、有能な魔法使いになったのだ。
「足音は最低限に。魔物は音に敏感だ。靴はしっかりしたのを買っているよな?」
「イエス。丁度いい感じの靴を買いました。歩きやすくてとてもいい靴です」
マルコシアは歩きやすいトレッキングシューズを履いていた。
「前方に鎧オーガ6体。いつも通り纏まっているな。武器は長剣。リーチは長い。レヴィア、いつも通り攪乱してから叩き潰す。フルフル、付呪を」
「りょ、了解です」
フルフルが僅かに身を乗り出す。
「『我が敵の守りを蝕み、錆びつかせよ!』」
その詠唱で一斉に鎧オーガたちに注意が久隆たちの方向を向いた。
「レヴィア!」
「『吹き荒れろ、氷の嵐!』」
そして、鎧を蝕むように氷の嵐が噴き上げる。
「行って来る」
最後に久隆が鎧オーガに向けて突撃した。
久隆は兜を纏っていない鎧オーガから狙った。
オーガが長剣を振り被った瞬間に斧を頭に叩き込み、引き抜くのと同時に長剣を突き立てようとした鎧オーガの攻撃を回避し、引き抜いた斧で首を刎ね飛ばす。そして、脆くなった鎧を纏うオーガの腎臓に向けて斧を突き立てる。
これで纏めて3体を撃破。
続けて氷の嵐を受けて混乱していた鎧オーガたちが調理される。
長剣を振り回している鎧オーガが長剣を弾き飛ばされ、そのまま首を刎ね飛ばされる。久隆は宙を飛んだ長剣を掴み、他の鎧オーガの胸に突き刺さる。味方の死体に押された鎧オーガがよろめいたところを久隆が頭を叩き潰した。
「クリア。この騒ぎでゴブリンとオークが近づいてきている。注意しろ」
「ほえー……」
「マルコシア。後方に警戒だ」
「あ! は、はい!」
マルコシアが振り向いたとき、ゴブリンの集団が押し寄せていた。
「わわっ! 詠唱、間に合わない!」
「下がれ!」
久隆はマルコシアを下がらせると、自分がゴブリンたちの前に立ち、先頭を突き進んでくるゴブリンに向けて軍用ナイフを投擲した。軍用ナイフはゴブリンの頭を貫き、ゴブリンが軽く吹き飛ばされる。
続いて久隆は斧を振るってゴブリンの頭を纏めて2体分刈り取ると、死体を蹴り飛ばしてゴブリンたちとの距離を空ける。
「マルコシア、魔法だ!」
「『焼き尽くせ、炎の旋風!』」
残ったゴブリンたちは焼き払われた。ひとたまりもない。
「大丈夫だな、マルコシア?」
「はい。すみません。よそ見してて……」
「次からは気を付けてくれ。お前の命に係わる問題だし、捜索班全体も危険に晒す」
「はい!」
久隆はそう告げながら軍用ナイフを回収する。
「残りはオークだ。片付けるぞ」
オーク4体を片づけるのはさしたる問題ではなかった。レヴィアの魔法と久隆の突撃でオークたちは瞬く間に一掃された。
「これで4階層はクリアだな。昼飯にしよう」
久隆は5階層に続く階段から少し離れた位置に座ると、バックパックを下ろした。バックパックには10階層から15階層に運ぶための災害非常食とペットボトルの水も入っている。
「いただきます」
「いただきますなの!」
弁当は鮭と昆布のおにぎり。冷凍のから揚げ。卵焼き。ブロッコリーの胡麻和え。ナスの煮びたしになっていた。
「これ、久隆様が作ったんですか?」
「ん? ああ。ひとり暮らしだから自炊はある程度な。だが、ほとんど簡単なものだ」
「そんなことないですよ。あたし、料理ができる男の人って好きだなー」
マルコシアがそんなことを言いながら、そそっと久隆の方に近づいた。
「マ、マルコシア……? な、何をしているんですか……?」
「なーにも?」
その様子に気づいたフルフルが信じられないという顔をするが、マルコシアは澄ました表情をして久隆の完全に隣を取った。
「マ、マルコシア。こっちで食べましょう? 魔力を使ったのでお腹が空いているのでしょう? 卵焼きをひとつ分けて上げますよ?」
「大丈夫だよ。フルフルこそしっかり食べなくちゃ。付呪師は負担が大きいから」
「そ、そうですが……」
レヴィアと久隆だけが黙々と弁当を食べている。
「麦茶もあるからな。カップはこれを使ってくれ」
「わー! 久隆様って気配りが凄いですね!」
「いや。普通だろ」
久隆は怪訝そうな顔をしてマルコシアを見た。
だが、フルフルには分かっていた。マルコシアが男性として久隆を見ていることを。
フルフルは人間として久隆を見ている。レヴィアもそうだ。自分たちとは異なる存在。確かに今は協力関係にあるが、種族が違うので、互いの種族を認識するだけ。アガレスも優秀な人間の兵士と思っているだけだろう。
だが、マルコシアは人間という枠をひょいと越えて、男性として、異性として久隆を見ているのだ。それがフルフルには信じられなかった。
人間と魔族は何もかも違うではないか。それを無視して異性として人間の男を見るのはどこかおかしい。確かにこれまで人間と魔族の恋愛が全くなかったかと言えばそうではないが、どれも悲惨な運命を遂げている。と、フルフルは記憶している。
魔族と人間が子供を作れるかも疑わしい。いや、作れたとしても人間からも、魔族からも迫害される可哀そうな存在を生み出すだけに終わるではないか。だからこそ、魔族と人間の間には一定の距離が必要なのだ。と、フルフルは考える。
しかし、親友のマルコシアはそういうことはさっぱり考えてなさそうなことにフルフルはただただ項垂れたのだった。
……………………