***
舞台袖に戻ってきた司の目に、うっすらと涙が滲む。その姿に、胸がじんと熱くなった。俺は一歩だけ踏み出し、大きな声をかける。
「……おかえりなさい、司!」
司は興奮を抑えるために深呼吸をし、目線をしっかり合わせながら頷いた。
「ただいま。そしてありがとう。君がいなかったら、ここには戻って来られなかった」
その声は小さく掠れたものだったが、それでもまっすぐだった。音よりも深く、心を揺らす“本物の言葉”だった。
「君が傍にいてくれるなら、僕はずっと弾ける。もっと自由に、もっと熱く、もっと……僕らしく!」
俺はその視線を受け止め、にっこりと微笑む。
「じゃあ、これからも調律し続けますよ。何度でも、何度でも。司の音が、世界に届くように」
ふたりの距離は音ではなく、温度でつながった。
静かに重なる鼓動。響き合う余韻――これが再生の音。そして、恋が始まる音。