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ノーパン悪役令嬢は荒野を駆ける!
ノーパン悪役令嬢は荒野を駆ける!
田柄満
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年06月18日
公開日
1.6万字
連載中
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したアラサーOL・木更津杏奈。 そこはゲームの真のエンディング後の世界。王都を追放され悪名だけが残る中、ひとり荒野に放り出されたアリシアに残されたのは——『パンツを脱ぐと無限に魔法が使える』という、理不尽な力だった。 名誉と魔法と誇りをかけて、アリシアはもう一度歩き出す。 これは悪役と罵られた女が、名誉も誇りも脱ぎ捨て、勝者(乙女ゲームヒロイン)に挑む物語。 火曜と金曜の朝に更新予定です。

砂漠の民編

第1話 ノーパン転生!砂漠に一人だよ

 気がつけば、私は灼熱の砂漠に突っ立っていた。


 いや、ただ突っ立ってるだけじゃない。

 パンツを履いていない。


 どういうこと? 風がスカートの下を通り抜けるたび、肌がざわついて落ち着かない。何度探っても、どこにも布の感触がない。


 「……パンツが、ない……?」


 状況がわからない。だけど、ひとつだけわかる。

 これは、ゲームの中だ。しかもエンディングの後の世界。



 私の名前は木更津杏奈。

 アラサー、未だ彼氏ナシ、開発職の技術系OL。地味に誠実に生きてきた。……はずだった。


 ある日、会社から突然の通告。


 「開発第四課は解散。あなたも解雇です」


 目の前が真っ白になった。


 開発していた共振型ワイヤレス掃除機は、どうなるの? 七年尽くした努力は? そんな思いも虚しく、私は不要な人材として放り出された。


 ヤケ酒をあおり、ふらっと入った中古ゲーム屋で見つけた乙女ゲーム。

 それが『プリンス・オブ・ハート』だった。


 貧乏貴族の少女マーサが、王子や騎士と恋をして、最後には王妃になる。そんな王道ゲーム。私は寝る間も惜しんでプレイして、グランドエンドまで一気にクリアした。


 ラスボスの悪役令嬢のアリシアを追放し、マーサが王子と結ばれる完璧なエンディング──


 ……の、そのあとで。


 画面から紫の光があふれ、目が眩んだと思ったら──


 今、ここだ。砂漠。炎天下。ノーパン。


「まさか……アリシアに転生した……?」


 手足が細く、肌は透けるように白い。スカートの刺繍も見覚えがある。

 試しに笑ってみる。「オーッホッホッホ!」

 ああ、この声、間違いない。ゲーム中で何度も聞いた、高飛車な悪役令嬢のそれ。


 そうだ。私は、マーサに追放された『あのアリシア』だ。


 いや待って。ゲームの悪役って、追放された後どうなったかなんて描かれてなかったよね? このままじゃ死ぬしかないじゃん!


 転生するにしても、よりにもよってなぜここから始める!?


「ふざけんな……!」


 私は、地べたに座り込みながら、拳を握った。


 マーサが正義で、私は悪?

 だからって、こんな仕打ち、ある?


 でも──なら、やってやろうじゃない。

 パンツがないなら、脱ぎ捨てて前に進むだけ!


 私はもう、地味で中途半端な私じゃない。

 今度こそ、自分の意志で生きてやる!


 今の私は完全に野生の悪役令嬢だ。


 こうしている間にも太陽の熱線で頭の上はチリチリしてくるし、食べ物どころか水もないしで。

 これは完全に殺しにきてるね。バチバチのマーサの殺意を感じるわ。

 確かにゲームの中のアリシアには妨害されたり嫌味言われたり、靴底に画鋲入れられたり、カレピを横取りされてムカついたり、なんなら毒殺されそうにまでなったけどさ。……あれ? 結構やらかしてるな、アリシア。


 いや、まあ。アリシアを追放する選択をしたのは誰でもない、この私なんだけどさ。

 まさか、砂漠に追放とか思わんし、自分がアリシアになるとかもっと思わんでしょ?


 それにしてもさ。異世界転生って、こうスキルで無双とか、ステータスが見れるとかあるじゃない? 私にはなにもないの? 私の異世界しょっぱすぎないか。

 このままだと這い上がる前に干上がってしまう。どうしよう……。


 ため息を吐くと、岩山の窪みに出来た僅かな日影にしゃがみ込んでしまった。


「……」


 夢の中? 悪役令嬢が砂漠にいた。


 砂漠なのにティーテーブルがあって、上にティーポットとカップが並んでいた。

 頭の上では、大きな日傘が太陽の熱線を完璧に遮っている。

 悪役令嬢のアリシアと私がサイドテーブルで向かい合って座っていた。


「あなた、中途半端はやだとおっしゃってたわね」


「あ、うん、もう半端な人生は生きたくないってそう思ったんだ」


「嘘はない様ですわね。それなら私とこの世界の未来をあなたに託しますわ……」


「え? どういう意味?」


「マーサを止めてくださいまし」


 マーサを止める? どういうこと? 唐突な話だなと思ったところで、目が覚めた。


 疲れてほんの少しだけまどろんでいたらしい。砂地のざわめきで目が覚めた。


「キシャーーーーッ!」


 突然頭の上から怪音がするので、驚いて上を見ると、トドくらいの大きなトカゲが岩の上からこちらを見ていた。


「コブトリドラゴンだ!」


 コブトリドラゴンはゲームの中では小型のザコモンスターに入るのだけど、こうして直に見るとでっけえ!

 ドラゴンと名は付いているけど、ぶっちゃけトカゲだ。ザコなので恐れる事はないのだけど、それはマーサでゲームをやってた時の話だ。


 私は今、生アリシアだよ。どうすんの?


「シャーーーーーッ!」


 コブトリドラゴンはやる気満々で大きな口を開いて威嚇してきた。生臭い臭いが微かに漂ってきた。ああ、あの口、猫くらいは軽く丸呑みできるな。

 コブトリドラゴンと目が合った。感情のない冷たい視線に背筋が凍りつく。やばい。


 脱兎のごとく私は逃げた。

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