目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第13話 鈴とさくらと詠春と

 さて、シアや雛に頼りすぎていては私がいる意味がないので、私のほうもできることをやっていこうと思う。

 といっても、力自体はまだ回復していないので、人間ができることに毛が生えた程度のことしかできないので注意が必要だ。

 さしあたって、居住区の整備から始めなければならない。

 建築や設計に関しては雛やフェアリーノームたちがやってくれているので、土地を耕すことでもやろうか。

 そのあと時間を作って眷属関連や島の外の世界についても目を向けていこう。


 居住区の付近に畑を用意する。

 そのためには場所を囲い土を起こしたりしながら雑草などを取り除く。

 雑草と呼ばれて一括りにされている草類の中には食べられるものなどもあるので、後で選別に回そう。

 続いて土を耕す。

 土を柔らかくして育ちやすい環境を用意する。


 雛からロープと杭を提供してもらい、建設予定のない場所に設置していく。

 土が固いのかなかなか杭が入らない。

 何度か叩いているとようやく杭が刺さったのでロープを伸ばして長方形に形作っていく。

 そして杭を打ち、また再びロープで範囲を決めていく。

 実に地味な作業だし、意外と腰が痛くなる。


 この島周辺の気候はなかなかよさそうで、日中は暖かい。

 嵐も特にないので季節的には春くらいなのではないだろうか。

 そうなると、作物の種について相談する必要がある。

 そんなことを考えながら畑仕事をしていると、鈴が近寄ってくるのが見えた。


「鈴か。どうした?」


「ん。ちょっと見学に」


 そう言いながら私のすぐそばに立つ鈴。

 今、彼女の身長はいつもの60cm程度から143cmほどになっている。

 どうやら人間大のサイズに変化してきたようだ。

 ちなみに鈴は143cmが現在の最大身長だったりする。


「詠くんが働いている。すごい」


「すごくはないよ!? 私でも働くからね!?」


 別に私はニートをしているわけではないのだ。

 ただちょーっと忙しい時期があったので休憩していただけなんだよ。


「知ってる。でも働いててえらい。とても頑張ってる」


「はは、ありがとう」


 鈴は時折こうして褒めてくれるところがある。

 私の従者たちは基本的にみんなそうだが、鈴は特に愛情が強いほうだと思う。


「鈴ちゃんは私たちの中でも特にマスターへの愛が強いですからね。とはいえ、私だって常に注意してばかりではないんですよ?」


 そんなことを言いながらやってきたのはさくらだった。

 さくらも今は人間大のサイズになっている。

 ちなみにさくらの人間大サイズの時の大きさは145cmだ。


「さくら、お疲れさま。えっと、その布はどうしたのかな?」


 さくらに声を掛ける際、手に布を持っていたので尋ねてみた。


「こちらはマスター用のタオル。こちらは雛ちゃんが常に用意しているお着換えです」


 そう言ってさくらが見せてくれたのは、白いタオルと女性用の衣服だった。


「誰の? 女神テューズの?」


 私がそう言って確認するとさくらは首を横に振り、こちらを指し示してきた。


「月齢を調べました。あと一週間ほどでこの世界に新月が訪れます。お忘れかと思いますが……」


「あー……。忘れてたよ」


 さくらの指摘を受けて思い出した。

 実は私の身体は男性体が基本なのだが、妖狐に生まれた後、神性を得た影響で新月の日ごとに女性体に入れ替わるという特性が現れてしまった。

 期間は新月の日から次の新月の日まで。

 神話の同じ神様が男性であったり女性であったりする原因はここにあると思う。

 ただし、他の神様であれば期間はすごく短いことだろう。


 私の場合、この長期化の原因はほとんど妖狐族の因子の影響だろうと思う。

 妖狐族は女性の生まれる確率が非常に高いのだ。


「農地のほうはいかがですか?」


「とりあえずできるところまではやっているよ。後ででいいから抜いた草の選別をしておいてくれるかな?」


「はい、承知しました。少し見たところ薬草も混じっているようですので選別しておきますね」


 さくらはそう言うと草の束も一緒に運んで行ってしまった。

 おそらく建物の中に保管するのだろう。


「さくら姉様も相変わらず。ボクより言葉数少ないのに詠くんに必要なことをすぐ調べてる」


「まぁなんだかんだでお世話してくれているからね。とはいえ雛も鈴も負けているわけではないよ? いつも頼りにさせてもらっているからね」


「んふ。調子のいいことを言う。でも、悪い気分じゃない」


 鈴はポーカーフェイスを保ってはいるけど、若干にやけそうになっている。

 指摘するのは野暮というものだろう。


「さて、耕したら栄養を送らなきゃね。とはいえ今は材料がないか。シアは海があると言っていたしそこまで行って採集してきますかね」


「あ、ボクも行く」


「じゃあちょっと今から行こうか。問題は距離だけど、どうにかなるでしょ」


 現地を見たわけではないけど、あるということは聞いている。

 島なので比較的近くにあるものと推測する。

 川の流れに沿うのもありだろうか。

 まぁちょっとした冒険だね。

 目的は海での貝殻探しだ。

 消石灰が欲しいからね。


 拠点から少し離れるとすぐに森に囲まれる。

 近くにはフェアリーノームたちがいるので、見かけたら挨拶しながら海の方角を聞き出す。

 ある程度情報がもらえたので、教えられた方角を目指して進むことにする。

 あとは迷わないように目印を置きつつひたすら歩き続けるのみだった。


「太陽の位置はーよし。目印もまぁまぁわかりやすいかな?」


「ん。暗くなっても大丈夫なように明かりを灯しておく。狐火なら消える心配もないから」


「たしかに。じゃあお願いするね」


「任せて」


 鈴はそう言うと目印となる木の杭のてっぺんに狐火を乗せた。

 黄色く光るそれは暗闇でもさぞ目立つことだろう。


 森の中は動物や鳥類の声が時折聞こえる程度で、基本的には静かだった。

 一応熊もいるので注意するに越したことはないが、私たちの気配を感じると避けてくれるのであまり心配する必要はない。

 それにしても森の中は本当に静かだ。

 拠点から聞こえてくる木の伐採音を除けばだが。


「もう見つけてるかもしれないけど、他に鉱脈や石材確保できそうな場所があったら目印をつけてっと」


 海へ行く途中によさそうなものを見つけたらどんどん目印をつけていくことにする。

 木々以外にどんな資源が眠っているかわからないからだ。


「詠くん、しばらく行くと石が露出してる地帯がある。その辺りになると木々が少なくなっていくはず」


「ありがとう。そこに目印付けたら次に行こうか」


 そうしてしばらく歩くと森が途切れる場所にたどり着いた。

 そこは地面がえぐれたような状態になっており、聳え立つ小高い岩山から地面にかけて岩が露出している場所だった。

 森の中からは見えなかったけど、この辺りには岩が豊富にあるらしい。

 ちなみにえぐれた地面の下には洞窟のような穴が開いていた。


「拠点周辺には岩山と森、それとこの付近に岩石地帯。まだ場所はわからないけど海辺があるか……。岩山の下に鉱脈もあるらしいし割と資源豊富なのでは?」


 海底よりずっと下に宇宙船があるとはいえ、それなりに恵まれた地形のようだった。

 ただやはりある程度大きくても島ということもあり、色々と限界はあるだろう。

 新しい領域のほうにはシアから提供してもらった粒子を使って資材を調達するとして、この島の木材資源だけはどうにも限られてしまうようだ。

 石材だけでどうにかするべきだろうか。


「とりあえず海岸の発見を優先しようか」


「ん」


 何はともあれ、まずは海にいこう。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?