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第14話 海岸と開拓計画

 森の中を鈴と進んでいくと、色々なものを発見することができた。

 特に植物関係の発見が大きいだろう。

 鈴曰く、色々な効能のある薬草が生えているらしく、後々ポーションにすることができるのだとか。

 鈴はこういった薬学や魔法薬学にも詳しく、手早く未知の植物の分析を進めたりする能力がある。

 今回はその能力を存分に生かす形となったというわけだ。


「組み合わせ次第では強力な回復薬ができる。でも副作用も強く出るはず」


 鈴は採集した薬草を見ながらそんなことを口にした。

 どうやら何かしらかの影響でこの土地は強い力を内包してしまったようだ。

 心当たりがあるとすれば女神辺りだけど。


「女神の影響もあるにはある。けど、これは妖力の影響のほうが強い」


 私の言葉を若干肯定しつつも別の要因を語る鈴。

 どうやら犯人は私だったようだ。


「妖種の妖力は草木に影響を与える。時間や状況次第では鉱物や動物にも影響が出ることがある。特にこの世界では詠くんの影響は強い。注意が必要」


 そんな風にダメ出しをされた私は、頬を掻きながら森を進んだ。

 やがて森が途切れると、空がよく見える広い空間に出た。

 ずっと先には水平線が見える。

 うん、崖だ。

 日は傾き夕暮れになりつつあったが、一応目的の場所を発見することはできた。

 あとは砂浜だけど、夜の海はあまりよろしくないのでここにいつでも移動できるように転移地点を用意することにする。


「鈴、ここに転移地点を設定してほしい。一旦拠点の社に繋げておいて」


「ん、わかった」


 私の指示を受けて鈴が早速地面に何か文字や図形を描き始めた。

 簡易版の転移陣という感じのもので、描かれた陣が転移陣の本体、その周囲に描かれた記号がそれぞれの転移先に繋げる記号となっている。

 社には事前にその記号を設定してあるので、同じ記号を設定すればそちらに移動できるという仕組みだ。

 これは必ず二つ一組で運用される。

 でも転移陣本体にも大きさの制限があるので、必然的に接続先の数も限られてしまう。

 何か所も繋げて運用する場合は必ず中継地点を設定しておくといいだろう。


「完了した。見えなくなるよう認識阻害を掛ける。あとで正式なものを用意する」


「うん。ありがとう。あとで要石を準備してもらおう。もし雛に在庫がなかったら材料集めしなきゃだね」


 私がそう話すと、鈴の表情が若干険しくなった気がした。

 ほとんど表情は変わらずジト目だけど。


「雛ちゃんの優先順位的に要石は持っていないかもしれない。建築材料、武具、食料や水、お布団。これが雛ちゃんの優先してるものだから」


「そういえばそうだったね。屋根のある場所を作って寝る場所を用意したり、食料関係を優先する子だったね」


「ん。雛ちゃんは姉妹と詠くんと寝る場所とご飯があれば幸せな子だから」


 さくらたちは基本的に仲が良い。

 一番上にさくらが姉として君臨し、その下の鈴や雛たちがいる。

 基本的にさくら以外は姉とか妹という区別は付けていないようだ。

 それぞれに役割を与えられた子が複数人いるので、雛菊も含めるとなんだかんだで9人くらいの姉妹になるかもしれない。

 他の子はそのうち呼び出すことになるだろう。


「さて、この転移陣はイリスに管理してもらうとしよう。そうしたら一回戻って朝再びここに来ようか」


「ん。それでいく。じゃあ転移」


 鈴は私の提案に頷くと、転移陣を起動。

 一足先に拠点へと戻っていった。


「それにしても、色々忘れてるなぁ。ここが終わったら一度ほかの世界も見ておこうかな」


 ちょっと今回は反省すべき箇所が多かった。

 今後はもうちょっと仕事や研究の割合を調整しよう。

 私はそう心に決めると拠点へと転移した。



 後日、再び海辺の崖へとやってきた。

 今回は周辺を回って下りられるか所を探すのが目的だ。

 余裕があれば道の整備をしたいところ。


「マスター、海が見えますね」


「さくら姉様、海好きだよね」


「海は好きですよ。あまり泳ぐことはしませんが、海岸の散歩とかは好きですね。ただ髪や耳や尻尾の毛がごわごわするのはいただけませんが」


「それは思う」


 今回はさくらと鈴が同行している。

 さくらを誘った理由は海を見たいだろうと思ったからだ。

 そんなさくらは海を見ながら鈴と仲良く会話をしている。


「この海にはどんな生き物がいるんだろうね。地球にいる生き物と大差ないはずだけど、巨大な蛇とかいたらどうしよう」


「いないとは言い切れませんが、私の知る限りではマスターはそのような因子を持ち込んでいなかったはずです。雛菊ちゃんもそういった奇抜な生命体を生み出すタイプではありませんし。不安要素でいえば女神の配下ですが、まぁそこは何とも言えませんね。魔物はいるようですし」


「魔物、ねぇ……」


 さくらはそう話すが、正直私の認識の中では魔物はゲームの中だけの存在になっている。

 今までも作らなかったしこれからも作る予定はない。

 まぁアレが関わった結果生まれる可能性はなくなないが、アレ自体は新規に生命を生み出さない。


「いたらいたで叩き潰す。それだけ」


 鈴はそう言うと手に持った杖をぎゅっと握りしめた。


「鈴は頼りになるなぁ」


「ん。照れる」


 そんな話をしつつ周囲の探索に向かう。

 崖があるということは必ず下に伸びる道があるはずなので迂回して探すだけだ。

 時間はかかるけど簡単な話である。


「崖に沿うようにして森が伸びているのか。面白い地形だね」


 この島の森は崖の少し手前で完全に分断されている形になっていた。

 見る限り崖と同じ線上に森が続いている。


「マスター。しばらく歩けばがけ下に降りる道がありそうです。難易度はわかりませんが一応マップでは確認できます」


 さくらは手元のタブレットを見ながらそう案内してくれた。


「ならとりあえず進んでみようか。そのタブレット持ってるのってさくらだけなんだよね」


「私はマスターのようにイリスちゃんにお願いできませんから仕方ありませんよ。観測機器を飛ばしているのでできるだけですし」


 さくらは鈴や雛と違い細かいところでのサポート能力が非常に高い。

 基本的に従者たちには高い攻撃能力や防御能力が与えられているが、それとは別に各々の特性を生かしたサポート能力も与えられている。

 鈴が魔術や魔法薬学、通常薬学、医療などに詳しいとするなら雛は建築やアイテム収集、運搬に高い能力を示す。

 じゃあさくらはどうなのかというと、一見地味だが生活全般のサポートや各地域の情報分析、情報収集機器を使ってのマッピングなどが得意だったりする。

 ちなみに各世界を周回する衛星にはマッピング用の中継船が設置されており、さくらはそこにアクセスすることで惑星の情報などを収集しているのである。


「詠くんはイリスちゃんという強力なサポートがあるからいいよね。ボクもイリスちゃんの権限が欲しい」


「あはは……」


 くだらないことを話ながらさくらに指示された場所を目指して探索していく。

 しばらく歩いていると、崖の一部が切れている場所を発見することができた。

 覗き込んでみると、崖と森の間が崩れ緩やかな坂のような状態になっているのが確認できる。

 ここが下りられる場所のようだ。


「よし、じゃあここを下りて海に出よう。若干の調査をして問題がなさそうだったら海辺にも転移陣の設置をお願い」


 斜面は崩れやすくなっているようだったので慎重に降りていくことに。

 後程、雛にお願いしてここを整備しておく必要がありそうだ。


 無事に崖下まで移動した私は早速周囲の確認をすることにした。

 砂浜を歩きつつ怪しそうな場所をチェック。

 幸い魔物のようなものや毒を持った貝などはいない様子だった。

 砂浜にはいくつもの貝殻が打ち上げられており、海中の植生は豊なのだろうと想像することができた。

 散策しつつ貝殻を拾い集めていく。


「島全体はまだ見てないけど、もしかするといい感じのプライベートビーチにできるかもしれないね」


 一緒について回るさくらや鈴にそんな感想を話す。

 もしいいビーチがあるならみんなでバカンスを楽しむのもありだと思う。


「そうですね。休暇というわけではありませんが、開拓などが落ち着いたらゆっくりするのもいいかもしれません。まだまだやることは多いですが」


「ボクも手伝う。もう少ししたら他の子も呼び出してね、詠くん」


「そうだね。次はだれがいいかな……」


 次に呼び出す従者を二人に相談しつつ、私たちは海岸を散策したのだった。

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