目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第15話 新しい土地に結界を張ろう

 海岸の散策は意外と成果があった。

 食べられそうなアサリのような貝類やハマグリのような大きさの貝がたくさん生息しているのが確認できたのだ。

 ただ問題は食べられるかどうかだ。

 毒があっては元も子もない。


「というわけで一応サンプルは集めたので解体と毒の確認よろしく」


「はい、おまかせください」


「貝類に毒がなかったら次は周辺の海域調査だね」


 食べられそうかどうかの調査をさくらと鈴にお願いして、次にやることを考える。

 周辺の調査は継続したいけど、この世界の村や街の状況も気になる。

 それにしてもここはどのあたりなんだろうか。


「雛菊、街や村に行く方法って何かないかな?」


 場所の見当がつかないので素直に雛菊に頼ることにした。

 管理をしていた彼女ならある程度はわかるかもしれない。


「うーん、そうですね。わたくしが眠ってしまうまでの間のことならわかりますが、一応社を設置しているのでそちらまで移動してみましょうか」


「そういえばそうだったね。お願いしてもいいかな?」


「はい! おまかせください」


 私の頼みごとに快く応じてくれる雛菊。

 そういえば結構長い間眠っている感じだったもんなぁ。

 だいぶ古い知識になっているかもしれない。


「ええっと、ここをここしてこうで……。ふぅ、できました。というわけで、この島の社と近隣の大陸の社をご主人様の領域で繋げました。さっそく社から移動してみましょう」


「うん、じゃあ早速領域へ行こうか」



 新たに作成した惑星内の領域。

 ここでは現在建築作業が進行している。

 島側にも同様に建物が建てられているが、領域内よりは控えめだ。

 むしろこっちが本命と言ってもいいだろう。


 私たちが今拠点にしている島には雛菊が建てた社、それと採掘などが進んでいる洞窟、いくつかの建築中の建物が存在している。

 そして社を起点として領域への通路を開き、洞窟方向へと進むと新領域にたどり着く。

 この領域は森もあるが大きな平原が存在している全く別の世界だ。

 暖かな日差しもあるし晴れ渡る空も存在している。

 ただ、基本的に天気の影響は島の天候に準じるので、島が雨だとこちらも雨になる。

 ここは惑星ではなく、あくまでも島に作られた1つ隣の世界だ。


「本格的な社が完成しましたら再度新しく接続致しましょう。ご主人様、一度わたくしと一緒に移動しますので、手を繋いでいただけますか?」


 そう話すと、雛菊は小さな手をこちらに伸ばしてきたので、そっと繋ぐ。


「ありがとうございます。それでは移動しますね」


 雛菊がそう言うと領域側の社に知らない森の景色を映す別の道が生まれた。

 新しい道の隣には島へ通じる道が島の景色へと続いている。

 私たちはそのまま知らない森の景色を映す道へと歩みを進めた。



 一瞬後、道は消え私たちは森の中に出ることができた。

 背後には時が経ち朽ち果てた社が寂しそうにその姿を見せている。


「この辺りは拠点によさそうです。社は朽ち果てていますが修理すれば十分に機能を果たせるでしょう」


 雛菊は周囲を見ながらこの辺りの情報を確認している。

 雛菊が最後に見た景色がどのくらい前だったのかはわからないけどきっと懐かしんでるのだろう。


「一応この場所は大陸南端かつ山に囲まれた盆地のようになっています。端的に言えば秘境ですね。外へ抜けると人里のある世界があるはずですが、ここから外へ抜ける道は北側へ行くか南側へ行くかの2択です。北側には峠があります」


 そう説明しながら雛菊は2つの方角を指す。

 北側は山が険しく、そして高い。

 南側は山は低いが森の奥にある。

 いやいや、秘境過ぎないかい!?


「元々はここに集落を作ろうと思っていたのです。ですがまぁ色々とありまして、今に至るというような形に……」


「あー……」


 その節は本当に申し訳ありませんでした。


「でも、こうしてご主人さまとここに来られたのでわたくしは満足です。ご主人様がこの世界をわたくしに託される前はひどくやつれたお顔をしてましたから。少しでも療養期間が取れてまたやる気が出たのなら、わたくしは苦労した甲斐があったいうことです」


 雛菊はこちらを見ると微笑む。

 本当に彼女たちには頭が上がらないな。


「わたくしたちは誰が生み出したとかは関係ありません。今までの絆があるからこれから先も信じていけると思っています。それは姉様たち全員が常に思っていることです。今度イリスちゃんにも聞いてみるといいと思います」


 雛菊の言葉を聞いて改めて思った。

 みんなを大事にしていこうと。


「そういえばこの辺りには結界みたいなのはないんだね?」


 結界の気配は感じられないが念のために確認しておく。

 外部の人間が入ってきたときにどうなるかわからないからだ。


「結界を張ることはできますがまだその準備すらしていません。せめて悪人が入りたくなくなるような簡易結界だけは張っておきましょう」


 雛菊はそう言うと早速結界を張る準備を行う。

 せめて悪人が入りたくなくなるような結界と雛菊は言っていたが、これは【妖種結界】のことだ。


【妖種結界】には様々な種類がある。

 例えばどこともしれない黄昏時の森をひたすら歩く結界であったり、いくつもの鳥居で構成された不気味な道の結界であったりだ。

 今回張られている結界は罪人の力を徐々に奪っていく一種の【飢餓結界】というもの。

 最終的には動けなくなりそこで力尽きるだろう。


「ご主人様、完了致しました」


「相変わらず早いね」


 結界を張るスピードは鈴が一番早く、その次が雛菊といったところだ。


「いえ、そんな。そういえばご主人様のお力も少しは戻られたようですね」


「あ、そうだね。そろそろ攻撃スキルが使える頃合いかな?」


 従者が再び集まってきたので徐々に力が戻るスピードが速くなっているようだ。

 次はどの子を呼び出そうかな?


「攻撃スキルですか。今ご主人様が使えるものとなると【斬】でしょうか?」


「そうだね。まぁほぼ通常攻撃みたいなものかな」


 【斬】とは様々な武器で行使できる刃属性の攻撃だ。

 刃がなくても刀物のような形であれば利用することができる。

 効果は相手を【斬る】ことだけだ。

 空間ごとね。


「確かにそうかもしれませんね。さて、ちょっと周囲を探索してみましょう」


「そうだね。何かあるかもしれないし」


 こうして私たちは周囲の確認を再開するのだった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?