翌日、二人は学校でちょっとした英雄扱いを受けていた。
教室に入るなり、あちこちから視線が集まり、ひそひそと話す声が耳に入る。スマホの画面に流れるダンジョンの映像、そして、エルフ。どれも昨日の配信の切り抜きだ。
「おい、修二。昨日の配信見たぞ。まったく、イチャイチャしやがって」
クラスメイトの安藤が、修二の肩に軽く一発いれる。
「まあな。絵里とは付き合ってるし――」
「違うって。エルフとだ。お前、一緒に木の実食べてたじゃないか」
「そりゃ、誤解を招く表現だな。異文化交流していただけだ」
教室の後ろを見ると、絵里は女子たちに囲まれて質問攻めにされていた。
彼女の笑顔はいつも通りだったが、どこか対応に疲れているようにも見える。
「ちょっと、お姫様を救出してくるよ」
「やっぱ、絵里しか眼中にないのか」
安藤は、「それならエルフを俺にくれよ」とつぶやいた。
異変が起きたのは、朝のホームルームの時間だった。
先生によって、修二と絵里は廊下に呼び出された。
「配信の件だが、教師の間で話題になってるぞ。今どきの子だな、まったく。人に迷惑をかけたわけじゃないが、校則には違反している。二人とも、今日は放課後に掃除な」
修二たちは顔を伏せる。
「まあ、そう重く受け止めるな。さあ、教室に戻るぞ」
先生が教室に入ると、修二たちは顔を合わせて舌をぺろっと出す。
「やっちまったな」
「軽く済んでよかったじゃない」
放課後、二人は教室に残って掃除をしていた。
先生からは「箒だけじゃなく、雑巾がけもするように」と指示があった。
「まったく、あの鬼教師め。俺たちを殺すつもりか?」
修二は、腰に手をやって軽く叩く。
「こっち来て。ちょっとだけ揉んであげる」
「サンキュー。って、絵里、手つめたっ!」
修二は、思わず飛び上がる。
「うるさい。恩を仇で返すつもり?」
「悪い、そういうつもりじゃないんだ。そういえばさ、またあのダンジョン行かないか?」
「あ、私も言おうとしてた。それで……またエルフとイチャつく気?」
絵里の視線が修二に刺さる。
「いや、それもあるけど――あのエルフ、なんか気になるんだよな」
「あっそ。じゃあ、私はカメラマンとして随伴するってことで」
「よし、じゃあ今週末、またあのダンジョンへ行こうぜ」
修二が雑巾を片付けながら言うと、絵里もうなずいた。
「いいわよ。でも、次はエルフとキスとかしたら、絶対に許さないから」
笑いながらそう言った絵里だったが、視線の奥にはわずかな不安が混じっていた。
二人は気づいていなかった。
彼らが初めての探索者である時間は、すでに終わりつつあることに。