「入場料をいただきます」
修二たちがダンジョンに着くと、一週間で様変わりしていた。
ダンジョンへと続く穴は、三角コーンとバーによって囲われていた。そして、唯一の通り道には高速道路の料金所のようなものがあった。
「いや、どういうことだよ」
「ダンジョンへ潜るには入場料が必要です。村が管理するための維持費の一部となります」
受付嬢は、丁寧に頭を下げる。
「ちょっと待って! ここを発見したのは私たちよ!」
絵里は、前回配信した時の映像を突きつける。
「承知しております。しかし、特例を作るわけにはいきません。これは、村長の意向です」
「くそ、村長め。俺たちがバズらせたのに、お金取る気かよ……」
修二は、財布を開くと「で、いくらだ?」と確認する。
「お一人さま、一万円です」
「は?」
「お二人なので、合計二万円となります」
受付の言葉に、二人ともため息をつく。
「修二、どうする?」
「どうするって……。払うしかないだろ。大丈夫、俺に考えがある」
「考えって、ただ配信するだけじゃん!」
絵里は、口をとがらせてブーブーと文句を言う。手には専用のカメラが握られている。
「いや、違う。ただの配信じゃない。これを持ってきた」
そう言うと、修二はバッグから缶詰を取り出す。そこには「非常用乾パン」と書かれていた。
「乾パン? まさか……」
「もらってばかりじゃ、いけないだろ。それに、これを食べたエルフの反応を配信すれば、間違いなくバズる」
絵里は「乾パンってところにケチ臭さが出てるわね」と言うと、カメラのスタートボタンを押す。
配信がスタートして数分後、視聴者は1632人となり、前回を大幅に上回っていた。
「視聴者のみんな、見えてるか?」
修二はカメラの前で手を振る。すると、すぐにコメントが返ってくる。
「バッチリ」
「前振りはいいから、本題に入れ」
「早くエルフ見せろ」
「そう焦るなって」
二人はダンジョンの中を進んでいくと、この前と同じ道のりを抜け、蔦の絡まった壁を通り越す。
「あの時と同じだな」
修二がつぶやいた瞬間、光の粒が舞い、その中心からエルフが現れる。
「アナタたち、また来たのか」
エルフは警戒した様子を見せるが、修二は乾パンを掲げる。
「今日は、これを持ってきた。お礼だ」
少し戸惑った表情の後、エルフは近づき、乾パンを手に取る。
「コレ、食べ物?」
「たぶん。日本の兵士が食べる非常食だ」
エルフは一口かじると、ポリポリと咀嚼した。そして、次の瞬間、微笑んだ。
「カタイ。でも、悪くない」
その様子を見ていた絵里が、わずかに眉をひそめる。
「修二、私には何も持ってきてくれなかったのにね」
冗談のように言ったが、その目は少しだけ本気だった。
「いや、今度は二人分持ってくるって」
「今度、ね」
エルフは二人をじっと見つめる。
「アナタたち、また来てくれるか?」
絵里が口を開く前に、修二はうなずいた。
「もちろん。君のこと、もっと知りたいし」
「じゃあ……これを」
エルフは、首から外したペンダントのようなものを差し出す。
「ダンジョンに入る時、コレを見せれば特別に通れる。ワタシが許可した者として」
「エルフ、修二にだけ渡すんか」
「絵里がかわいそうw」
「もうこれ、修二モテすぎだろ」
コメント欄はヒートアップしていた。
配信を終えたあと、絵里がポツリとつぶやく。
「……本当に、あの子のことが気になるの?」
修二は返事をしないまま、ポケットの中のペンダントを見つめていた。