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一日目 ②

  八人はその微妙な空気のまま、中央の広間へ向かって黙々と歩いた。十分ほどすると、ようやく広間へと到達する。そこまでの間、特筆するような事は何一つ起こらなかった。


「えっ? なにこれ?」


 先頭を歩いていたマサキが驚きの声をあげる。それに釣られて他のメンバーたちも駆け寄り、その様子を見て愕然としていた。


 中央部は確かに広間ではある。だが、何もないのだ。何ひとつ。


「ウソー、拠点って言ってたから家とまではいかなくても小屋くらいあると思ったのに」


 スミレがその場にへたり込む。ショウとモモ、サクラもその場に座り込んだ。


「確認してみよう」


 マサキがスマホを取り出し、運営へと連絡を取る。


「俺はその辺少し様子を見てくるぞ」


 レオはそう言うなり、単身広間中央へ向けて歩き出した。


「僕も行きますよ」


 リュウもすぐに後を追う。なら私もと、ナナも付いていった。



『はい、こちら実況のツタエ・マスオだ! マサキ君、なんの用事かな? まあ配信観て知っているんだがな! ガハハ」


「知ってるなら話は早い。家みたいな建物とか何もないんすけど?」


『はっはっはー! 家?ダンジョンの中に家なんかあるわけないだろう! なかなか面白い男だな、マサキ君は!』


「はあ!? 恋愛リアリティショーっていえば皆でシェアするオシャレな家が定番じゃないっすか!」


『普通の恋愛リアリティショーならそうかもしれないが、ダンジョン攻略もあるんだぜ?シェアすればいいさ! 野営地にキャンプ作ってな! ガハハ!』


「 野営地!? キャンプ!? サバイバルかよ!」


『サバイバルも出来なくてダンジョンが攻略出来るか! という話だ。ガハハ! では!』


「おい、待て! おい! おい!」


 電話が切れ、マサキはすぐにリダイアルしようとした。


【注意!注意!本部との通話は一日一回までとなっています】


 スマホから警告音が鳴り、リダイアルは拒否された。そこへ広間探索に向かっていた、レオ、リュウ、ナナが戻って来る。


「やっぱ古い布やロープ以外は何もねえな。ダンジョン野菜やらはあるが、これじゃ食いもんも足りないな。下から魔獣の気配とかはするが。そっちはどうだった?」


 マサキは首を横に振って、運営から言われた事を伝えた。


「そうか、まあ運営の言ってることも間違いではないからな。そうと決まれば野営地を作ろう。食事と寝床くらいはなんとかしないとな」


 なんら落ち込む素振りすら見せず、レオが率先して広間へ向かっていく。皆が皆、それなりに腹を括ったのだろう、レオに続いて歩き出した。


「せめて男女区切りたいし、出来れば一人一人のプライベートルームも欲しいよね」


 一番後ろを歩くショウの言葉に皆が頷いた。最低限それくらいはないとストレスがすごそうだ。


 そのまま黙々と広間まで八人は歩いていった。当然会話も何もなく淡々とである。これが普通の恋愛リアリティショーならば放送事故の範疇であろう。


「ここからは手分けしよう。食糧調達組と拠点作り組だ。それぞれ得意そうな方に分かれてくれ」


 レオの提案で四人ずつの二組に分かれた。食糧調達組はレオ、サクラ、リュウ、モモ。拠点作り組はマサキ、ナナ、ショウ、スミレである。


――食糧調達組


「じゃあ頼んだぜ」

「ああ、気をつけて」


 レオとマサキが仮のリーダーとなり、互いに握手を交わした。


「さてと。このフロアにも食糧はあるにはある。だが非常時用にするため食べない方が良いと思うんだ」


「そうね、何があるかわからないものね。賛成よ」

「うちも賛成」


 レオの提案にサクラとモモが同意する。


「てことは下に降りるんだね?」


「ああ、そう言うことだ。腕に自信がなければあっちの組に行っても構わないぞ」


「いや、二階層でいきなり強いのが出てくるとは思えないし、行きますよ。色々見てみたいしね」


「よっしゃ。じゃあ行くか。俺が先頭、リュウは一番後ろを頼む」


「了解」


 四人は隊列を組んでそのまま広間の北にある下り階段を降りていった。


――二階層


 一階層に比べれば暗く、また気温も少し低い。寒くはないが暑いわけでもない。


 レオはマップを開いた。マップは何ひとつ書かれていない。


「マップも作らないとか。結構ヘビーかもしれんな」


 レオはこういう細かい作業は苦手のようで頭を抱えていた。


「うち作るよ」


 モモがマップ画面を開き、作成モードにして記入し出した。


「助かる!」


 レオは頭を下げ、先を進んでいく。土壁の所々に発光草が生え、辺りをわずかに照らす。他にもキノコやダンジョン野菜の類は豊富のようだ。


「この辺のって食えるのか?」


「うん、大丈夫そう」


「リュウ、わかるのか?」


「まあ何度かダンジョン入ってるし、なんとなくだけど」


「頼りになるぜ。変なもん食ってくたばるなんざ死んでもお断りだ」


「あら。死んだら断れないわ」


「ものの喩えだよ……そんな真顔で言わなくても良いだろ、サクラ」


 そんなこんな話ながら先に進む。モモは植物やキノコなどの在りかまで、事細かく集中して記入していた。


 そのモモが前を歩くサクラの背にぶつかった。前が止まっているようだ。


「いてっ……なに?」


「しっ!」


 レオがモモの会話を途切れさせる。


「……来るぞ」


 レオが両腕を広げ身構えた。サクラとモモはレオの背後から様子を窺い、リュウは後方を警戒する。


「グォー!」


 と、大きな唸り声をあげて、猪のような魔獣が突進してきた。猪と違うのは頭に大きなツノがあること。これに貫かれたら胴体に風穴を開けられて即死だろう。


「皆、後ろに下がってろ!」


 レオの叫びに皆後退りする。そのレオは突進してきた魔獣のツノを両手で掴み、その勢いを利用してブレーンバスターのように後方に叩きつけた。


 そしてすかさず魔獣の首を、その丸太のような太い太腿で締め上げた。魔獣はしばらく暴れていたが、そのまま窒息した。


「ふう、初っ端からこれかよ!」


【レオのレベルが5上がった。ジョブポイントを10手に入れた。スキルポイント10を手に入れた】


 追尾撮影しているドローンから突然機械音声が鳴り響く。


「うおっ! 喋るのかよ。でもなんかレベル上がったぜ」


【食材 一角ボタンの肉✕5 一角ボタンのタン芯✕1 素材 一角ボタンのツノ✕1  一角ボタンの皮✕2 を入手】


「結構色々入手できたね、このまま食材と素材集めてレベルも少し上げるのが良さそうだ」


 リュウの提案に、皆が賛同した。


「レオの入手したポイントってスマホから使えるの?」


 リュウの問いかけにレオがスマホを起動する。


「ああ、使えるぜ。ジョブポイントはそのまま職業レベルを、スキルポイントもそのジョブのスキルのレベルアップと新しいスキルを入手できるようになってる」


「なるほど。ありがとう。まず僕たちのレベルとか上げて、半分ずつ交代しながら、拠点作り組のレベルも上げていこう」







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