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一日目 ③

――拠点作り組


「なかなか目ぼしいものがないなあ」


 マサキは落ちている木の棒や布切れを手に取っては捨て、取っては捨てとしていた。


「こういうのでも使い道はあります。集めておいてくださいね」


 ナナが拾い集めて、一処に置いた。


「へー、こういうサバイバル系得意なの?」


「ま、まあ、それなりに」


「助かるーあの二人があれだからさ」


 マサキが目を向けた先ではスミレとショウがそれぞれ離れて座ってスマホを弄っていた。本来なら注意すべきなのだろうが、今後のことを考えるとなんと言っていいか迷っていた。


 すると、ナナがスタスタと歩いていく。


「あの、自分たちが仮住まいする場所なので一緒に作ってもらえませんか?」


 そう、二人に向かって話しかけた。口調は柔らかいが、マスクから見える目が怒っているようで、


「はーい」


 と、スミレが立ち上がり、マサキの下へと向かう。


「手伝う必要もないでしょ。あんな素材じゃろくな物も作れないし、プライバシー守れないじゃんね」


 ショウはそう言い手伝いを拒絶する。


「それは下に降りて素材を手に入れて、追々の話でしょう。今ある物でなんとかするのもダンジョン攻略の一環だと思うけど」


「ウザっ」


「えっ! ちょっと!」


「わかった、わかった。はいはい、わかりました」


 ナナの声色が変わったことを俊敏に感じ取り、ショウもマサキたちの下へと嫌々ながら向かっていった。


 それからは皆無言でひたすら木材やら使えそうなものを拾い集めていた。音もなく静かな空間に作業音と、ショウのため息が良く響く。


 ため息くらいはしょうがないか、と自分もため息をつきたいマサキであったが、幾度となく続くため息に苛立ちを覚えていた。


「そんなに嫌ならいいよ、向こう行ってて」


 遂にマサキが口に出す。


「はーい、向こうでおとなしくしてまーす」


 これ幸いと、ショウは持っている素材を素材置き場に持って行くと、そのまま離脱して広間の隅の方へと口笛を吹きながら歩いていった。


「いいの?」


 スミレが心配そうにマサキに尋ねる。


「構わないさ。あれがショウという人物ならこの企画には不釣り合いだし、自業自得で痛い目を見るんじゃないかな」


「まあ、それもそうね。あれじゃ誰からも相手されないわね」 


 スミレも納得し、再び黙々と作業を続けた。


 そしてようやく食材調達組が戻ってきた。なにやら皆、両手いっぱいの食材や素材を運び込んでいた。


「すげー! こんなに!」


 驚きの声を上げるマサキたち。しれっとショウも戻ってきている。食材や素材の山はさすがに気になったのだろう。


「ああ。だが思ったよりモンスターも強くてな。おかげで皆レベル10くらいまで上がったよ。それで提案なんだが」


 レオが皆を集める。交代でレベルアップしようという話であった。レオは固定で他のメンバーは入れ替えながらレベリング仕様という算段だ。


「俺がサポートに回って、皆のレベリングを助ける形だ」


「それは効率が良いね。ともあれ、僕はこの食材をなんとかして皆の食事を作ろうと思う」


「リュウ、料理できるの?」


 ショウの言葉と同時に皆からの期待の眼差しが向けられる。


「まあね、味の保証はしないけど。他に料理出来る人いる?」


 リュウの呼びかけにサクラとナナが手を挙げる。


「じゃあ、サクラさん手伝ってくれるかな? ナナさんはレベリング行かないとだし」


「そうね、わかったわ」


「ありがとう。てことでレオとモモさん、他二人ずつ交代で行くのがいいんじゃないかな?モモさんのマッピングも必要だし。待機組は僕の手伝いか、魔獣の皮の素材を使ってテント作りだね」


 リュウの提案に皆が頷いた。


 こうして新たに料理組とレベリング組、テント作り組に班が分けられた。


 料理組はリュウをリーダーに着々と料理を作り上げていく。そのテキパキとした調理工程と的確な指示にはクールなサクラも驚きを隠せないでいた。


 食材の選定から下拵えに調理と無駄がなく、いつの間にやら採取したのか調味料らしきものまで用意されていた。


 料理に必要な火も、拠点作り組が集めた木材や布切れにダンジョン内を照らしている植物を数個混ぜ、魔獣の肉から取った脂を垂らし、そこに魔獣の牙を火打ち石代わりにして焚火を作っていた。


「すごいわね、知識も技術も並大抵ではないわ」


「たまたま知っていただけさ。サクラさんこそ刃物の扱い上手いし段取りも行動も素早くて驚いたよ」


「あなたの指示があってこそよ。それから……」


 サクラが自分を中心に広間を見回す。そこには八つのテントがわずかな間隔を開けながら、この焚火を中心として円状に並んでいた。


「うん。ナナのおかげで皆の個室が出来たね。このテント作りはナナがいないと出来なかったと思う」


 ナナはレベリングしながらも自分が抜けた時には魔獣の皮の素材でテントを拵えていた。それも八人分である。それだけでも特筆すべきことなのだが、さらにそのテントを円状に並べる提案をして、空いているメンバーと共に張っていったのだ。


 これで完全ではないがプライバシーを守れる寝床と料理が出来た。


 そしてレベリング組が戻って来た。ずっと潜りっぱなしのレオとモモはさすがにヘトヘト。ショウとスミレも「あー疲れた」などと言いながら地面に横たわる。


「お疲れ様」


 ナナはモモが見つけた水源から取ってきた水を沸騰させ、それを皆に手渡した。冷たく出来ればいいのだがそんな施設はない。


 それでも水分に飢えていた四人は一気に飲み干した。


「リュウ、サクラ、モモ、マサキもお疲れな。見事なテントと美味そうな料理の匂いは堪らねえな」


「ああ、皆揃ったし食事にしよう」


 レオは心底嬉しそうに料理を眺め、リュウは食事の準備を始めた。


「だいぶレベリング進んだでしょ?」


「ああ。俺とモモが20くらいか、あとは15ってとこだな。サクラとリュウだけ少し遅れちまったな」


「構わないわ。料理とかでもスキルポイントは貰えたし、これだけなら皆より多いんじゃないかな」


「どんな経験も糧になるってことか」



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