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一日目 ④

 料理が次々と運び込まれた。皆が手分けして並べて行く。レオの腹の虫が大声で鳴き、皆一斉に大笑いしたりと団欒の時間を過ごす。


 思い思いに料理を頬張り、今日あった出来事や世間一般的なニュースなど、個人情報は避けて上手く話していた。


 たくさんあった料理は「うめえ、うめえ」とあっという間に食べ尽くされた。


「あー美味しかった。プロレベルね!」


 スミレが絶賛する。


「これでお酒もあったら良かったのになあ」


「うん、なんか作れそうな素材あったから作ってみるよ」


「マジで! お酒も作れるなんて神じゃん!」


 スミレが嬉しそうにリュウに腕組みした。サクラはそれを横目でチラッと見る。表情まではマスクのせいで読めないが気になっているのだろう。


「皆が素材を集めてくれたからだよ。だからみんなありがとう。特にレオは頼れる兄貴分だね、助かったよ!」


「よせよ、照れくせえ。俺は戦うだけだが、見ろよこのマップ。事細かに書いてあってよ、モモありがとな」


 モモが皆のスマホと共有してあるマップにはダンジョンのマッピングだけではなく素材の在処、出現するモンスターなど様々な情報が書かれていた。


「皆さんが手伝ってくれたから。特にマサキくんがカバーしてくれたり助かったよ」


「当然のことをしたまでさ」


 マサキも照れくさそうに頭を掻く。


「何にせよ、皆の協力あってこそだよ。約一名は何してたかよくわかんないけど」


 皆の視線がショウに降り注がれる。


「まあまあ、得手不得手ってのはあるからな。それより腹いっぱい食ったら眠くなってきたな。ひとっ風呂浴びて寝るとするか」


「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」


 レオの言葉に皆無言で顔を見合わせる。


「風呂ー!!」


 自然と声が揃って皆が叫ぶ。


「風呂ねえじゃん!」


 流石にダンジョンに潜り、モンスターと戦い、素材を集めて、身体中汚れている。そのまま寝ることなど現代人にはとても出来ない。


「あの〜」


 モジモジとモモが手を挙げる。


「どうした?」


「……トイレ」


「そうだ! トイレもない! 俺ら男性陣はその辺ですればいいけど……」


 マサキの何気ない一言。


「嫌よ。同じフロアでその辺で用を足して、ご飯食べて、寝てなんてムリムリムリ!」


 由々しき事態である。風呂、トイレがないのは死活問題だ。


「風呂もトイレも作ろうか?」


 あまり喋らないナナが口を開いた。


「それは難しいんじゃないか。形は作れたとしても、トイレは流せないし音や臭いの問題もある。衛生面でも良くない。かといって下に降りるにしても危険だ」


 リュウが淡々と説明する。


「風呂もそうだ。八人分の水を水場から持ってくるだけでも大変だし、それを沸かすほどの火力のあるものもない」


「そうですね……」


 現実はその通りとナナも納得せざるを得ない。


「運営に掛け合ってみようよ」


 スミレが提案する。


「一日一回だから……」


「あー……」


 マサキの答えにスミレも二の句が継げない。


「ねえねえ」


 ショウが皆に呼びかける。


「皆忘れてない?これ配信だよね。そこで運営や視聴者に呼びかけたら良くない?」


「おー! なるほど。やってみる価値はあるかも」


「でもダンジョン攻略だからって一蹴されないかしら?」


 感心するマサキに冷静なサクラがツッコむ。


「ダメ元でやってみよう!」


 全員横一列に、ドローンカメラの前に並ぶ。そして一人一人前に出て、風呂とトイレと下着の着替えを懇願し始めた。



――運営サイド


『ハッハッハー! 参加者は風呂にトイレに着替えを要求のようだ! 視聴者の皆どうする?下手に要求を飲むと次々来る恐れはあるがな! ガハハ!』


『風呂、トイレないのキツイよね』

『男子はともかく女子がかわいそうでござるよ』

『サバイバルだろ! いらんいらん』


『意見が割れているな。よし! アンケートを取ろう』


 ツタエ・マスオがパソコンを弄る。すると視聴者の画面にアンケートが現れた。


『というか、ゲストの創郎氏にお尋ねします。ダンジョンに風呂やトイレを作ること出来るんですか!』


 団創郎はコクリと頷き、


『楽勝』


 と、短く答えた。


『恐るべし、ダンジョンクリエイター! ガハハ! さあ集計だ! いる45%、いらない55%。よっていらないだ! さあこの結果だけお伝えするぞ!』


 配信画面ではずっと一人ずつ頭を下げている。


『参加者の皆! 視聴者にアンケートを取ったぞ。結果は【いらない】だ。残念だが、ダンジョン内でなんとかしてくれ! ガハハ!』


 結果が伝えられ、参加者たちは肩を落とした。一人を除いては。


「待って待って!」


 ショウだ。ショウはドローンを掴んでカメラのレンズに顔を寄せた。


『なんだ! カメラを離しなさい!』


「団氏と直接話したい!」


『ダメだ、ダメだ!』


「団氏と変わって」


『だからダメだ……と……あー、はい、変わります』


 絶対拒絶の姿勢のツタエマスオがなぜか急変し、カメラを団氏に向けた。


「団氏。風呂とトイレと着替お願い!」


『アンケートの結果が出ておる』


「お願い!」


『ダメだダメ……うむ。承知』


 渋い顔で拒否していた団氏も豹変して一転快諾した。


「作ってくれるってさ」


「えっ! マジで! どうやって!」


「こういう交渉事得意なんだよね」


 皆でショウを褒め称える。すると突如ダンジョンが揺れ出した。揺れが収まると広間の東西に扉が出現していた。


 レオを先頭に恐る恐る扉を開いてみる。


 そこは脱衣場となっていた。その奥のガラスの扉を開けるとそこには温泉のような大浴場が出来ており、脱衣場脇にはトイレも出来ていた。


「うおー!デカい風呂だ!トイレだ!」


 マサキが飛び跳ねて喜んだ。


「こちらを男子、西側を女子が使おう!」


 そうと決まると女性陣は西側の大浴場に喜び勇んで、一目散に駆け出した。男たちはそのまま服を脱ぎ捨て、大浴場に飛び込んだ。



『あー、なんか頭がぼーっとするな。それより団氏によりトイレと風呂が出来上がってしまったな。なぜ、私も団氏も受諾したのか、何が何やらだ』


 狐に抓まれたかのような顔で、得意のガハハ笑いも出ない。団創郎も首を傾げている。


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