今日の集合場所は、いつもの高校の図書室。
休日でも自習場所として自由開放しているその場所は、今まで他の生徒が使っていることを見たことはない。だから、私たちはいつもその場所に集まって好きに過ごしていた。休日は司書の先生もいないので、お喋りだって気にせずに出来るから。
五人全員が図書室に入った瞬間、その放送は流れ出した。どこか機械音のような不思議な音声だった。
『今から皆さんには命をかけたゲームを始めて頂きます』
『ルールは簡単。皆さんには匿名で自分以外で死んでほしくない人を一人選んで貰います。誰にも選ばれなかった人は死んで貰います。簡単でしょう?』
『誰を選んだかを明かすことは禁止。全員の矢印が上手く被らなければ、誰も死ぬことはありません』
『投票回数は、3回。10時と12時と17時。結果が採用されるのは17時だけです。つまり残り2回は他の人が誰に投票したかを見るだけです。参考情報まで与えてくれるこのゲーム。なんと親切なゲームでしょう』
『さぁ、ゲームスタートです』
こんな意味の分からない放送を聞いても、誰も信じるわけはなかった。
「なに今の放送。笑えるんだけど。誰のイタズラ?」
一番に口を開いたのは涼夏だった。涼夏ははっきりした性格で、こんな時ですら慌てていない。涼夏はこういう性格で、いつも私たちを仕切ってくれる。
「知らねーよ。放送委員が適当に作って遊んでんじゃねぇの? 迷惑な話だけど」
すぐに
「こら、水斗。口が悪い」
誰も信じていない放送、私だって誰かのイタズラだと思っているのに何故か心がざわついて落ち着かない。だから、私は図書室を出ようとした。
「とりあえず、職員室に変なイタズラがあったって伝えてくる。休みの日だけど、職員室なら誰かしら先生が来てるだろうし」
「じゃあ、俺もついてく」
「
「俺だって気味悪いし。職員室の先生にちゃんと犯人を注意しろって言ってくる。里枝香はキツく言えないだろうし」
環樹はそう言いながらも、本当は怖がっている私を一人にしないでおこうとしてくれているだけだろう。私は環樹と一緒に図書室を出ようと扉に手をかけた。
「開かない……」
私の言葉に一番に反応したのは、やっぱり涼夏だった。
「冗談やめてよ、こんな時に」
そう言って涼夏も扉に手をかけたが、やはり開かない。
「え、なんで」
「誰かが外から鍵をかけたのかな?」
その時、先ほどまで落ち着いていた真千の顔が険しくなっていることに気づいた。
「真千?」
「この図書室の鍵壊れてて、閉まらないって前に司書の先生が言ってたの……」
真千の言葉に水斗が扉と反対方向へスタスタと歩き出し、窓の方へ向かう。
「窓も開かねーわ」
水斗の言葉に涼夏が「窓が開かないとかあり得ないでしょ。鍵かかってるだけじゃないの?」と言い返す。
「違う。鍵が閉まったまま動かない。鍵の所が何かに引っかかったみたいに動かねーんだよ」
どうやら鍵のところに釘のようなものを引っ掛けて動かないようにしているようだった。異様な光景に私は体がガタガタと震え出すのが分かった。元から怖がりなのに、こんな状況に耐えられるほど私は強くない。その時、落ち着いた声で環樹が口を開いた。
「窓を破るか」
環樹の声は落ち着いていたが、本気なことは分かった。その時、もう一度放送がかかる。
『窓なんて割っても意味ありませんよ?』
ビクッと全員の身体が震えた。
『もしここから無理やり逃げるのなら、今すぐに全員を殺します』
環樹が放送のかかっている方向に向けて、「どうやって殺すわけ?」と問いかけた。
「お前が俺らを殺すにしても、その前に窓割って逃げるだけだし」
その瞬間、外からドンッ!と爆発音が響いた。振動で床も揺れる。
「きゃあぁあああ……!!!」
爆発音の後に、誰かの悲鳴が遠くから聞こえる。もう私たちは言葉も出なかった。どう考えても、この高校のどこかで何かが爆発した。しかも、どう考えても小さな規模じゃない。
そして、もう一度鳴り響く放送。
『人を殺す方法なんてどれだけでもあるものですよ』
これには先ほどまで強気だった涼夏まで「ぇ……嘘でしょ……」と信じ始めている。
『さて、そんなことをしている内にもう十時です。一回目の投票を始めましょうか』
私たちの動揺など気にもせずに放送は続くのだ。
『普段司書の先生が座っている場所に端末を用意しました。そこから順番に一人選んで下さい。先ほども言いましたが、誰に投票するかを明かすことは禁止です』
受け入れられない、そう思うのに私たちは次の言葉で動き始めることになる。
『制限時間は五分です』
「っ……!?」
心のどこかで信じ始めていた中で、本能的に死を避けたいと思ってしまう。それでも私の身体は固まって動かない中で、水斗が本当に端末があるのか確認に向かう。
「本当にあるけど、どうする?」
「どうするって……言われても……」
「投票した方が良い気するけど。初めの放送的に全員がバラバラに投票すれば良さそうだし」
水斗の言葉に「こんな馬鹿のゲームを信じるの!?」と涼夏が声を荒げた。
「俺だって信じたくないけど、信じるしかないだろ。さっきの爆発音と振動的に結構やばい状況だろ」
「だからって……!」
「涼夏、もう一回言うぞ。上手く投票すれば、全員生き残れる。このままじゃ多分全員死ぬ」
「っ! あー、もう分かったって!」
そう言って、涼夏が水斗の所へ早足で歩いていき、端末を奪った。指で素早く何かを選んでいる。
「はい、私はもう選んだから。次は誰?」
涼夏の問いには答えずに水斗が端末を手に取り、投票を終わらせる。私はまだ全然受け入れられていないのに、次に環樹、真千の順番で投票を終わらせた。
そして、真千が私に端末を渡す。
「次は里枝香だけど……大丈夫?」
私の顔色の悪さに真千が心配そうに顔を覗き込んだ。自分だって同じ状況なのに、真千のこういう所は本当に尊敬する。
「……大丈夫、ごめん。今、投票する」
私がそう言ったと同時に、放送が『残り一分です』と告げた。
「里枝香、早くして」
涼夏に急かされながら、私はカタカタと小刻みに震える指で投票を終えた。
『投票が終了しました』
その言葉の次に流れた放送は、衝撃的な内容だった。
『三田 里枝香 二票、野本 環樹 二票、小室 水斗 一票』
「え?」
その「え?」を発したのは涼夏だった。それでも、無遠慮に放送は続いていく。
『相川 涼夏 0票、永山 真千 0票』
その瞬間が私たち幼馴染が壊れた瞬間だった。