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第7話 酔った元夫が私を訪ねてきた夜

再び目を覚めたとき、私はベッドに横たわっていた。どこを見ても真っ白。


頭の中も真っ白で、最後の記憶は蒼汰が天宮雪奈の腕に飛び込んでいく場面。


蒼汰の言葉がまだ耳元に響き渡っている……


「僕のママになる資格なんてない!」


苦しみに耐えて産み、六年間も愛を込めて育てきた我が子なのに、私が母親になる資格なんてないと言った!


あまりの悔しさと絶望に涙がこぼれ落ち、やがて嗚咽が号泣へと変わり、最後には声すら出せれなくなった。


もうこれ以上の苦しみはないだろう!


まる一日ベッドに横たわった後、私は必死に体を起こし、看護師さんを探した。


「看護師さん、退院させてください」


看護師は驚いた顔で私を見た。


「昨夜気絶してたのを覚えてないの?退院なんて早すぎる。」


自分の体がどれほど弱っていたかは痛いほどわかっている。私は小声で伝えた。


「入院費を払うお金がないんです」


スマホも財布もなくなって、今の私はお金がない。


「入院費はもう他の人が払ってくれてるわよ」


「払ってくれた?誰なの?」


真司?彼が心配して私を病院に運ばれた?

ありえない、でも他に誰がいる?


看護師たちは忙しくて私の質問に答える暇もなく、私はもう立つ気力がなく。病室へ戻る途中、松葉杖をついてドアの前にいる凛音の姿が見えた。


一気に涙が溢れた。


片足で跳ねながら近づいてくる凛音は、泣きながら笑った。


「こっちへ来ないの?まさか、私が飛んで抱きしめてほしいってこと?」


私は駆け寄って彼女をぎゅっと抱きしめた。


抱き合いながら泣いた。


彼女はそっと私の背中を撫でたが、何も言わなかった。


わかっていた。彼女は私が本当の事を話さなかったのを心配した。


あの日、私が病院を離れた後、凛音は看護師に私がケガしたことを聞き出し、私を探し回っていた。


天宮家へ行ったが、私の父親に会うことすらできず、「天宮家にそんな人はいない」の一言で追い返された。


昨日の夜になって、ようやく病院から電話があり、私が倒れて運ばれたことを知ったの。


病院には彼女が前に支払いをした時に残した電話番号があった。彼女は慌てて病院に駆けつけた。


昼間で会社に休みを取り、それから家に戻って着替えを取りに行って、私の看病のために病院に泊まる準備をしていた。


まだ治っていない彼女の足を見て、胸が痛んだ。


「凛音、大丈夫だから、ちゃんと家で休んで。看病しなくても大丈夫だから」


凛音は怒った。


「私のこと、本当に親友だと思ってるの?」


彼女は振り向くと、涙をぽろぽろとこぼした。


私は声を詰まらせながら言った。


「あなたは私の最高の親友よ」


「だったら余計なこと言わないで!」


彼女は私の拒絶を断った。


私はうなずくしかなかった、もう彼女を悲しませるわけにはいかない。


凛音は私を見つめた。


「まだ話すつもりはないの?」


「夫の浮気、その愛人にはめられ、息子が愛人のことを母と呼ぶ」


私は彼女の手を強く握りしめた。


「ごめんね凛音、話せるのはそれだけなの。詳しく知るとあなたにまで危険が及ぶ」


私は深い罪悪感に苛まれた。


「前にあなたが交通事故に遭ったのも彼らの仕業。これ以上巻き込みたくない!」


凛音は私の手を握り返した。


「だから、あの時あんなこと言ったのは、私を巻き込まないためだったの?」


私はうなずいた。


「このバカ!」


凛音は涙を落とした。


「これからどうするつもり?」


彼女は怒りで拳を握りしめた。


「まずは離婚ね。あの人たちには敵わない。もうここまでにしよう!」


病弱なこの体、死んだとしても惜しくはない。


でも、天宮雪奈だけは許せない。まだ死んではいけない。


凛音はうなずいた。


「わかった。退院したら帰ろう、私の家に!」


「彼氏が文句言いそうよ」


「文句なんか言わせない。言ったら振ってやる!」





 一週間後、私は退院した。


 凛音の家には行かず、いつでも連絡を取り合うこと、何かあれば絶対に隠さないことを約束した。


 私は自宅に戻り、固定電話で真司に電話した。


 「離婚に同意する。子供はあなたが引き取って。明日の朝九時に区役所で」


そう言うと電話を切った。


翌朝九時、私は区役所の入り口で真司を待っていた。


彼は時間通りに現れた。


車から降りて私を見た彼は明らかに動揺し、目つきが鋭くなった。


今朝、わざわざ身だしなみを整えた。


ここ数日でかなり痩せて、結婚届を提出した日に着たワンピースがちょうどよく似合っていた。


家ではコーデやメイクなどしなかったから、その頃とはまるで別人のようだった。


区役所の午前中は他の人はいない、私と彼だけだった。


彼がずっと私を見つめているのが感じられたが、私は全然彼を見ようとしなかった。


「港の別荘はお前にやる」


話題を探しているのか、彼から話しかけてきた。


「分かった」


私は適当に返事した。


離婚届を出す際、彼は私に秘密保持契約もサインさせた。生涯にわたって、彼と結婚したことを漏らしてはならない。さもなければ、渡した二千万円と別荘を取り戻す。


そして、蒼汰の相続権を剥奪する。


私は余計の事を言わずに署名した。


離婚届受理証明書を受け取ると、彼を見て伝えた。


「実は私、あなた以上に、この結婚生活を思い返したくない。あなたのことを考える度に吐き気がする!」


そう言うと背を向け離れようとした。


私の言葉は真司を激怒させた。おそらく、私が彼を愛していないという事実を受け入れられなかったのだろう。


私が道端でタクシーを待っていると、彼が近づいてきた。


「天宮雪乃、最後に一つ聞く。あの子は本当に俺の子なのか?」


私は彼を振り返り、冷たい笑みを浮かべながら答えた。


「あなたには何でもできるんでしょ?自分で調べたらどう?私の愛人、誰だか知りたくないの?」


そう言ってタクシーに乗り込んだ。


バックミラーに映る彼は道端に立ち、私の方へずっと見つめていた。


真司自身も、なぜずっと立ち尽くしているのかわからなかった。彼はずっと離婚したかったんじゃないの?


今、願いは叶った。


なのに、どういうわけか、心の一部が空っぽになった気がした。


彼は携帯を取って秘書に電話した。


「例の男、まだ特定できてないのか?この……役立たずが!」


彼女の浮気相手が誰か、知りたくないわけがない!


天宮雪乃はかつてあれほど自分を愛していた。他の男を愛するなんて受け入れるはずがない!


突然、彼の思考はそこで止まった。


そうだ、彼女は自分を深く愛し、天宮家の令嬢という身分を捨てて駆け落ちし、結婚後は名前を隠して専業主婦となり、ひたすら息子の世話をしていた。


普段から滅多に外出しない彼女が、他の男と浮気するはずがない!


前は、怒りに囚われ、深く考えることなどなかった。


今、二人は離婚し、彼女は赤の他人となり、ようやく冷静になれた。


彼はまた彼女の不倫写真を取り出した。見れば見るほど、写真に写る男が幻のように思えてきた。まるでこの世に存在しないかのように。


真司が離婚したことを知り、天宮雪奈は大喜びでディナーに誘った。


彼は約束した。


だが、夜になると彼は酒を浴びるように飲み、港の別荘へ向かった。





真司がここへ来るなんて全く予想していなかった。


「真司?どうしてここに?」


「ここは俺の家だ。来ていいだろう?」


彼は酔いを帯びて私に近づいた。


「あなたはこの家を私に譲った。今ここは私の家であって、あなたのじゃない!」


私は数歩後ずさりして、嫌な目をした。


しかし、真司はそんな私の視線に耐えられなかった。以前はいつだって私の目は彼への愛と憧れで一杯だった。


彼は一歩近づく。


「そんな目で見るな、俺のどこが気に入らない?どうして浮気した?言え!」


彼にこの汚名を着せて以来、初めて私に問いた。


私は必死に彼の手を振りほどこうとした。


「氷室真司、放しなさい!」


しかし、彼はますます酷くなり、私をぐいと抱き寄せた。


「他の男を愛するなんて許さない。お前は俺だけを愛せ!お前は俺のものだ、一生俺のものだ!」


そう言うと私にキスを迫ってきた。


私は力一杯真司を押しのけた。


「氷室真司、離して。私たちはもう離婚した。これ以上したらレイプだって告発する……」


「離婚したってお前は俺のものだ……」


彼の力はあまりにも強く、私が回復したところで、敵うことができない。


彼は片手で私の両手を押さえつけ、もう一方の手で私の頭を引き寄せ、強引に深いキスをしてきた。


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