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第42話 夫婦喧嘩

氷室真司は電話に出た。


「まだ何か用か?」


「今どこにいるの?探しにに行くから!」


電話向こうの天宮雪奈の声が震えていた。


「今ちょっと用事がある。終わったらこっちから連絡する。」


「しん……」


彼は再び電話を切った。

まるであの頃、私の電話をあっさり切ったのと同じだった。

少し胸がすっとした。


「やはり先に帰ったら、他の人に付き合ってもらった方が……」


「大丈夫だ。」


彼は車を会社から走り出した。


「でも雪奈さん、すごく心配してたみたいよ?」


私は彼の顔を見つめた、普段通りの落ち着いた表情。


「後でちゃんと説明する、彼女はきっと分かってくれる。」





病院


レントゲンを撮って診察してもらったが、筋肉が少し痛んでいるだけで、骨には異常がなく、大したことはないらしい。


実際、朝にはほとんど痛みを感じなかったけど、氷室真司の前では、あえて痛そうに振る舞った。


彼は私を支えながら病院を出た。


「家まで送ろうか?」


私は首を振った。


「だめ、会社に仕事があるから戻らなきゃ。」


「そんな体で仕事できるのか?」


「大丈夫よ。手も頭もちゃんと動くから!」


その言葉に彼は思わず微笑んだ。


「家には使用人とかいるの?」


「将人は何年も帰ってきてないので、家に私しかいない。」


車の中で彼がそう尋ね、正直に答えた。


「誰か雇ったほうがいい。じゃないと君だけじゃ無理だろ。」


「私知らない人と一緒に住むのは慣れていない、すぐには見つからないわ。このケガもすぐ治るし、心配いらない。」


彼はしばらく黙っていた。


会社前に車が止まると、彼は私のためにドアを開けてくれた。


私は慎重に車を降り、アシスタントの森田さんがすでに入口で待っていた。


氷室真司に手を振った。


「ありがとう、氷室社長。あなたも早く仕事に行った方がいいよ。」


「何かあったら電話して」


そう言い残し車に乗り込んだ。私はその場に立ち、彼の車が見えなくなるまで見送った。


「撮れた?」


私は小声で尋ねると、森田さんはうなずいた。


「はい、撮りました。」


「後で天宮雪奈に送って。」


森田さんは三年前からついてきていて、私の信頼できる人。





真司はそのまま家に車を走らせ、途中雪奈からまた電話がかかってきた。


これで三度目だ。


真司は少し苛立ちつつ電話に出る。


「何だ?」


雪奈は感情を必死に抑えながら声を震わせた。


「真司正直に言って、今誰といるの?今日会社にも行ってないし、他の人たちにも会ってないって聞いたわ!」


「俺のこと調べたのか?」


氷室真司は眉をひそめる。


「一晩中連絡が取れなかったから心配だったのよ。女の人と一緒だったんでしょ?誰なの?誰と一緒にいたの?」


雪奈は泣き出し、最後は声を荒げて叫んだ。


真司の目が冷たくなった。


「もうすぐ家に着く。」


そう言って電話を切った。





二十分後、真司は家に帰り着いた。


雪奈は玄関で待ち構え、真司をじっと見つめていた。


真司の服は雨に濡れたまま一晩を過ごし、しわくちゃになっていて、まるでベッドで何時間もした後のように。


「一体何してたの?」


「着替えてから話す。先にシャワー浴びてくる。」


真司は中へと歩きながら答えた。


だが夫の疲れ切った様子を見て、雪奈はますます不安になった。


「だめ!今話して!」


真司は彼女を見つめた。


「先にシャワーさせてくれ。」


「だめ!」


雪奈は引き下がらないまま、真司は眉を寄せ明らかに不機嫌になった。


「君は何故こんなふうになった?」


「一晩中帰ってこなくて、他の女と遊んでたくせに、よくもそんなこと聞けるね。」


彼女はほぼ自分の考えを確信した。


「何でたらめの事を言っている?どこが女と遊んでいた?」


その言葉に、真司は怒りをあらわにした。


「じゃあ昨夜、誰と一緒だったの?」


真司はソファに腰を下ろした。


「お義姉さんを送り、帰りに大雨に遭い、苗木を守っていたら足止めされた。」


「じゃあ、一晩中一緒にいたの?それとも一人だった?」


雪奈は問いただす。


「もちろん一人だ。」


真司は雪奈に失望した。他人の前で優しくて、理屈が通じる妻だと褒める彼が間違った。


そして雪奈を見上げた。


「一体何を疑っている?俺と相沢汐里が何かあるとも言いたいのか?彼女は兄貴の婚約者だ、それにあの顔、俺が好きになると思うか?」


雪奈は少し冷静になった。

そうだ、真司が以前どれだけあの顔を嫌っていたか、彼女自身は一番よく知っている。


そう考えると、彼女は真司の隣に座った。


「あなた、昨夜は嵐だったし、連絡も取れなくて、すごく心配していたよ。」


「分かってる。それで、もうシャワー浴びていい?」


「着替え持ってくるわ」


雪奈は立ち上がってクローゼットの方へ歩き、自責の念に駆られていた。


どうして冷静でいられなかったのか。そもそも真司は性的不能で、例えその気になったとしても、天宮雪乃とそっくりな顔を前にしたら無理のまま。

だから、自分は一体何を心配していたのだろう?


彼女はその場で何度も深呼吸した。


さっきはみっともなかったかな?


そう心の中で反省していると、突然携帯が鳴った。見知らぬ番号から、何枚かの写真が送られてきた。


写真には、夫が女性を背負い、その女性は笑顔で何か話しかけている。

彼も微笑みながらその女性—相沢汐里の話に耳を傾けている。


その写真を見た瞬間、雪奈の頭の中が真っ白になった。


着替えを探すのも忘れ、すぐにバスルームに駆け込んだ。


真司が出てきたところに彼女が怒り心頭で詰め寄る。


「苗木の手伝いだけだったんじゃないの?一人で過ごしたはずじゃなかったの?これはどういう事?あなたたち、昨日一体何してたの?」


雪奈は写真を突きつけて責め立てた。


真司はその写真を見てさらに怒りがこみ上げてきた。


「写真まで撮らせて、天宮雪奈、やりすぎだ。」


「どうしてこんな仕打ちをするの……彼女と浮気したなんて……!」


雪奈は泣きながら服を引っ張る。


「もういい!」


真司は彼女の手を振り払い、怒鳴った。


「真司、あなた……」


他の女と一晩一緒にいた上に、自分に怒りました?

雪奈はふと、目の前の夫が見知らぬ人のように思えた。


昔は一番自分を大事にしてくれたのに。昨日は手を上げられ、今日は明らかに悪いのに、全く悪びれない。


真司は大きく息をつきイライラした。


「天宮雪奈、俺を尾行させるなんとは!」


雪奈は真司の冷たい目におびえ、慌てて弁解した。


「してないわ。誰が送ってきたのかも分からない!」


彼女は電話を見せた。

知らない番号を見て、真司少しだけ怒りを抑えた。もうこれ以上は争う気にもない。


「昨日、彼女は足を捻ったんだ……君が余計な心配をすると思って、あえて言わなかっただけだ。」


真司は面倒そうに説明した。


「本当に何もなかったの?」


雪奈は半信半疑だったが、怖くてもうこれ以上騒ぐ気にはなれなかった。


またの質問で真司は大きく息をつき、クローゼットへ向かった。


「信じるかどうかは君次第だ。」


雪奈は一歩後ろに下がった。


以前ならちょっと機嫌を損ねたら、真司はすぐに駆け寄って慰めてくれたのに。


さっき、彼は何て言った?

信じるかどうかは君次第?


つまり、信じなくても気にしないということ?


彼の心はもう変わってしまった!


雪奈はスカートの裾をぎゅっと握りしめ、必死に自分を落ち着かせようとした。


本当は真司が相沢汐里と何かあるとは思えない。でも、心の中に芽生えた疑念は、そう簡単に消えない。


どうせ悩むくらいなら、相沢汐里をそばに置いたほうがいいかもしれない。


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