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第61話 仲直りした家族?

雪奈は初めて娘たちの顔から自分への恐怖を感じた。二人とも、母親である自分を怖がっている!?


千歳と菜々は雪奈の姿を見るなり笑顔が消え、菜々はすぐに千歳にしがみつく。千歳はぎこちない笑みを浮かんだ。


「お母さん、お帰りなさい!」


雪奈は内心少し苛立った。


「何?帰ってほしくなかったの?」


「そんなことないよ、ママ。」


千歳は菜々の手を取って彼女の前に来る。


「まあいい、ご飯にしましょう。」


子どもたちが席につき、真司も階段を下りてきた。


「真司、みんな待ってるよ、朝ごはんにしよう~」


雪奈は先ほどと違ったかわいい口調で真司と話す。


「ああ、食べよう。」


真司は主席に座ると、一斉に食事始めた。


雪奈は娘たちと夫の顔を見て、胸が温かくなった。これでようやく、一連の騒ぎも終わったのだと。


「お姉ちゃん、菜々の幼稚園今日で絵画コンテストがあるんだ。すっごく楽しみなの!」


菜々が期待に満ちた目で千歳を見つめる。


「もう描くもの決まったの?」


千歳も興味津々に聞いた。


「ひまわりにしようと思うの。汐里が「ひまわりは太陽の方を向いて咲く、一番明るい花だよ」って言ってたから!」


と聞いたとたん、雪奈の顔色がさっと変わり、箸をテーブルに乱暴に置いた。


「私が少し留守にしただけで、もうこんなにだらしなくなったとは、ご飯の時は静かにしなさいって、忘れたの!?」


千歳も菜々もびくっして、怒らないよう静かになった。


「ごちそうさまでした。」


菜々はそっと箸を置く。


「私も、ごちそうさまでした。」


千歳も箸を下ろし、食べる気をなくしていた。


この光景を目にする雪奈はさらに苛立った。


「少し注意しただけで、もう反抗する気?何なのその態度は?」


「お母さん、ご飯中話したら怒るし、食べ終わっても怒る。私たちに一体どうしてほしいの?」


すると、雪奈は千歳に指をさす。


「最近は随分と生意気になったわね、母親に口答えするなんて……!」


「もういいだろ、朝から何をそんなに怒ってる!」


真司は見ていられず。頭では、汐里と子どもたちと過ごした穏やかな日々の記憶が浮かんでくる。


「さあ、学校まで送るよ!」


夫の言葉で雪奈はようやく怒りを抑え、子どもたちに話した。


千歳と菜々はランドセルを背負い、母について車へ向かった。


雪奈も先ほど自分が言い過ぎたことを少し反省していた。特に、真司の前で感情的になったのは良くなかったと思い直す。


「いってらっしゃい、頑張ってね。」


車の中で、雪奈は優しく学校に入る娘たちに励みの言葉を送った。


千歳も菜々も笑顔で手を振って別れた。


車のドアが閉まると、菜々が口を尖らせた。


「お姉ちゃん、菜々、汐里に会いたいよ――!」


千歳は菜々を睨みついて、忠告をする。


「そんなこともう二度と言わないで。でないと、汐里がどんなに優しくても、もううちに来ないから。」





雪奈は家に戻り、何度も深呼吸し、気持ちを立て直したから家に入った。


真司も出勤の準備をしている。雪奈は急いで彼のジャケットを手に取り、優しく着せかけた。


「この家具、真司が選んだの?」


真司はただ頷き、詳しいことは言わなかった。


「てっきり真司は明るい色が苦手だと思っていたよ~」


雪奈はそう言いながら、真司の後ろについて玄関に向かった。


「気に入らない?」


「ううん、とても素敵だと思う。濃い色にも飽きてきたし、明るい色も悪くないの。」


雪奈は微笑んで、夫の腕に優しく手を添えた。


「あなたが好きなら、私も好きよ。」


「じゃあ、行ってくる」


真司は軽く笑って仕事に行き、雪奈は夫の車が見えなくなるまで見送り、それから家の中に戻った。


家に入ると表情が一変し、冷たくなった。


「三階の部屋の備品、全部取り替えておいて!」


相沢汐里のことを思い出すたび、雪奈の心はざわめく。


一見、騒ぎは収まったように見えても、実際は何も終わっていない。娘たちはまだ、あの女のことを忘れられずにいる。そして、真司の本当の気持ちも、雪奈には読み切れなかった。


それでも、昨夜自分のために酔って迎えに来てくれて、高価な土地までプレゼントしてくれた。その事実だけは、雪奈の心を少しだけ慰めてくれた。


やっぱり、真司はまだ自分を愛している。


雪奈はそう思いながらソファに腰を下ろした。柔らか触り心地と、優しい色。やっぱり真司のセンスはいい。


部屋の中を見回し、統一感のある明るい色のインテリアに満足しながらも、なぜか以前と比べて何かが足りないような気がした。しかし、何が足りないのか思い出せない。


スマートフォンを手に取り、見慣れないブランドを検索してみる。すると、それが普通の高級ブランドではなく、世界的なラグジュアリーブランドだと知る。


その時、玄関のチャイムが鳴った。


「奥様、家具屋さんが配達に来たそうです。」


使用人が伝えにきた。


「入れてもらって」


しばらくして、店のスタッフがレコードプレーヤーとキャビネットを運び込んだ。


その時になって、雪奈は足りなかったのはレコードプレーヤーだと気づく。


「前と同じ場所に置いて。」


レコードプレーヤーの置き場所だけがずっと空いていた。どうやら真司は、自分が音楽を聴くのが好きなことを覚えていてくれたと思い、少し幸せで満たされた。


スタッフが伝票を渡した。


「相沢様でよろしいですか?ご署名をお願いします」


口元にまだ微笑みが残る雪奈はそのまま固まった。


「誰ですって?」


スタッフは再び伝票を確認した。


「相沢汐里、相沢様ですね。」


雪奈は伝票を手に取り、そこに相沢汐里の名前が書かれているのを見て、改めてブランド名に目をやった。つまり、この家具はすべて相沢汐里が選んだ!


雪奈は使用人を呼びつけた。


「この家具、一体誰が買いに行ったの?」


「旦那様と相沢様が一緒に選びに行きました。」


使用人は怯えながら、正直に答えた。


雪奈の怒りは頂点に達し、さっきまで感じていた幸せは一瞬で泡になった。


「それで、これは……」


スタッフも事情が分からず戸惑っている。


使用人は慌ててスタッフを外へ連れ出し、急いで名前でサインを済ませ帰らせた。





森島グリーン


私は朝礼を終えて戻ると、注文した家具が届いたという知らせが入っていた。


電話を手に取り、氷室真司に連絡を取る。


真司はオフィスで数人の幹部社員と会議中だった。着信音が突然鳴った。彼は仕事中に邪魔が入るのを最も嫌うが、画面に表示された名前を見て、動揺した。


しばらく無言で着信を見つめ、応答もしなければ拒否もしなかった。


社員たちは顔を見合わせ、今日は社長の様子がいつもと違うと感じていた。突然怒ったり、嬉しくなったり、また沈黙になったり……


「氷室社長、ご用事があるようで、ここで失礼します。また後ほど会議を続けましょう。」


社員たちは慌てて退室した。


「出てはダメだ」と自分に言い聞かせる真司。絶対に出てはいけない。


やがて電話は自動的に切れた。彼は深呼吸して、スマートフォンを机に伏せて手でおでこを当て、言いようのない感情に包まれていた。


氷室真司は電話に出なかった。


多分会議中か、忙しいのかもしれないと思い、私はスマートフォンを置いた。


その後、彼にメッセージを送った。


「レコードプレーヤーを注文した」

「今日届く予定」


忙しい一日が過ぎていくが、氷室真司からの返信はなかった。メッセージも既読にならず、返事もない。


何かおかしいと感じ始めた。これは一体どういう意味なのだろう?


夕方、学校帰りに菜々がドライバーの携帯から電話をかけてきた。


「汐里、またうちに来てくれない?ママが帰ってきて、すごく怖いの。会いたいよ。」


ああ、氷室真司は天宮雪奈を家に戻したのか。だから、私の電話には出なかったのね。


つまり仲直りしました……


レコードプレーヤー、ちょうど良いタイミングで届けられたってことね。


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