菜奈ちゃんは、到着した消防と警察のひとに、こっぴどく怒られていたけど、ちゃんと手には雪哉くんのご両親の写真立てを持っていた。
「ほら、雪哉。大事にしなさいよ!」
菜奈ちゃんはそういって、その写真立てを雪哉くんに渡したんだ。
梅乃宮家の家族が四人で写っている写真。お父さんとお母さんと、まだ幼い雪哉くんと、星哉さん。みんながにこやかに微笑んでいる、幸せが溢れている写真。
「……ありがとな。でも、菜奈、おまえ危ないことすんなよ。なにもなかったからいいものの」
少しぶっきらぼうに話す雪哉くん。
「ふん。アンタたちを守ってくれたご両親の写真よ。大事にしなさいよ。こんなタイミングで助かったなんて、奇跡だからね」
菜奈ちゃんはにこりともせず、そのまま背を向けて家の中に入っていく。
「…………」
その菜奈ちゃんの背中を雪哉くんは、なにか言いたげに見ていた。そして、そんな雪哉くんをあたしが見ていた。
あたしが思うに、雪哉くんは菜奈ちゃんのことが好きなんじゃないかって思う。女の勘ってやつ。
「とりあえず、ここは僕が対応をするから、立花さんすみませんが、おばぁちゃんと雪哉をとりあえず、お願いできませんか?」
聖哉さんが警察に説明などをするらしい。
「わかりました。行きましょう、梅乃宮さん」
父と母が雪哉くんと、鈴おばぁちゃんを家の中に案内していた。
雪哉くんは遅かれ早かれ、この家はダメだとわかっていたみたいだけど、鈴さんの顔は暗かった。
「立花さん、すみません。私がこの思い出の家を壊したくないと、建て直しを遅らせたせいで、こんなことになってしまい、言葉がありません」
鈴さんの声は沈んでいた。
……そっか。鈴さん、それで建て替え工事を延長していたんだ。思い出詰まったこの家を壊したくはなかったんだ。
「菜奈もパーティに結局来たんだな。珍しい」
兄が怪訝な顔をしていた。
梅乃宮家と、うちの家族とみんなで食事をしたんだけど、雪哉くんも鈴さんも聖哉さんも表情は暗かった。
……そりゃ、そうだよね。おうちがあんなことになっちゃったんだもん。
「ね、ねぇ、でもほら、みんなが無事でほんとによかった! ねぇ、お母さん」
あたしはなるべく明るい雰囲気に持っていこうと、母に話しかけた。
「そうよ、そうよ! 星奈ちゃんのいう通りよ! みなさん、お怪我もなくってよかったわ」
「そうですよ。今夜はうちもごちそうがあるんで、どうぞ遠慮なく、食べてください」
父もみんなに食事をするように勧める。
「そうよ。落ち込んでも起こったことはなにも変わらないわ。鈴さん、今日で八十歳だよね? あたし、お祝いに来たのよ。はい、プレゼント」
そう言って、菜奈ちゃんは笑顔で鈴さんに小さな紙袋を渡した。
「え! いいのかい? 菜奈ちゃん」
鈴さんの表情が一気に明るくなった。
げげっ! あたしなんにも準備してないや。まさか今日、こんな事態になるって思ってなかったから。
あたしは雪哉くんのほうをチラとみた。
「安心しろよ。菜奈はともかく、誰もおまえがプレゼントを準備してるなんて思ってないさ」
雪哉くんは澄ました顔で、こちらを
塩! 塩対応すぎ!
「ゆ、雪哉、そんな言い方はないだろ」
雪哉くんの隣に座っている聖哉さんが、雪哉くんをたしなめた。
そう、聖哉さんはいつだって優しい! 昔っからすごく優しい。
雪哉くんとは正反対だよ。