期間限定の和菓子、琥珀糖『魔法の鉱石』をお店の棚に眺めながら、うっとりとする。
可愛い、奇麗、美味しそう、三拍子そろってる……。
名付け親はあたし。今時っぽい名前のほうが売れそうな気がしない?
『魔法の鉱石』、これを食べた雪哉くんが、あたしにメロメロになりますように、って願かけして名付けた和菓子。
もちろん名前の由来は誰も知らない。
女将さんは「ほう、なかなかいい名前じゃないか」って言ってた。ふふ。
琥珀糖は寒天、水飴、シロップなどを使い、カラフルに仕上げた和菓子なんだ。
ブリキ風蓋付きの小さなプラスチック容器の中に、黄色、ピンク、紫、水色、透明、オレンジなど、菱形の小さな砂糖菓子が詰め込まれている。
あたしの大好きな和菓子で、実はこれを今回作ったのはあたし。
初めて『魔法の鉱石』を作った時は、そのレトロでポップな可愛さに心が躍った。
……可愛いは正義だよ。
まず出来た琥珀糖を長細く切り、そこから、斜めに切っていく。人の手で切っているので、菱形といっても、どれも大きさや形が少し違う。
そこがまた魅力でもあると思う。
口に入れた瞬間、まずシャリとした噛み心地に驚く。それがぷるるんとした滑らかな食感に、少しずつ変わっていく。
すぐにはっきりとした味はわからないけど、しばらくすると、ほんのり何味かわかってくるんだ。
謎解きのような感覚で苺、葡萄、レモン、オレンジなど色々な味が楽しめる。ほどよく甘く、柔らかい口あたりだ。
一つ食べたら、もう一つと、つい手が伸びてしまう。
鮮やかで宝石みたいな見た目といい、優しい味といい、食べた瞬間、幸せに包まれる——。
そんな和菓子だった。八月半ばまでの限定商品だ。
今年もしこの商品が売れたら、来年も同じ物を作りたいと考えている。
自分が作った物が売れる、こんな楽しいことはないね。
……これ、鈴さん食べないかなぁ? 昨日はなんだかんだでプレゼントもなにも渡せてないし……。よし、今日はこれを買って帰ろう! 時間はかかるかもしれないけど、少しでも元気になってほしいし……。
***
「た、たっだいまぁ~!」
あたしは鉄の塊のような自分の家の扉を開ける。今日は少し帰りが遅くなっちゃった。
「お、お嬢様。おかえりなさいませ」
例のごとく、駒塚が走ってきた。
「お嬢様、こんな時間までどこにいらしたのです? いつもより遅いではないですか。連絡をくだされば、この駒塚、すぐにでも迎えにいきましたものを……」
「ああ、本屋に寄って来たの。駒塚、迎えはいいよ。駒塚だって忙しいでしょ」
梅乃宮さん一家も加わって、駒塚もさらに忙しいはずだ。
「お、お嬢様……。なんとお優しい……」
駒塚の目が潤んでいる。
ごめんね、駒塚。歩いて帰宅するのは雪哉くんの大学近くまで、いつも寄り道……、じゃない。散歩してから帰ってるからなんだ。
たとえ駒塚が心配しても、雪哉くんと同じ家に住んでも、その習慣だけは直らないし、直す気なんてさらさらないよ……。