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第17話

 期間限定の和菓子、琥珀糖『魔法の鉱石』をお店の棚に眺めながら、うっとりとする。


 可愛い、奇麗、美味しそう、三拍子そろってる……。

 名付け親はあたし。今時っぽい名前のほうが売れそうな気がしない?


 『魔法の鉱石』、これを食べた雪哉くんが、あたしにメロメロになりますように、って願かけして名付けた和菓子。

 もちろん名前の由来は誰も知らない。


 女将さんは「ほう、なかなかいい名前じゃないか」って言ってた。ふふ。


 琥珀糖は寒天、水飴、シロップなどを使い、カラフルに仕上げた和菓子なんだ。

 ブリキ風蓋付きの小さなプラスチック容器の中に、黄色、ピンク、紫、水色、透明、オレンジなど、菱形の小さな砂糖菓子が詰め込まれている。


 あたしの大好きな和菓子で、実はこれを今回作ったのはあたし。

 初めて『魔法の鉱石』を作った時は、そのレトロでポップな可愛さに心が躍った。


 ……可愛いは正義だよ。


 まず出来た琥珀糖を長細く切り、そこから、斜めに切っていく。人の手で切っているので、菱形といっても、どれも大きさや形が少し違う。

 そこがまた魅力でもあると思う。


 口に入れた瞬間、まずシャリとした噛み心地に驚く。それがぷるるんとした滑らかな食感に、少しずつ変わっていく。

 すぐにはっきりとした味はわからないけど、しばらくすると、ほんのり何味かわかってくるんだ。


 謎解きのような感覚で苺、葡萄、レモン、オレンジなど色々な味が楽しめる。ほどよく甘く、柔らかい口あたりだ。

 一つ食べたら、もう一つと、つい手が伸びてしまう。

 鮮やかで宝石みたいな見た目といい、優しい味といい、食べた瞬間、幸せに包まれる——。

 そんな和菓子だった。八月半ばまでの限定商品だ。


 今年もしこの商品が売れたら、来年も同じ物を作りたいと考えている。

 自分が作った物が売れる、こんな楽しいことはないね。


 ……これ、鈴さん食べないかなぁ? 昨日はなんだかんだでプレゼントもなにも渡せてないし……。よし、今日はこれを買って帰ろう! 時間はかかるかもしれないけど、少しでも元気になってほしいし……。


 ***


「た、たっだいまぁ~!」 

 あたしは鉄の塊のような自分の家の扉を開ける。今日は少し帰りが遅くなっちゃった。


「お、お嬢様。おかえりなさいませ」

 例のごとく、駒塚が走ってきた。


「お嬢様、こんな時間までどこにいらしたのです? いつもより遅いではないですか。連絡をくだされば、この駒塚、すぐにでも迎えにいきましたものを……」


「ああ、本屋に寄って来たの。駒塚、迎えはいいよ。駒塚だって忙しいでしょ」

 梅乃宮さん一家も加わって、駒塚もさらに忙しいはずだ。


「お、お嬢様……。なんとお優しい……」

 駒塚の目が潤んでいる。


 ごめんね、駒塚。歩いて帰宅するのは雪哉くんの大学近くまで、いつも寄り道……、じゃない。散歩してから帰ってるからなんだ。


 たとえ駒塚が心配しても、雪哉くんと同じ家に住んでも、その習慣だけは直らないし、直す気なんてさらさらないよ……。


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