あたしは鈴さんの部屋をノックした。鈴さんの部屋は一階だ。
ここならトイレなどの移動も、そんなに大変じゃないだろうと兄が決めた。
部屋の中から「はい」と返事があったので、あたしは鈴さんの部屋を開けた。
鈴さんの部屋は和室。彼女は丸いテーブルの前に座ってお茶を飲んでいた。
鈴さんの隣には、ワイシャツ姿の聖哉さんが座って、同じくお茶を飲んでいた。
聖哉さんは仕事帰りらしい。役場勤めのいかにもマジメな好青年って感じがする。
「あ、おかえり。星奈ちゃん」
「おや、今帰りかい? おかえり」
聖哉さんと鈴さんから、柔らかいトーンで言葉をかけられた。あたしも鈴さんの前に腰掛けた。
聖哉さんが「どうぞ」とあたしに座布団を渡してくれた。
「ありがとう。なんと今日はお弁当の本を買ってきたの! じゃじゃ~ん!!」
座布団を敷いた上に座り直しながら、あたしは本を見せた。表紙にはハート型のお弁当箱に、可愛くて美味しそうなおかずが入った写真が載っている。
「なにが『愛情しか入ってないお弁当の作り方』だよ。そんな本、どこに売ってたんだよ。よく見つけてきたな」
あたしの後ろから愛おしい声がした。雪哉くんが帰ってきたらしい。
「ゆ、雪哉くん! おかえり~!!!」
うそぉ! 今日も会えちゃった! あ、同じ家だから当たり前か……。
でも嬉しい、うれしい、ウレシイ~よぉ!! これからしばらくは毎日こんな生活か……ふふ。
「雪哉、バイトの面接どうだった?」
聖哉さんが雪哉くんに尋ねる。
……バイト?
「ああ。おそらく受かるだろうな」
雪哉くんが当たり前だ、このおれが落ちるわけがないと目で語った。
「そ、そうか。そうだよな」
聖哉さんがうんうんと
「え? 雪哉くん、バイトなんてするの?」
今までバイトなんてしてなかったじゃない。
「家が壊れたからな。いつまでも、ここにいるわけにはいかないし」
「えー! うちはぜんぜん大丈夫だよ~! いつまででも居てくれていいんだよ。あ、そうだ、鈴さんにあたしからプレゼントがあるんだ」
あたしはラッピングされた、琥珀糖『魔法の鉱石』を鈴さんに手渡す。
「まぁいいのかい?」
鈴さんの顔が綻んだ。
「うん。一日遅くなっちゃってごめんね」
「星奈ちゃんは本当に優しいね」
聖哉さんがあたしを見て、まぶしい笑みを浮かべた。
「開けていいかい?」
鈴さんが尋ねてきた。
「もっちろんだよ!!」
可愛いオレンジのリボンに、元気が出る黄色のビタミンカラーの袋に『魔法の鉱石』を入れてラッピングしてきた。
「まぁ、なんて可愛いお菓子だろうね」
あたしが作った琥珀糖を見て、鈴さんが満面の笑顔を見せた。それを見たあたしの頬も緩む。