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第18話

 あたしは鈴さんの部屋をノックした。鈴さんの部屋は一階だ。

 ここならトイレなどの移動も、そんなに大変じゃないだろうと兄が決めた。

 部屋の中から「はい」と返事があったので、あたしは鈴さんの部屋を開けた。


 鈴さんの部屋は和室。彼女は丸いテーブルの前に座ってお茶を飲んでいた。

 鈴さんの隣には、ワイシャツ姿の聖哉さんが座って、同じくお茶を飲んでいた。

 聖哉さんは仕事帰りらしい。役場勤めのいかにもマジメな好青年って感じがする。


「あ、おかえり。星奈ちゃん」

「おや、今帰りかい? おかえり」

 聖哉さんと鈴さんから、柔らかいトーンで言葉をかけられた。あたしも鈴さんの前に腰掛けた。


 聖哉さんが「どうぞ」とあたしに座布団を渡してくれた。


「ありがとう。なんと今日はお弁当の本を買ってきたの!  じゃじゃ~ん!!」

 座布団を敷いた上に座り直しながら、あたしは本を見せた。表紙にはハート型のお弁当箱に、可愛くて美味しそうなおかずが入った写真が載っている。


「なにが『愛情しか入ってないお弁当の作り方』だよ。そんな本、どこに売ってたんだよ。よく見つけてきたな」

 あたしの後ろから愛おしい声がした。雪哉くんが帰ってきたらしい。


「ゆ、雪哉くん! おかえり~!!!」

 うそぉ! 今日も会えちゃった! あ、同じ家だから当たり前か……。


 でも嬉しい、うれしい、ウレシイ~よぉ!! これからしばらくは毎日こんな生活か……ふふ。


「雪哉、バイトの面接どうだった?」

 聖哉さんが雪哉くんに尋ねる。


 ……バイト?


「ああ。おそらく受かるだろうな」

 雪哉くんが当たり前だ、このおれが落ちるわけがないと目で語った。


「そ、そうか。そうだよな」

 聖哉さんがうんうんとうなずいた。


「え? 雪哉くん、バイトなんてするの?」

 今までバイトなんてしてなかったじゃない。


「家が壊れたからな。いつまでも、ここにいるわけにはいかないし」


「えー! うちはぜんぜん大丈夫だよ~! いつまででも居てくれていいんだよ。あ、そうだ、鈴さんにあたしからプレゼントがあるんだ」

 あたしはラッピングされた、琥珀糖『魔法の鉱石』を鈴さんに手渡す。


「まぁいいのかい?」

 鈴さんの顔が綻んだ。


「うん。一日遅くなっちゃってごめんね」


「星奈ちゃんは本当に優しいね」

 聖哉さんがあたしを見て、まぶしい笑みを浮かべた。


「開けていいかい?」

 鈴さんが尋ねてきた。


「もっちろんだよ!!」

 可愛いオレンジのリボンに、元気が出る黄色のビタミンカラーの袋に『魔法の鉱石』を入れてラッピングしてきた。


「まぁ、なんて可愛いお菓子だろうね」

 あたしが作った琥珀糖を見て、鈴さんが満面の笑顔を見せた。それを見たあたしの頬も緩む。




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