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第20話

 やがて泣き疲れて、スヤスヤと眠った鈴さんを聖哉さんがそっと布団に寝かせた。


 あたしたちは静かに鈴さんの部屋を後にした。


「星奈ちゃん、どうもありがとう。接し方慣れてるね」

 部屋を出て階段を登り終えたところで、聖哉さんから声をかけられた。


「あ、ううん。そうでもないよ。お店でも最近はこういうことがよくあるんだ。高齢化社会が進んでるからかな? 一人だ、寂しいって、お店にもよく高齢のお客さんが来るの」


 あたしと女将さんはお店の常連さんたちの相談や、悩みをよく聞いている。主に女将さんがアドバイザーだけど。

 月縁堂は老舗だから、地域のひとたちの相談窓口みたいになっている時がある。時々、本当に和菓子屋かわからなくなる。


「そうなんだ。星奈ちゃんは辛いひとに寄り添える、そんな優しさも持ち合わせているんだね」

 聖哉さんの目が細くなり、あたしに微笑みかけてくる。澄んだ濁りのない奇麗な瞳。


「そ、そ、そんなこと、いやぁ、聖哉さんってば褒め過ぎだよ~」

 あたしは恥ずかしくなって、顔の前で手を振って否定する仕草をする。


「おい、星奈。腹減った。荷物を置いたら、下に降りるぞ。早くカバン置いてこい」

 雪哉くんがあたしに話しかけてきた。


「え、ああ、うん。そうだね」


「あ、あのさ、星奈ちゃん、もし良かったら、今度ご飯ご馳走させてくれない? 今日のお礼も兼ねてさ」

 ドアノブを握るあたしに、聖哉さんが真剣な眼差しをぶつけてきた。


「え……。あ、お礼なんていいよ。そんな大したことしてないよ」


「いや、僕が気が済まないんだ。だめかな?」


「え、あ、じゃあ、お言葉に甘えちゃおっかなぁ……?」

 そう言いながらも、あたしは雪哉くんの反応を見るが、あたしが誰と食事に行こうが、まるで興味なさそうに廊下に飾られている絵を見ていた。


「星奈ちゃん、ありがとう。じゃあ、いいお店探しておくね。呼び止めてごめんね」

 聖哉さんが顔の前で片合掌してきた。


「おい、早くしろよ星奈。おれだけ下に降りるからな」

 そう言って雪哉くんは足早に階段を降りていく。


 あたしは自分の部屋にカバンを置いて、急いで雪哉くんの後を追う。


「ねぇ、雪哉くん、待ってよ」


「…………」

 なにも言わない雪哉くん。


「ねぇ、雪哉くん、バイトってどこでするの?」

 あたしは雪哉くんに追いつき、尋ねた。


「おまえに関係ないだろ」


「え〜! 教えてくれてもいいじゃん~。ケチ!」


「ケチで結構。おまえに教えたら、店に毎日来そうだからイヤだね」

 目を伏せて、いつもの塩対応する雪哉くん。


「な、なんで~。別にいいじゃん! 常連さんでお店は成り立ってんだよ~! 雪哉くんのけちんぼ!!」


「…………」

 なにも言わない変な雪哉くん。さっきはご飯食べに下に降りるぞって誘ってくれたじゃん! 変なの、変なの~!!  




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