「おはよ~! 朝ですよ~!!」
あたしは大声を出しながら廊下を歩く。もう朝の六時だ。
「星奈ちゃん、おはよう。起こしてくれて助かったよ」
左のドアが開いて、聖哉さんがストライプ柄のパジャマのまんま出てきた。寝癖もひどい。
「あ、聖哉さん、お昼ってどうしてるの?」
「え、昼? 食堂に行くか、お弁当を買ったり、外で食べたりしてるけど……。前は雪哉か、ばぁちゃんが作ってくれてたんだけどね」
「そんなことだろうと思った」
「え?」
「えへへ、聖哉さんにもお弁当を作って正解だったよ!」
「えぇ!? 星奈ちゃんが作ってくれたの? 嬉しいなぁ。ありがとう」
聖哉さんが朝からとびっきり爽やかなスマイルを見せてくれる。
……良かった、朝四時に駒塚と市場に向かい、新鮮な魚介類を手に入れ、一時間かけてお弁当を作った甲斐があったよ。
聖哉さんはご機嫌で、鼻歌を歌いながら洗面台のほうに歩いていった。
「後は雪哉くんを起こさないと。イケメン坊やはもぅ、手がかかって大変ね」
一緒に暮らしてわかったこと、どうにも雪哉くんは朝が弱い。
……ウシシシ。今朝はどういう起こし方してやろうか……? 考えただけで笑いが止まらない。
同居って最高!
昨日は『うるさい! 起こすならもっと優しく起こせよ! 大声で起こすな!』と怒鳴られた。
あたしは雪哉くんの部屋の前で軽く咳払いをする。そして気持ちを落ち着かせる。
あえて起きない程度に、軽くノックを二回する。やはり返事はない。
いや、この程度で起きてもらっては困る。
あたしはそぉ~っと、ドアを開けて彼の部屋に侵入する。
……よし、起きてない! これはチャーンス! うふふ。
あたしは忍び足で雪哉くんに近づいていく。
あ~! だめだ。にやけ顔が止まらない。
母セレクトのヨーロピアンアンティークのロイヤルレザーベッドに雪哉くんがスヤスヤと寝ている。
しかも
しかもなんでキングサイズなの? あたしですらクイーンサイズだよ。
ここにも母の思惑を感じずにはいられない。
母はあたしの恋を全力で応援してる……!!
雪哉くんは数字にうるさい兄、
黒も似合うなぁ……。
あたしは雪哉くんを起こさずに、彼の
……なんて長いまつ毛、なんて整ったお鼻、吹き出物すら見当たらない真珠のようなお肌。一つ一つの要素が美しい。神に愛されし、偉大なるパーツたち。世界の天才数学者たちをも唸らせる完璧な黄金比。う~ん! 本日もお美しい……!! ほ、本当に人間なのかな?
よっこらしょ! っと~。
朝の四時から市場に行き、お弁当を作ったので、足が疲れた。ベッドの隅にあたしも座る。
……起こしてはいけない。決して彼を起こしてはいけない。あと十分はこの顔を眺めるんだ。だって昨夜の雪哉くんってば、塩すぎて、夕飯時もだんまりだったしさ。
そのままお風呂にいって、昨日は『おやすみ』の言葉すら言えなかったんだよ……。
あたし、そんなのイヤ! 最低限、挨拶はしようよ。悲しすぎるよ!