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第21話

「おはよ~! 朝ですよ~!!」

 あたしは大声を出しながら廊下を歩く。もう朝の六時だ。


「星奈ちゃん、おはよう。起こしてくれて助かったよ」

 左のドアが開いて、聖哉さんがストライプ柄のパジャマのまんま出てきた。寝癖もひどい。


「あ、聖哉さん、お昼ってどうしてるの?」


「え、昼? 食堂に行くか、お弁当を買ったり、外で食べたりしてるけど……。前は雪哉か、ばぁちゃんが作ってくれてたんだけどね」


「そんなことだろうと思った」


「え?」


「えへへ、聖哉さんにもお弁当を作って正解だったよ!」


「えぇ!? 星奈ちゃんが作ってくれたの? 嬉しいなぁ。ありがとう」

 聖哉さんが朝からとびっきり爽やかなスマイルを見せてくれる。


 ……良かった、朝四時に駒塚と市場に向かい、新鮮な魚介類を手に入れ、一時間かけてお弁当を作った甲斐があったよ。


 聖哉さんはご機嫌で、鼻歌を歌いながら洗面台のほうに歩いていった。


「後は雪哉くんを起こさないと。イケメン坊やはもぅ、手がかかって大変ね」

 一緒に暮らしてわかったこと、どうにも雪哉くんは朝が弱い。


 ……ウシシシ。今朝はどういう起こし方してやろうか……? 考えただけで笑いが止まらない。

 同居って最高! 


 昨日は『うるさい! 起こすならもっと優しく起こせよ! 大声で起こすな!』と怒鳴られた。


 あたしは雪哉くんの部屋の前で軽く咳払いをする。そして気持ちを落ち着かせる。

 あえて起きない程度に、軽くノックを二回する。やはり返事はない。

 いや、この程度で起きてもらっては困る。


 あたしはそぉ~っと、ドアを開けて彼の部屋に侵入する。


 ……よし、起きてない! これはチャーンス! うふふ。

 あたしは忍び足で雪哉くんに近づいていく。


 あ~! だめだ。にやけ顔が止まらない。


 母セレクトのヨーロピアンアンティークのロイヤルレザーベッドに雪哉くんがスヤスヤと寝ている。

 しかも天蓋てんがいまでついていて、これはもう、どっからどう見ても王子様……。


 しかもなんでキングサイズなの? あたしですらクイーンサイズだよ。

 ここにも母の思惑を感じずにはいられない。


 母はあたしの恋を全力で応援してる……!!


 雪哉くんは数字にうるさい兄、いつきのシルクのパジャマを着て寝ている。今日のパジャマの色はブラックだ。

 黒も似合うなぁ……。


 あたしは雪哉くんを起こさずに、彼のそばにいくというミッションを見事に成功させ、そのご尊顔を拝見する。


 ……なんて長いまつ毛、なんて整ったお鼻、吹き出物すら見当たらない真珠のようなお肌。一つ一つの要素が美しい。神に愛されし、偉大なるパーツたち。世界の天才数学者たちをも唸らせる完璧な黄金比。う~ん! 本日もお美しい……!! ほ、本当に人間なのかな?


 よっこらしょ! っと~。

 朝の四時から市場に行き、お弁当を作ったので、足が疲れた。ベッドの隅にあたしも座る。


 ……起こしてはいけない。決して彼を起こしてはいけない。あと十分はこの顔を眺めるんだ。だって昨夜の雪哉くんってば、塩すぎて、夕飯時もだんまりだったしさ。

 そのままお風呂にいって、昨日は『おやすみ』の言葉すら言えなかったんだよ……。


 あたし、そんなのイヤ! 最低限、挨拶はしようよ。悲しすぎるよ!






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