「え?」
あたしの頭はこの状況に対応できない! だってこんなことされたことない!
雪哉くんのことが好きだから、今までだってずっと交際を申し込まれても断ってきたのに……!!
こ、この状況はなに?
いきなりこんなこと……!
こ、こんな……!!
お、おいしすぎる展開~!! まっ、待ってましたぁ!!!
「雪哉くん……」
あたしは目を閉じた。こういう状態の時はこうするもんだと、昔見ていた少女漫画が教えてくれた。
「……星奈、おまえ……」
ほらやっぱり雪哉くんも戸惑ってる。お互い、未経験だから慣れないよね。でもあたし、待つよ、いつまでも。
こういう時は、女からがっつくのはみっともない行為なハズ……。
「……おまえ、ほんとに馬鹿だな。少しはビビった態度見せろよ」
雪哉くんの手があたしから離れたと思ったら、おでこに軽くデコピンされた。
「あてっ」
あたしはデコピンされた場所を手でさする。
雪哉くんはベッドの端に腰かけていた。
……なぁんだぁ、つまんないの。キスぐらいしたかったなぁ……。
「星奈、おまえさ、兄貴と飯食い行くの?」
雪哉くんがあたしに背中を向けたまんま、尋ねてきた。
「え? ああ、うん、行くんじゃないかな?」
「行くんじゃないかなって、おまえ自分のことだろ」
「ああ、うん。じゃあ約束したし、たぶん行く!」
「たぶんか……、結局行くのかよ。まぁSSコンビでいいんじゃね」
「な、なによ~、SSコンビって」
「星奈と聖哉でSS」
「あ、スーパースターだね! 聖哉さんとあたしで」
「つまんね」
雪哉くんの冷たい言葉が飛ぶ。
「ねぇ、雪哉くんも一緒にいこっ!?」
あたしは雪哉くんの背中に向かって声をかけた。
「……行かない」
「なんでなんで。あたし、雪哉くんがいるほうがいい!」
あたしはどさくさに紛れて、雪哉くんの背中に抱きついた。隙ありぃ~!! やったね!
今、ここでは二人きり。振り払われてもいいもん! 初めての雪哉くんの背中……、きゃー! あったかいし、大きな背中~!
「……しかたがないから、行ってやるよ。おまえの世話も兄貴一人じゃ、大変だろうしな……」
内容は相変わらず塩だが、雪哉くんの声のトーンがおかしい。
あたしを振り払おうともしない。え? 想像してたのと違う……。『やめろよ!』って言わないの……?
え、このまま、まだしばらくこうしてていいの?
「……ハァ。おまえさ、用が済んだなら、早く出て行ってくんない……?」
雪哉くんがなぜか、ため息をつき、すばやくもう一度ベッドに入った。
「せっかく起こしたのに、もぅ……!!」
あたしが掛け布団を剥がしにかかると、雪哉くんが落雷のような大声を出した。
「今、布団をおれから奪ったら、おまえを許さないからな!! きちんと起きてるから早く、早く出ていけよ!!!!」
ヒ、ヒィ~!!
あたしは慌てて彼の部屋を飛び出した。
……な、何事? あたしなんかした? あ、抱きついたから、あんな怒ってんのか……。普段、あんなに大声出さないのにな。
あたしとくっつくの、そんなにイヤだったの……?