あたしは雪哉くんの部屋の前に立っていた。涙が出そうだ。
……あたしバカだ、調子に乗りすぎだ。
え、そんなにあたしとくっつくのイヤだった?
あんな落雷を落とすほど?
……あたし、むちゃくちゃ嫌われているんだ。
泣きそうになるのを必死にこらえて、あたしは自分の部屋に走って戻った。
ベッドに寝転んで涙を流す。
……失恋だね、これは、もう、決定だ。
しばらくすると、下から「星奈ちゃん、朝ごはんよ~」って母の声がした。
……お母さん、応援してくれたのにごめんね。雪哉くん、相当あたしのこと、きらいみたい……。
「う、うん。今行くね~」
あたしは涙を拭いて、ファンデを塗り直して下に降りた。これで泣いていたってバレないはず。
下に降りると、父と母と兄、そして梅乃宮一家の方々がそれぞれ席に着いていた。
みんなで大きなテーブルを囲んでいる。駒塚と家政婦二人がお皿を並べたり、お料理を運んだりしている。今朝は洋食らしい、いつもの如くご馳走だ。
気が利きすぎる母のせいで、またしても左の席が聖哉さん、右の席が雪哉くんだ。
母は雪哉くんか、聖哉さん、どちらかとくっつけばいい、と思っているのかもしれない。
どちらの梅乃宮くんもお隣が過ぎる。
あたしは気まずい中、自分の席に座る。
席に着くと駒塚がお水を注いでくれた。あたしはテーブルナプキンを半分に折って膝に乗せた。右にいた駒塚がいなくなると、あたしと雪哉くんはなぜか目が合った。雪哉くんがあたしを見ていたらしい。
え!? さっきのこと、まだ怒ってるの?
あたしから顔を逸らした。
「いやぁ、みんなで食べる朝ご飯は美味しいねぇ~」
父が上機嫌で焼きたてのクロワッサンを食べている。
「ほんと、ほんと。楽しいわぁ。大家族みたいね!」
母の言った言葉にあたしは吹き出しそうになった。
大家族……。雪哉くんと家族になれたら、こんな感じなのかなぁ。
「こんなによくしていただいて、本当にありがとうございます。何もしないで置いてもらうわけには行きませんので、私にもなにか仕事を与えてください」
鈴さんが申し訳なさそうに言う。
「ばぁちゃん、食事中にやめろよ。後にしろよ」
雪哉くんが鈴さんに注意する。
「あらぁ、いいんですよ。梅乃宮さんにうちは昔、とってもお世話になったんですから。特にお母様にはよくしていただいたわ。さすがは梅乃宮家の人間だと思ったわ」
母が鈴さんの申し出を笑顔で断わりながら、わけのわからない話を始めた。
「そうですよ。うちのほうが、もっと早くなにかしなきゃいけなかったんですよ。梅乃宮財閥にはお世話になりっぱなしだったんですから。いやぁ、あんなに小さかった御子息二人がこんなに立派に育って、梅乃宮家も安泰ですなぁ」
父が喜色満面で、昔を懐かしんでいる様子で話す。
その話に数字にうるさい兄が頷いている。兄もなんか知っている感じ。
え? 梅乃宮財閥? ん? あの有名な財閥? ……なんの話?
「おじさん、その話はちょっと……」
雪哉くんが父の話を止めた。
は? はぁ?
も、もしかして雪哉くんも、聖哉さんも、あの梅乃宮一家の御曹司なの~ぉ!?
は、はぁぁぁぁぁぁ!? 日本、いや、世界進出までしている大企業なんですけど〜!!!?