朝ごはんを食べ終えると、二階に上がっていく雪哉くんの後をあたしは追いかけた。
二階に上がった雪哉くんがちらとあたしのほうを見た。待ってくれているような気がした。
急いで二階に上がる。
「あ、あのさ、雪哉くん、うちの兄が治験のバイト、無理やり押し付けてごめんね」
嫌われているかもしれないが、これだけは言っておこうと思った。
「……別に。ちょうどお金が必要だったし、良かったんじゃね? ただ治験が終わった後の授業の遅れが心配だったが、おれなら、どうとでもなるしな」
自信満々にそういうと、雪哉くんは部屋に戻ろうとした。
「え、で、でも病気あるのに治験なんかして大丈夫なの?」
あたしは思い切って聞いた。
「……あれは精神的なもんだからな。それに……」
そう言いながら、彼はあたしに近づいてきた。
「おまえのおかげで、もしかしたら案外早く治るかもな。ふっ」
イタズラな笑みを浮かべて、あたしの顔をのぞきこんだ。
「なに? どーゆー意味?」
わけがわからないが、今朝抱きついたことは怒ってないみたいだ。
「……そのまんまの意味だけど?」
雪哉くんがニヤリと笑う。端正が顔立ちだから、笑うだけで妙な色気を放つ。
……良かった。とりあえず、嫌われてはいないみたい……。
「ぜんぜん、わかんないっ!! わかんないよ!」
そういう察しろみたいな態度じゃ、まったく理解できない!!
「そ、それに……」
告白の返事は? 今、聞きたいよ。
「……なんだよ? 言いたいことがあるならハッキリ言えよ?」
雪哉くんの顔が近い。彼の石鹸のような香りが鼻をくすぐる。
「あ、あの、あたしの告白の返事は……」
思い切って聞いた! またしても
「……おまえのこと、おれきらいじゃないよ」
優しいハスキーボイスが、あたしの耳に届いた。
「じゃな。着替えするから開けるなよ」
そういうと彼は自分の部屋のドアを閉めた。
え……? き、きらいじゃない? え……? でもそれって返事になる??
その時、ガチャリと左の扉が開いた。
「ご、ごめん。聞いちゃった。声が大きいから……。星奈ちゃん、雪哉のこと好きだったんだね」
あたしがさっき渡したお重のお弁当箱を持った聖哉さんは、なぜか沈んだ顔だった。
彼はネクタイなしでグレーのスーツを着ている。今から仕事に行くらしい。
げっ! さっきの聞かれてた! あたしの顔がたちまち赤くなる。
「あのさ、
聖哉さんが真っ直ぐにあたしを見つめる。雪哉くんと似ている爽やかな青年、聖哉さん。
それも十五年もあたしを好き!? えぇぇぇ!? それってあたしの雪哉くんへの片想いと同じ年数……。
あたしが顔を赤くしていると、今度は右のドアが開いた。
「
雪哉くんはいささか不機嫌そうだった。
さっきは少し楽しそうだったのに? もしかして焼き餅?
んなわけないかぁ! ……自分で言ってて悲しい。
でも、もし、もしもそんな奇跡があったら、あたしの部屋の両サイド、お隣の梅乃宮くんたちから片想いされてることになるじゃん! いや、その場合は雪哉くんはどうなる? 両思いか? いやしかし、付き合ってないしなぁ……。
案外、雪哉くんもあたしに言えないだけで、あたしに片想いの真っ最中だったりして、テヘヘ。あたしのバカな妄想は膨らんでいく一方だった。