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第30話

「あんたになんか、あたしの気持ち、わかんないわよ! あっち行ってよ!!」 

 むかついてそう言い返して、あたしはその子を追い払ったんだ。


 しばらくして、その男の子はまた現れて、庭で泣くあたしに声をかけてきた。


「な、なによ! さっきよりは静かに泣いてるわよ」

 またなにか文句を言いにきたのだと思った。


「おまえに、これ、やる」

 ぶっきらぼうな物言いだった。男の子はあたしの目の前でアイスを半分に割り、門の隙間からアイスを渡してきた。


「…………」

 あたしが黙って見ていると、


「早く取れよ! 溶けるだろ!」

 あたしは半分こしたアイスを受け取って食べた。ソーダ味だった。


「おまえの泣き声がうるさくて、宿題の邪魔だ。しばらく黙ってろ」

 学校であたしにこんなことを言ってくる男子はいないから、新鮮だった。


「ありがと……。半分こ、美味しいね」

 あたしの中では仲良くアイスを食べた記憶がある。それが雪哉くんだった。


 その子は毎日毎日、決まった時間にあたしにアイスを持ってきてくれてたんだ。

 必ず半分こできるアイスで、あたしがそれを美味しそうに食べる終わるのを、その子は黙って見ていた。


 そんな日々はしばらく続いたと思っていたら、ある日、その男の子はなんとカブトムシをくれた。黄緑のプラスチックの虫カゴに入っていた。


「あれぇ、今日はアイスじゃないんだね」

 あたしは不思議に思って尋ねた。


 それになんだかいつもと雰囲気が違う。いつもよりも大人っぽい。

 白のシャツに、黒いパンツという服装で、いつもみたいにカジュアルそのものの、出で立ちではなかった。


「アイスばっかり飽きただろ」

 そう話す男の子の声も風邪でもひいたのか、いつもよりも声がハスキーだった。


「ねぇ、あなたお名前を教えてくれない?」

 そう問いかけた時、駒塚がやってきた。


「お嬢様、またこんなところに……次は英会話のレッスンですぞ」

 駒塚の怒りを含んだ物言いに、その彼もみつかったと言わんばかりに逃げ出し、門の外にはカブトムシが入ったカゴだけが置かれた。


「ねぇ、駒塚。門を開けて。カブトムシをもらったのよ!」

 あたしが駒塚にお願いすると、駒塚は門を開けて、すんなりあたしにカブトムシの入った虫カゴを渡してくれた。


 てっきり反対されると思っていたから意外だった。


「……お嬢様はまだ生き物を飼ったことがありませんね。きちんとお世話してあげることで、お嬢様自身もきっと成長できるはずです」

 駒塚が手渡してきたカブトムシはオスの大きなカブトムシで、昆虫ゼリーの上で必死に餌をむさぼっていた。 


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