「あんたになんか、あたしの気持ち、わかんないわよ! あっち行ってよ!!」
むかついてそう言い返して、あたしはその子を追い払ったんだ。
しばらくして、その男の子はまた現れて、庭で泣くあたしに声をかけてきた。
「な、なによ! さっきよりは静かに泣いてるわよ」
またなにか文句を言いにきたのだと思った。
「おまえに、これ、やる」
ぶっきらぼうな物言いだった。男の子はあたしの目の前でアイスを半分に割り、門の隙間からアイスを渡してきた。
「…………」
あたしが黙って見ていると、
「早く取れよ! 溶けるだろ!」
あたしは半分こしたアイスを受け取って食べた。ソーダ味だった。
「おまえの泣き声がうるさくて、宿題の邪魔だ。しばらく黙ってろ」
学校であたしにこんなことを言ってくる男子はいないから、新鮮だった。
「ありがと……。半分こ、美味しいね」
あたしの中では仲良くアイスを食べた記憶がある。それが雪哉くんだった。
その子は毎日毎日、決まった時間にあたしにアイスを持ってきてくれてたんだ。
必ず半分こできるアイスで、あたしがそれを美味しそうに食べる終わるのを、その子は黙って見ていた。
そんな日々はしばらく続いたと思っていたら、ある日、その男の子はなんとカブトムシをくれた。黄緑のプラスチックの虫カゴに入っていた。
「あれぇ、今日はアイスじゃないんだね」
あたしは不思議に思って尋ねた。
それになんだかいつもと雰囲気が違う。いつもよりも大人っぽい。
白のシャツに、黒いパンツという服装で、いつもみたいにカジュアルそのものの、出で立ちではなかった。
「アイスばっかり飽きただろ」
そう話す男の子の声も風邪でもひいたのか、いつもよりも声がハスキーだった。
「ねぇ、あなたお名前を教えてくれない?」
そう問いかけた時、駒塚がやってきた。
「お嬢様、またこんなところに……次は英会話のレッスンですぞ」
駒塚の怒りを含んだ物言いに、その彼もみつかったと言わんばかりに逃げ出し、門の外にはカブトムシが入ったカゴだけが置かれた。
「ねぇ、駒塚。門を開けて。カブトムシをもらったのよ!」
あたしが駒塚にお願いすると、駒塚は門を開けて、すんなりあたしにカブトムシの入った虫カゴを渡してくれた。
てっきり反対されると思っていたから意外だった。
「……お嬢様はまだ生き物を飼ったことがありませんね。きちんとお世話してあげることで、お嬢様自身もきっと成長できるはずです」
駒塚が手渡してきたカブトムシはオスの大きなカブトムシで、昆虫ゼリーの上で必死に餌を