「あたしたち、注文してくるわね」
凛と京香と、愛美の三人は注文を取りに行って、しばらくして飲み物を持って、すんごい興奮した状態で戻ってきた。
「ねぇ!! あのカウンターにいる男の子、超かっこいいんですけど!!?」
京香だった。美容師でオサレ女子の彼女はオサレ男子にはめざとい。赤い髪をボブに切っている。この中で一番目立つのは間違いなく彼女だ。
「ほんと。びっくりしちゃった!!」
続いて愛美。私立の文学部の彼女が一番大人しい。ショートカットの黒縁メガネで奥手に見えるが、なんとこの中で唯一の彼氏持ち。
「あんなかっこいい子、こないだはいなかったわよね?」
確認をする小顔ストレートヘアの女子。国立大学の獣医学部の凛ちゃん。偏差値はこの中で群を抜いている。
四人で大きなソファ席に向かいあって座る。みんながチラチラとカウンターの雪哉くんに視線を飛ばす。雪哉くんはこちらのことなど、
「ふふ……。みんな聞いて驚くなかれよ。彼は誰だと思う?」
あたしは自分のことよりも自慢げに話す。
「なによ、星奈。もったいぶらないで早く話しなさいよ。知り合いなの?」
せっかちの京香がキャラメルラテを片手に、唇を尖らせる。
「知り合いもなにも雪哉くんだよ、彼は」
ふふんと威張り腐ったあたしに、みんなが目を丸くした。
「え? ゆ、雪哉くん!? この三年であんなにカッコよくなったの? そりゃ元々のパーツが良かったけどさ」
凛ちゃんがアイスコーヒーを飲みながら、目を瞬かせた。
「男の子の成長って早いわねぇ……。でも、あたしは聖哉さんの方がタイプだったなぁ……」
のんびりした口調でミルクラテを飲みながら話すのは、愛美。彼氏さんはスポーツマンで愛美とは正反対のタイプ。付き合って二年。このままだと一番先に結婚しそうな愛美。
「それであたしたちの行きつけのこの店で、たまたま雪哉くんがバイトをしていたのだよ、諸君。これはすごい運命だと思わないか?」
あたしはそう、今日この『運命』という言葉をみんなの前で使いたくって仕方がなかったんだ。
「まぁ、ここは昔からあたしたちの行きつけでもあったわけだし、そう言われれば、そうなるわね。偶然にしては運を掴んだわね、星奈! 毎日ストーキングしなくても、これでいつでも彼に会えるじゃない!!」
凛ちゃんがあたしの肩をバンと叩いた。
「ふふふ、まだ驚くのは早いよ、諸君。なんと彼とあたしは一緒に住んでいるのだよ」
グレープの実を味わいながら、あたしはかつてないほどのドヤ顔をしてみせた。
「ぶっ! またまたぁ。星奈あんた、いよいよやばいわよ。ストーカーという域を通り過ぎてるってやばいやばい。妄想が過ぎるって!」
あたしの話を聞いた三人がくすくすと笑い出した。
「ちょ……。ほんとだって」
あたしたちが談笑しているところに雪哉くんがやってきて、あたしに言った。
「星奈、今日、バイトが急遽ラストまでになったから、おばさんに帰り遅くなるって、晩御飯いらないって伝えててくれない?」
淡々と語る雪哉くんに、凛、愛美、京香がコンクリートのように固まったのは、いうまでもない。