目次
ブックマーク
応援する
10
コメント
シェア
通報

第35話

「あたしたち、注文してくるわね」

 凛と京香と、愛美の三人は注文を取りに行って、しばらくして飲み物を持って、すんごい興奮した状態で戻ってきた。


「ねぇ!! あのカウンターにいる男の子、超かっこいいんですけど!!?」

 京香だった。美容師でオサレ女子の彼女はオサレ男子にはめざとい。赤い髪をボブに切っている。この中で一番目立つのは間違いなく彼女だ。


「ほんと。びっくりしちゃった!!」

 続いて愛美。私立の文学部の彼女が一番大人しい。ショートカットの黒縁メガネで奥手に見えるが、なんとこの中で唯一の彼氏持ち。


「あんなかっこいい子、こないだはいなかったわよね?」

 確認をする小顔ストレートヘアの女子。国立大学の獣医学部の凛ちゃん。偏差値はこの中で群を抜いている。


 四人で大きなソファ席に向かいあって座る。みんながチラチラとカウンターの雪哉くんに視線を飛ばす。雪哉くんはこちらのことなど、つゆとも気にしていない。


「ふふ……。みんな聞いて驚くなかれよ。彼は誰だと思う?」

 あたしは自分のことよりも自慢げに話す。


「なによ、星奈。もったいぶらないで早く話しなさいよ。知り合いなの?」

 せっかちの京香がキャラメルラテを片手に、唇を尖らせる。


「知り合いもなにも雪哉くんだよ、彼は」

 ふふんと威張り腐ったあたしに、みんなが目を丸くした。


「え? ゆ、雪哉くん!? この三年であんなにカッコよくなったの? そりゃ元々のパーツが良かったけどさ」

 凛ちゃんがアイスコーヒーを飲みながら、目を瞬かせた。


「男の子の成長って早いわねぇ……。でも、あたしは聖哉さんの方がタイプだったなぁ……」

 のんびりした口調でミルクラテを飲みながら話すのは、愛美。彼氏さんはスポーツマンで愛美とは正反対のタイプ。付き合って二年。このままだと一番先に結婚しそうな愛美。


「それであたしたちの行きつけのこの店で、たまたま雪哉くんがバイトをしていたのだよ、諸君。これはすごい運命だと思わないか?」

 あたしはそう、今日この『運命』という言葉をみんなの前で使いたくって仕方がなかったんだ。


「まぁ、ここは昔からあたしたちの行きつけでもあったわけだし、そう言われれば、そうなるわね。偶然にしては運を掴んだわね、星奈! 毎日ストーキングしなくても、これでいつでも彼に会えるじゃない!!」

 凛ちゃんがあたしの肩をバンと叩いた。


「ふふふ、まだ驚くのは早いよ、諸君。なんと彼とあたしは一緒に住んでいるのだよ」

 グレープの実を味わいながら、あたしはかつてないほどのドヤ顔をしてみせた。


「ぶっ! またまたぁ。星奈あんた、いよいよやばいわよ。ストーカーという域を通り過ぎてるってやばいやばい。妄想が過ぎるって!」

 あたしの話を聞いた三人がくすくすと笑い出した。


「ちょ……。ほんとだって」

 あたしたちが談笑しているところに雪哉くんがやってきて、あたしに言った。


「星奈、今日、バイトが急遽ラストまでになったから、おばさんに帰り遅くなるって、晩御飯いらないって伝えててくれない?」

 淡々と語る雪哉くんに、凛、愛美、京香がコンクリートのように固まったのは、いうまでもない。







この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?