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第36話

 雪哉くんがカウンターに戻ったあと、みんながあたしの方を一斉に向いた。


「ねぇ、どういうこと、星奈」

 凛ちゃんの声が鋭かった。


 心なしか、みんなの顔が怖かった。


 実はこの三人は雪哉くんに中高でフラれている。誰が雪哉くんと付き合えても、恨みっこなしという協定を結んでいた。


 雪哉くんはとにかくモテて、モテまくって、靴箱にはラブレターが毎日山のように入っていた。


「なんで一緒に住んでるの?」

「そうよ、いったいどんな手を使ったのよ。白状しなさい星奈」

 問い詰めてくる友人たち。


 ……ふふふ、そうくると思っていたよ、みんな。これも『運命』だから話すしかないよね。


 あたしはかくかくしかじかで同居、という説明をみんなにした。


「そうかぁ、震度3で家が倒壊なんて、そんな漫画みたいなこともあるんだねぇ」

 京香が同情が混じった声を出した。


「でもみなさん無事でよかった」

 穏やかな口調なのは愛美。実は高校時代に愛美も大概、雪哉くんを追いかけていた一人だ。

 京香も愛美も靴箱で、ラブレターをいらないと返されている。


 いくら靴箱に入り切らないからといって、なんて冷たい男だ、梅乃宮雪哉という男は。


 あたしはその光景をみて以来、雪哉くんに告白できないまま、高校生活を終えた。ヘタレなあたし。

 だって、好きなひとにあんな態度取られたらあたし、泣いちゃう。


「でも星奈、これはチャンスなんじゃない?」

 そういうのは凛ちゃん。凛ちゃんは中学三年の時、校舎の裏に雪哉くんを呼び出し、告白したが、『おれ、今は受験もあるし、誰とも付き合うつもりないから』とあっさりとフラれたのだ。凛ちゃんはクラスでも成績トップだったし、美人だ。

 これは凛ちゃんの告白が成功するのでは、と彼女以外のみんなは危惧していたのだが、『雪哉定番塩対応による撃沈』を食らった、凛ちゃん。


「そうよね。この中で雪哉くんに告白しないで、盗み見、尾行、ストーカー行為を毎日繰り返していたの星奈だけだもんね。この際、告白してフラれて、前に進め、星奈」

 凛ちゃんの言葉にみんな頷いた。


「ちょ、ちょっと待ってよ。なんでフラれる前提なの!? みんなひどくない?」

 あたしはみんなの顔を眺めた。みんな眉間にしわが寄っている。


「星奈、いい加減さ、あんな冷たい男やめなよ。ラブレターも読まずに突っ返すような男だよ、あいつは。あんたももう二十一でしょ。新しい恋しようよ」

 凛ちゃんがはっきり言い切る。


「いっとくけど、この中で経験がないの、あんただけよ!?」

 京香の言葉があたしの胸にグサっと刺さる。


「そうそう、この手の話になると、ちょっと困るのよね……」

 一番うぶそうな愛美にまで言われる始末。


「いい加減、その未経験捨てよ。誰かいいひといないの?」

 京香が哀れみのこもった笑みを浮かべた。見込みのない恋を諦めろと言わんばかりだ。


「待って! あたし、雪哉くんにきちんと、まぁ、成り行きでだけど、告白したんだよ!!」

 あたしはみんなの前で告げた。みんな目を見開いた。


「うっそ。やるじゃん、星奈」

 凛ちゃんが感心した声を出した。


 あたしの声がデカすぎて、カウンターにいる雪哉くんがギョッとした顔でこちらをみてきた。


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