雪哉くんがカウンターに戻ったあと、みんながあたしの方を一斉に向いた。
「ねぇ、どういうこと、星奈」
凛ちゃんの声が鋭かった。
心なしか、みんなの顔が怖かった。
実はこの三人は雪哉くんに中高でフラれている。誰が雪哉くんと付き合えても、恨みっこなしという協定を結んでいた。
雪哉くんはとにかくモテて、モテまくって、靴箱にはラブレターが毎日山のように入っていた。
「なんで一緒に住んでるの?」
「そうよ、いったいどんな手を使ったのよ。白状しなさい星奈」
問い詰めてくる友人たち。
……ふふふ、そうくると思っていたよ、みんな。これも『運命』だから話すしかないよね。
あたしはかくかくしかじかで同居、という説明をみんなにした。
「そうかぁ、震度3で家が倒壊なんて、そんな漫画みたいなこともあるんだねぇ」
京香が同情が混じった声を出した。
「でもみなさん無事でよかった」
穏やかな口調なのは愛美。実は高校時代に愛美も大概、雪哉くんを追いかけていた一人だ。
京香も愛美も靴箱で、ラブレターをいらないと返されている。
いくら靴箱に入り切らないからといって、なんて冷たい男だ、梅乃宮雪哉という男は。
あたしはその光景をみて以来、雪哉くんに告白できないまま、高校生活を終えた。ヘタレなあたし。
だって、好きなひとにあんな態度取られたらあたし、泣いちゃう。
「でも星奈、これはチャンスなんじゃない?」
そういうのは凛ちゃん。凛ちゃんは中学三年の時、校舎の裏に雪哉くんを呼び出し、告白したが、『おれ、今は受験もあるし、誰とも付き合うつもりないから』とあっさりとフラれたのだ。凛ちゃんはクラスでも成績トップだったし、美人だ。
これは凛ちゃんの告白が成功するのでは、と彼女以外のみんなは危惧していたのだが、『雪哉定番塩対応による撃沈』を食らった、凛ちゃん。
「そうよね。この中で雪哉くんに告白しないで、盗み見、尾行、ストーカー行為を毎日繰り返していたの星奈だけだもんね。この際、告白してフラれて、前に進め、星奈」
凛ちゃんの言葉にみんな頷いた。
「ちょ、ちょっと待ってよ。なんでフラれる前提なの!? みんなひどくない?」
あたしはみんなの顔を眺めた。みんな眉間に
「星奈、いい加減さ、あんな冷たい男やめなよ。ラブレターも読まずに突っ返すような男だよ、あいつは。あんたももう二十一でしょ。新しい恋しようよ」
凛ちゃんがはっきり言い切る。
「いっとくけど、この中で経験がないの、あんただけよ!?」
京香の言葉があたしの胸にグサっと刺さる。
「そうそう、この手の話になると、ちょっと困るのよね……」
一番うぶそうな愛美にまで言われる始末。
「いい加減、その未経験捨てよ。誰かいいひといないの?」
京香が哀れみのこもった笑みを浮かべた。見込みのない恋を諦めろと言わんばかりだ。
「待って! あたし、雪哉くんにきちんと、まぁ、成り行きでだけど、告白したんだよ!!」
あたしはみんなの前で告げた。みんな目を見開いた。
「うっそ。やるじゃん、星奈」
凛ちゃんが感心した声を出した。
あたしの声がデカすぎて、カウンターにいる雪哉くんがギョッとした顔でこちらをみてきた。