「しーっ! 静かに! 星奈、声がデカいって! 雪哉くん、こっち
京香が口の前で人差し指を立てた。
「まったく、星奈は雪哉くんのことになると、ヒグマや、スズメバチとも戦いそうね。で、返事はどうだった?」
おっとりとした雰囲気で話す愛美。
「へ、返事……、それがよくわからないんだ。『おまえのこと、きらいじゃない』とは言われたけど……」
そう、それ以外、なんにも言われていない。
「なにそれ。星奈さ、好きって言った後、付き合ってくださいとか。きちんと言ったの?」
凛ちゃんが首をかしげた。
「あ~っ! 言ってない、言ってなかった!」
あたしは肝心なことを言い忘れていた。脳内から完全に消えていた。
「さすがは星奈。抜けてるわね」
凛ちゃんが軽く笑った。
「でもさぁ、きらいじゃないって言い換えれば、好きってこと?」
京香が顎に手を置き、宙を見ながら考えている。
「えー、どうだろうね。あの氷の貴公子、雪哉だよ? そもそも彼はひとなんて好きになるの? あ、今、星奈と一緒に住んでるから気まずくなりたくなくて、はっきり断れないんじゃない?」
凛ちゃんの言葉に、がくりと
……そうかぁ、そうだったのかぁ……、ぐすん。いいんだよ、雪哉くん、そんな気を遣わなくて……。
あたしはカウンターでケーキをお皿に乗せている雪哉くんを見た。
……一生懸命働いてるなぁ……。好き。大好き。
「でもさ、星奈。雪哉くんがダメでも聖哉さんがいるじゃない!」
気を遣い、明るい声を出しているのは愛美。
「……聖哉さん? 彼女いるんじゃない……?」
あたしは朝、お弁当を渡した時の彼の嬉しそうな顔を思い出した。イケメンはイケメンに間違いない、雪哉くんとよく似ているし……。
——暑い夏休み……。泣いてばかりの六歳のあたし、夏の午後。うるさいぐらいの蝉の声。半分こして食べる美味しいソーダアイス、いつも会うたび口の悪い雪哉くん……。それでも二人で笑いあって食べたアイス。アイスもカブトムシも雪哉くん……? なぜか朧げな記憶がまた騒ぎ出した。
あたしはかぶりを振った。
正直、聖哉さんを男性として意識したことがない……。それに雪哉くんがだめだから聖哉さんって失礼じゃない?
「彼女いたって、星奈なら大丈夫よ。あんたどちらかっていうと、母親似で美人じゃない」
凛ちゃんがサラッとすごいセリフを吐いた。それって寝とれってこと?
「そうそう、星奈、スタイルだけはいいしねぇ……」
京香があたしの脚をジロジロ見てきた。まるでセクハラオヤジだ。