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第39話

 あたしは家族から信用されていないのか、まだ子供だと思われているのか。


 菜奈ちゃんはとっくの昔に、一人暮らしをしているのに……?


 今日の今日まで、まだ私の護衛がついているとは思いもしなかった。

 『月縁堂』で和菓子を売り、和菓子を作り、税金を払い、もう立派な社会人だと……、家族からももう一人前だと思われていると思っていた。


「植木、帰っていいよ。もうあたし子供じゃないよ」

 力なく、あたしは口にした。


 二十一にもなって、大人、成人として扱われていない……。


「しかしお嬢様、ご家族はあなた様を大事に思って……」

 植木にも植木の立場があるんだろう……。


「そ、そうよ、星奈。家族に愛されている証拠よ」

 愛美がフォローしてくる。だが京香と、凛ちゃんは憐れみの目であたしを見ているのが空気でわかった。


 中学も高校も雪哉くんと同じ公立に通わせてもらい、でもいつもあたしだけ送迎付き。同級生らがあたしをどこか遠巻きにしている時もあった。  


 これが子供の時から窮屈でしかたがないんだ。いつになったら、あたしも菜奈ちゃんみたいに、兄みたいにきちんと大人扱いしてもらえるの?


 さっきまで盛り上がっていたテーブルは静かになった。友達の目にはあたしはどう映っているのだろう……。


 時刻はもう午後七時半だった。


「じゃあ、そろそろ帰ろっか。お腹も空いたし……」

 京香が言った。気まずくなったし、もう帰りたいのだろう。


 尾行している側は尾行に気づかない説は本当だった。


 しんとなったテーブル席を雪哉くんが見ているのが視界に入った。


 ……ねぇ、なんでこんな時だけ見てるの? 見ないでよ。


「ここ閉店も二十時だったわよね。そろそろ帰ろっか」

 凛ちゃんが立ち上がった。


「そうだね。帰ろっか。植木も一緒に帰ろっか!」

 あたしは目一杯、努めて明るく口にした。


 植木が悪いわけじゃない、頼りないと思われている自分が悪い。

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