みんなが帰宅して、雪哉くんのバイトが終わるまであたしはファミレスで一人時間を潰すことになった。
『おまえはボーッとしてるからな。ファミレスにでも居ろよ。先に飯食っとけ』
いつになく優しい雪哉くんが、ぞんざいな口調で言い放った。その言い方とは裏腹にあたしを心配してくれている内容。
今日の雪哉くんは優しさの塊だ……。まるで彼氏みたい、えへへ。にやけが止まらない。
ファミレスでカルボナーラを食べ終えたあたし。今は心の中を雪哉くんが照らしてくれているから、ぼっち飯でもぜんぜん寂しくないよ。
「悪ぃ。遅くなった」
黒の長袖のシャツを着こなして、雪哉くんが現れた。雪哉くんは元々、ラストの片付け専門でバイトに入ったらしい。
雪哉くんが歩くと、ジーンズを履いた長い
「ううん。そんなに待ってないよ、大丈夫」
あたしは笑顔で答える。実は心臓がバクバクだ。こうして待ち合わせして、向かいあって座るなんて、そんな奇跡が今、起きている。
片思い歴十五年の中で、今宵のような奇跡の連続があっただろうか、否、一度もない。
「ちょっと水取ってくるわ」
彼は荷物を置くと、ドリンクバーのほうに歩き始めた。
雪哉くんが歩くたびに、その形の良さをこれでもかと強調してくるヒップ、なんて小さな美尻。ジーンズの上からでも、その美しさは隠せない。
ああ、もうたまんない。脚もお尻も全部、全部好きだよ! ど、どうしよう、好きなところだらけだよ!
しばらくしてお水を持った彼が帰ってきた。
「おまえ、そんなに食ったのかよ」
あたしの席に置いてあるお皿を見て、雪哉くんが鼻で笑った。
言うても、あたしはいつもの半分しか食べていない。胸がいっぱいでそれどころじゃなかった。
カルボナーラに、ハンバーグ定食に、グラタン、大盛りサラダを食べただけだ。
でもほんとのことは言わない。
「うん! お腹空いてたし。あ、締めは雪哉くんが来るまで取っておいたんだよ。締めは大盛りチョコパフェ! ここのずっと食べたかったの!」
「……そうか、元気そうで安心したよ。おれは肉うどんでいいや」
雪哉くんがパネルを操作して注文した。
「おまえの大盛りチョコパフェも注文しといたぞ」
雪哉くんがあたしの顔を見る。お店にいる時とは別人で、いつもの塩対応顔だ。当たり前だが、もう愛想は振りまいてはくれない。
……でも今日はいつもより、なんだか心の距離が近い気がする……。いや、物理的にも近い……。
「ゆ、雪哉くん、今日はあたしを助けてくれてありがとう」
緊張しながらお礼を言った。
「……別に。植木さんもかわいそうだったしな」
「ああいうふうに家族に扱われるのって、あたし、家族に大人として見られていないんだなって……」
「……そうだろうな。おれでも息が詰まるな」
「昔っからなの! ずっとあたしだけ、こういう扱いなの」
「……言われなくても知ってるよ。おまえ、子供の頃から自由になりたいって泣いてただろ。いつもビービーうるさかったな」
雪哉くんはそう言うと、少し鼻で笑った。
……あ、昔のこと覚えててくれたんだ。
あたしの心にどうしようもなく熱くて、優しくて、心地の良い温かいものが灯り、あたりを照らしていく……。