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第42話

「ぷはぁ! もうお腹いっぱいだよ。ふふ」

 あたしは三十センチ近くある大盛りパフェを食べ終えて、お腹をさすった。

 腹部もパンパンだ。


「おまえ、オヤジみたいだな」

 雪哉くんが眉根を寄せ、毒を飛ばしてきた。


 今のあたしは雪哉くんの毒を食らっても、どうもない。心があったかいから、大丈夫。


「そろそろ出るか?」 

 雪哉くんと一緒にファミレスを出た。なぜかおごってくれた。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。あたしのほうがむちゃくちゃ食べてる。


 夜の街を二人で歩く。ネオンが奇麗。こうして夜に出歩くなんて、あたしはほとんどない。


 ……まるで恋人同士みたい。手を繋ぎたいな……。


 あたしは雪哉くんと並びながら、なおも欲張ってしまう。


「星奈、おれ眠気ざましにコーヒー買ってくる」

 雪哉くんが自販機が並んでいる反対側の道路に渡った。


 ……昨夜もきっと遅くまで勉強していたんだよね。大変だなぁ、医学生って。お医者様になるって並大抵じゃなさそう……。無理してバイトなんてしなくていいのに……。


 今日のあたしはモスグリーンのニットのワンピースを着ていた。その上から薄手のストールを巻いている。


「おい、ねぇちゃん。一人か?」

「君、可愛いじゃん! なにしてんの?」

 雪哉くんを待っている間に、チンピラみたいな派手なシャツを着た変な連中三人にあたしは囲まれた。


「え、な、なんですか?」

 あたしの心臓がイヤな音を立てる。やばい、怖いひとたちだ。


「もう夜の十時過ぎてるよ。こ~んな可愛い子、一人でいたら危ないから、おれたちが安全な場所に連れて行ってあげるよ」

「そうそう。そんなミニスカ履いて、自分、めちゃスタイルいいじゃん」


 壁際にジリジリとあたしは追い込まれた。雪哉くんがコーヒーを片手に、呑気に信号待ちをしているのが目に入った。


「あ、あのあたし、大丈夫なんで。放っておいてください」 

 足が震える。昼間にナンパされるより、夜のほうが何倍も怖い。


 あぁ、あたしの家族があたしに護衛をつけてた理由が今、わかった気がした。


「放っていけないよ。おれらが朝まで君を守ってあげるから」

 いかにも遊び人って風貌の金髪の男性から、あたしは手を引っ張られた。


「い、痛っ!」

 あたしは手首を思い切り、掴まれた。


 その時だった。


「おれの彼女になにか用事ですか?」

 背筋が凍るような声を出した雪哉くんが連中の後ろに立っていた。

 チンピラたちより、雪哉くんのほうが背が高かった。


「な、なんや。男おったんか!!」

「ちっ! 行こうぜ」

 チンピラみたいな三人は雪哉くんの絶対零度の表情に、そそくさと逃げていった。


 雪哉くん、そんな怖い顔もするんだ……。マイナス273.15度。あたしはそんな怖い顔の雪哉くんを初めてみた。



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