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第43話

「星奈、大丈夫か?」

 そこには先ほどと打って変わって、見たこともないぐらい優しい表情の雪哉くんが立っていた。


「!!」

 あたしは雪哉くんにしがみついた。まだ脚が震えている。


「ごめんな。怖かったろ」

 雪哉くんが謝るなんて珍しかった。


「……ううん。すぐ雪哉くんが助けてくれたから大丈夫」

 雪哉くんの胸の中はあったかくて、案外逞しかった。


 あたしの頭を撫でる雪哉くんはとても優しくて、今日という日は本当に夢なんじゃないかって思った。


「おまえのお弁当の効果、あったかもな」

 なぜかあたしからパッと離れると、雪哉くんは歩き出した。


「お、お弁当、食べてくれたの!?」

 あたしは彼の背中に話しかける。愛情をたっぷり込めた、朝四時起きのお弁当。


「……ああ。おかげで晩飯もうどんだけでお腹いっぱいだ。さっきのファミレスは弁当のお礼だかんな」

 雪哉くんがあたしに合わせて歩き出した。


「ねぇ、まだ怖いから、手を繋いでもいい?」

 あたしは上目使いで彼を見た。身長差でどうしてもそうなってしまう。


「ちっ! 今だけだからな」

 雪哉くんが舌打ちをしたが、あたしが手を握ると握り返してくれた。


「だって、彼女なんでしょ!?」

 さっき確かに彼はあたしを彼女だって言った。


「……おまえ、あれは仕方なく言っただけってわかるだろ。すぐに調子に乗りやがって……」

 雪哉くんと駅まで手を繋いで、電車に乗った。電車でもお隣。調子という波に乗ったあたしはまだ彼と手を繋いでいる。


 今までこんなに隣にいられたことない。感謝感激。


「おまえ、すっかり元気だな。ま、おまえらしーわ」

 雪哉くんがあたしをみて、皮肉めいたことを言ってきたが、その表情はなぜか穏やかだった。

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