目次
ブックマーク
応援する
7
コメント
シェア
通報

第44話

 最寄り駅から家まで二人で歩く。


「おいっ! いつまで手を繋いでんだよ! いいかげん離せよ!」

 雪哉くんとついに手を離した。


「えー。ケチケチケチ! もうちょっといいじゃん。またナンパされたら雪哉くんのせいだかんね!」

 もう無理やりなこじつけだ、自分でもわかっている。


「今度はそうさせないよ」

 雪哉くんが真顔であたしを見つめてきた。やっぱり今日の雪哉くんはおかしい。心臓に悪い。いつも塩対応なのに、突然こんなふうになったら調子狂うよ。


 あたしはドキドキしながら、彼の隣を歩いた。彼からはいつもの石鹸のようないい香りがした。あたしの心拍数を上げる匂いだ。


 普段と違う雪哉くんを意識したら恥ずかしくて、急に居た堪れなくなった。彼の方を見れない。

 何気なく左側を向くと、昔遊んでいた公園が目に入った。懐かしい……!!


 ブランコと滑り台しかない、小さな公園。


「あ! ねぇ、雪哉くん、ブランコ乗りたい! 寄ってこ!」

 あたしは公園めがけて走り出した。


「あ、お、おい! こらっ!」

 雪哉くんがあたしを追いかけて公園に入ってきたのがわかった。


 ***


「まったく、おまえは……」


「えへへ。大人になってから夜に乗るブランコって、なんだかワクワクしない?」

 あたしは不思議な世界に入り込んだ気分だった。


 雪哉くんと二人でブランコに乗っている。あたしは足を使い、ブランコを高く高く漕ぐ。


 あたしにとって、夢のようなデートの時間だよ。初めてこんなに二人で過ごしている。


 ……だから聞けるよ、今なら、告白の返事を聞くことができる。


「ねぇ、雪哉くん。あたし、きちんと告白の返事を聞きたいな……。気持ちはっきり言ってほしい。付き合えるのか、付き合えないのか……」

 自分でもびっくりするぐらい自然に言えた。


「!!」

 雪哉くんの顔に明らかに戸惑いが混じった。まさか今、こんなところで言われるとは思ってなかったらしい。


「あたしと一緒に住んでるからって、遠慮とかいらないから。そういうの、いらない……」

 あたしは雪哉くんのほうを見れない。怖い……。


 心臓が早鐘を打つ。イヤな感じでどんどん早くなる鼓動。


「星奈……」

 雪哉くんは言葉に詰まっていた。


「いいの。もう片思い十五年して、いいかげんけじめつけなきゃ、って思うし」

 ほんとは聞きたくない。このまんまでいたい。


「じゃあ言うわ」

 雪哉くんがブランコを漕ぐのをやめて、あたしをまっすぐに見つめてきた。


「……うん」

 あたしもブランコを漕ぐのをやめて、彼を見た。彼の大きな涙袋からなにか出てきそうだ。







この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?