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第45話

 一等星だけが夜空に輝いていた。この街は明るすぎて、他の星は見えない。


「おれ、おまえのこと……」

 雪哉くんの顔をまともに見れない。どんなことを言われるのか、ただ怖い。


「……うん」


「好きかわからない……。だから付き合えない。これがおれの答え」


「……はっ? わからない?」


「前にも話したけど、おれさ、多分、ひとを好きになるって感情がない。それがどういうことかもわからないんだ。それはおまえに対しても同じ」

 雪哉くんはうつむいていた。


「え? ドキドキしたり、胸がこう熱くなったりしないの?」


「しない……。だから多分、そういう機能も不全だったんだけど……」

 彼はあたしから顔を逸らした。そして言葉を続けた。


「でも、最近はそうでもないんだよなぁ。なんでだろうなぁ……」

 今度は雪哉くんが高く高くブランコを漕ぎ出した。


「え? 治ったの? なんで? なんか治るようなことがあったの?」

 あたしは彼のカミングアウトに驚いた。


「……おまえには、おまえにだけは言わない」

 彼は懸命に立ち漕ぎをしながらあたしに言った。


「おまえといるとイライラもするし、うるさいし、いつでもどこにでも現れるけどな。だけど、おまえといると退屈だけはしない。それにおれはおまえのことがきらいじゃないらしい」


「……らしいってなに?」


「……さぁな。おれにもわかんない」

 口を真一文字に結んで、それ以上彼は話す気はないようだった。


 しばらくして急にブランコから飛び降りると、雪哉くんは『もう帰ろうぜ』と言って歩き出した。


 さっぱりわからない答えだったけど、『きらいじゃない』から『好きかわからない』に昇格した気がした。


 ……それと同時に雪哉くんの男性機能はよくなっているらしい? ん? これに関してはデリケートな問題だから深く聞くのはやめようと思う。


 付き合えないか……。まぁ、それに関しては想定の範囲内よ! 星奈! 今夜は大きく前進したわよ!


 あたし、完璧に振られるまで、い、いや、完璧な答えをもらう、その日まで頑張る!

 未来なんてわからない、悪い思考は捨てて、あたしは雪哉くんといる未来を想像するんだから。


「あたしさ、まだ雪哉くんのこと、好きでいていいの?」

 それが今、一番聞きたいことだった。


「……好きにすれば?」

 一瞬立ち止まって彼は言った。こちらを見てはくれなかったけど、その背中は前よりも近い気がした。


 その日帰ると、雪哉くんが父と母にこんな話をした。


「星奈さんももう大人です。本人の自立のためにも監視や護衛は不要だと思います。星奈さんが大事なのはわかりますが、僕自身も出過ぎた真似をしてるとは思いますが、一度彼女のために、なにが一番いいのか考えてあげてください」


 彼はあたしの気持ちをわかってくれていた。子供扱いされて、落ち込むあたしに今夜は付き合ってくれたのかな……。



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