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第58話

「え……、菜奈ちゃん、雪哉くんのこと、す、好きなの……?」


 あたしの嫌な予感は的中した。そして菜奈ちゃんは何故か距離を詰めてきた。

 ずんずんと迫ってくるこの感じ、雪哉くんと似てる……。


 ……宣戦布告だろうか?


 菜奈ちゃんはあたしを見てクスっと笑った。


「そういう好きじゃないわよ。医学的に興味があるのよ」

 菜奈ちゃんの黒い瞳は輝いていた。楽しそうだ。


「え? どういうこと?」


「彼って完璧だけど、どこか冷めてるじゃない? なにを考えているか、まったく見せないし……」


「そ、そうかな?」


 菜奈ちゃんがあたしを見て、首を傾げた。


「星奈鈍いわね、やっぱり、ニブチン! あの貼り付けたような、つまらない笑顔。大学でもそうよ。迷惑かけられても怒ることもないし、あんなに感情を見せない人間も珍しいわ。天然記念物よ」


 菜奈ちゃんの言葉にあたしは戸惑った。


 ……あたしにはあんなにいじわるなのに。菜奈ちゃんはそういう気持ちかもしれないけど、雪哉くんは菜奈ちゃんのこと、好きかもしれないじゃない。あたしには笑ってくれないよ。


「鈴さん、私もしばらくここにいるから、また散歩しようね。今日は暑いから、中に入ってお茶でも飲みましょ」

 鈴さんに声かけをして、菜奈ちゃんは鈴さんの隣を歩いている。


 大学での雪哉くん、見てみたい……。どんな感じなのかな……。想像つかないや。


 ***


 あたしが部屋で寝転んでT Vを見ながら、脚痩せのストレッチをしていると部屋がノックされた。

 このノックの仕方は菜奈ちゃんだ。高速ノックだからすぐにわかる。


「はぁい」

 あたしが返事をするとドアが勢いよく開いた。


「あんた、またそんなストレッチしてるの? 効果あるの、それ? ねぇ今から本屋行かない? どうせヒマでしょ?」


 あたしはヨガマットを敷いて、寝転んで腰だけを思い切り上げるストレッチをしていた。


 あたしの予定はまるで無視だ。菜奈ちゃんの毒舌は本日も健在だった。



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