菜奈ちゃんはひつまぶしを注文して、あたしはうな重を注文した。
いやらしい話、うな重が一番安い。
「ねぇ、星奈ってなんで彼氏作らないの?」
菜奈ちゃんは興味津々だった。
「え、いや、特に理由はないけど。へへ」
雪哉くんに十五年も片想いして、現在進行形だとは言えない。菜奈ちゃんにバレたら、なにを言われるかわからない。
あたしたちは姉妹仲はうまくいっていると思う。それは菜奈ちゃんがあたしより、ぜんぶ上だからだ。そしてこうして、あたしを知らない世界に案内してくれるのも菜奈ちゃん。
あたしは菜奈ちゃんが好きだ。姉としても、人としても。強引だが、実は優しいのも知ってる。
「そうなんだ。てっきり好きなひとでもいるのかと思ってた」
菜奈ちゃんはスマホを確認しながら、口にした。
「いない、いない、いるわけないじゃん! あはは~」
菜奈ちゃんのその一言に、あたしの心臓が跳ねたのは言うまでもない。
結局、菜奈ちゃんが主に大学の話などをして、あたしは和菓子の話、女将さんや志郎さんの話などをして、二人で笑い合った。
鰻は大きくて、お値段に見合っていた。とにかく分厚かった。
久しぶりに菜奈ちゃんと食事した気がした。
「菜奈ちゃん、ご馳走様でした」
あたしはお会計を終え、洗面台で口紅を塗り直す菜奈ちゃんにお礼を言った。
「別にこのぐらいいいわよ」
菜奈ちゃんの唇を赤いルージュがゆっくりと走る。
「このぐらい!? あたしが頼んだうな重でも、六千円近くしたよ!?」
……高いよ。お昼ご飯にこんな大金使えないよ。どうなってるの、菜奈ちゃん。
「私、バイトしてるのよ」
菜奈ちゃんが口紅を白い小さなポシェットにしまった。
「バ、ババイト?」
その真っ赤な口紅といい、色気ムンムンで大人の雰囲気を纏う菜奈ちゃん。
ふんわりと香る甘く気高い薔薇のような香水の香り。
まさか、夜のお商売をしているのでは……。菜奈ちゃんなら、きっとそのお店のナンバーワンだろう。
今日の黒いワンピも某ブランド品であることは分かっていた。
「星奈、心配しなくてもいいわよ。あんた、なんでも顔に出るんだから」
「え?」
「私、塾の講師のバイトしてるのよ。アンタが考えてるような、そんなバイトしてないわよ」
「あぁ、そうなんだ」
あたしは胸を撫で下ろした。菜奈ちゃんがもし危険な夜のお商売をしているのなら、全力で止めなければならない。
「アンタ、すごく失礼よ。あたしがいかがわしいことしてると思ったでしょ?」
菜奈ちゃんの口元が少し笑っている。
「それに星奈、アンタ好きな
彼女は得意げに笑って、洗面台に背を向けた。