「それにしても、雪哉ってば、バイト先でもあの貼り付けた笑顔なのねぇ。つまんない」
菜奈ちゃんはチーズケーキを一口、小さな口に運んだ。
「え? あれ、貼り付けた笑顔なの?」
あの非の打ち所がない、完璧な笑顔が? 菜奈ちゃんにはそう見えているのか?
「そうよ。いっつもあんな感じよ。なに考えてるか、まったくわかんない」
菜奈ちゃんがカウンターにいる雪哉くんに視線を飛ばした。それに気づいた雪哉くんが微笑んできた。
なっ!! 菜奈ちゃんだけ、ず、ずるいっ!
あたしの時には、いつも無視のくせに!!!
「えー! あれはあれで素敵じゃない。あたしなんかあんな笑顔、滅多にお目にかかれないよ~」
あたしは目を細めて雪哉くんを見つめた。
あらためてみると本当に、いい男だ。
動くたびにサラサラと揺れる栗色の髪。天使の輪っかが二つも輝いている艶髪。
色が白くて、透き通るような美肌。
綺羅星のような、輝きを持つ潤んだ瞳。
線で描いたような鼻筋。
あれほど美しい男が、この世界にそういるだろうか。
カウンターにいる雪哉くんがあたしと目が合うと、露骨に顔を逸らした。
……ちょっとぉ、ひどくない? 仮にもあたしたち、キスまでした仲よ!?
「私は彼がなにかに
菜奈ちゃんが頬杖をついた。チーズケーキは跡形もなく消えて、菜奈ちゃんの胃袋の中だ。
彼女は家族一の早食いなのだ。
「は、反応?」
あたしは菜奈ちゃんがなにを言っているのか、理解できなかった。
あたしの前ではいろんな顔を見せてくる。そのほとんどが嫌な顔だ。
「そう、反応よ。人間はなにかに反応するから顔が、態度が変わるんじゃない。雪哉は大学でもいっつもあんな感じ。感情を出すことがない。私さぁ、彼みたいな人間あんまり見たことがないわ。ま、いつも怒ってる人間はよく見るけど。あぁ、あと世の中に不満しか言わない人間とかね。あれも見たくないわね」
菜奈ちゃんは常に、人間観察をしているのか?
「そ、そうなんだ」
あたしは雪哉くんお手製の桃のフラッペを混ぜた。クリームとフローズンの部分が合わさって、ぐるぐる模様を描いた。
「私さ、婦人科を希望してるの。世の中の女性の大半が特有の苦しみを毎月経験してるわ。女性はそのせいで不機嫌になったり、イライラしたり、眠れなくなったり、色々不調があるじゃない、PMS(月経前症候群)ね。雪哉は男性ホルモン、すなわち、テストステロンが多いのかしら?」
菜奈ちゃんの話が医学用語が多すぎて、あたしは頭がクラクラしてきた。理解不能、理解不能。
「でも彼、まるで誰も心に入れたくないような、そんな笑顔よね」
「え……」
菜奈ちゃんの放った一言が、あたしの心になぜか引っかかった。