あたしが菜奈ちゃんの話を理解できずに戸惑っていると、お店の自動ドアが開いた。
入ってきたのは、仕事帰りの聖哉さんだった。
ネクタイをしていない清潔感漂う白いシャツと、黒の細身のパンツを穿いていて、緩くかけたスパイラルパーマが揺れた。
一見すると、遊び慣れているイケメンのチャラい感じの男性に見える。これで市役所勤務である。見た目に反して『シゴデキ』だったら意外すぎる。
雪哉くんと聖哉さんとの決定的な違いは、チャラそうか、そうではないか、すなわち女慣れしてそうか、そうでないかの違いである。
「ゆ~き~や~! 来たよ~!」
聖哉さんは陽気の塊のようなひとだ。聖哉さんの声を聞いて、雪哉くんの天使スマイルが少し乱れた。
「いらっしゃいませ」
雪哉くんはあくまでも店員として、聖哉さんと接するつもりらしい。明らかに作り物の笑顔になった。
「どう、少しは慣れた?」
聖哉さんが弾むような声を出した。
「まぁ、ぼちぼち……」
雪哉くんは少し面倒くさそうだ。彼は聖哉さんを見ないで下を向いている。
「雪哉でも兄弟だと、きちんと感情が出るのね。まぁ当たり前か。他人には徹底してるのかもね」
菜奈ちゃんは空になったグラスを覗いている。飲み足りないのだろうか……。
「う〜ん、どれにしようかなぁ。やっぱり期間限定って聞くと、今飲んでおかなきゃってなるよね」
聖哉さんは桃のフラッペを注文して、シナモンロールを温めてもらっていた。
……うわっ、甘々な組み合わせだ! さすが甘党を公言してるだけのことある。
商品を受け取った聖哉さんが、店内にいるあたしたちに気づいた。
「あっ! 星奈ちゃんに、菜奈ちゃんまで! うわぁ、ご一緒していい?」
こちらの返事も聞かず、聖哉さんがトレイを持って移動してきた。
あたしの隣に当たり前のように座った。その様子を菜奈ちゃんがじっと見ていた。
「聖哉、うるさい。少しは静かにしなさい」
菜奈ちゃんの毒舌がいきなり炸裂した。
「久々に会ったのに、冷たいなぁ、もう」
叱られた聖哉さんが子犬のようにブスくれた。
カウンターから、なにやら視線を感じた。雪哉くんが無表情でこちらを見ていた。
気のせいだろうか、急に冷房が強くなり、肌寒くなった気がした。