「小雪に謝りに行け。」
本当にしつこいな。もし私が江藤小雪に謝らなかったら、どうするつもりだ?
殴るつもりか?
小雪はただぶつかっただけなのに、彼は緊張しきって、心配しすぎている。
まるで私を『犯人』に仕立て上げようとしている。
でも、私が彼を追いかけていたあの数年、階段から転げ落ちたこともあったし、料理を習って手に火傷を負ったこともあった。
彼のために数珠を手作りしたときは、機械に手を挟まれて爪の半分を削り取ったのに、彼からの慰めの言葉すらもらえなかった。
ただ冷たい一言、「余計なお世話だ」だけで。
拓海、私は知りたい……お前は、私をどこまで傷つけるつもりなんだ?
お前に残された時間は、あと七日だ。
「もし私が謝らなければ、この件は終わらないってことか?」
彼は黒いシャツを着て、ダイヤモンドのカフスが虹色に輝いている。長い脚を組んで座っているのに、なぜか彼が上から見下ろしているような錯覚を覚えた。
多分、私が長い間彼を崇めすぎていたからだろう。
彼は重い視線で私を見つめ、無言の圧迫をかけてくる。
「わかった」謝るくらい、死にはしない。でも言わせてくれ、「でも、私が彼女を突き落としたわけじゃない。」
やってもいないことを、殺されても認めない。
私は背を向けて二階へ向かった。
「警告しておく。もう一度小雪に手を出したら、生き地獄を見せてやる。」
冷たい警告が背後から響く。私は自嘲気味に唇を歪めた。
過去の自分に聞いてみたかった──なぜ、こんな冷酷な男を愛してしまったのか。
あの日の灯りが美しすぎたのか、月が魅惑的だったのか、それとも、あの一瞬の眼差しに理性を打ち砕かれたのか。
ここまで来たのは、自分のわがままの結果だ。
恨みも嘆きもない。幸い、すべてはもうすぐ終わる。
私は振り返らず、前へ進んだ。
部屋のドアが大きく開いていることに気づいた。
江藤小雪が、白い毛布を敷いた私の椅子に座り、茶色の日記帳を手に読みふけっていた……
あれは私の日記だ!
血の気が一気に上り、私は飛び込んで小雪から日記を奪い取ろうとした。
「返して!」
彼女は素早く反応し、ベランダの端まで後退し、日記を柵の外に掲げた。
「お義姉さん、そんなに怖い声を出さないでよ。怖くなっちゃうから。怖いと、持ってるものが落ちちゃうかも。ごめんね?」
ベランダの下にはプールがある。
日記が落ちたら、確実にダメになる。
怒りを必死で抑え、小雪を刺激しないよう、静かに言った。
「日記を返してちょうだい。」
小雪は無邪気な目を瞬かせ、近づいて声を潜めた。
「お義姉さん、日記に書いてあったけど、兄さんが3年間もお義姉さんに触れてないって本当?」
私は全身が震えた。恥ずかしさではなく、怒りだった。
拓海が私に触れないのは、私のせいじゃない。彼らの問題だ!
私は十分魅力的だ。拓海が愛さなくても、他の誰かが愛してくれる。でも江藤小雪が、私の秘密を覗き見て、それを攻撃材料にするなんて、卑劣すぎる!
「あなたには関係ない。日記を返して。」
だが小雪は新大陸を見つけたかのように叫んだ。
「まさか、本当だったんだ!お義姉さん、それなのにまだ兄さんにべったりまとわりついてるの?そんなに兄さんが好きなの?可哀想に……兄さんはお義姉さんのこと、触れるのも嫌がってるんだよ?」
「もういい!」
ついに我慢の限界だった。彼女を責めたくはなかった。
彼女はただ、拓海の寵愛を盾に好き放題やっているだけだ。
なぜ、なぜ私が諦めて、身を引こうとしているのに、彼らは次々に私を苦しめるんだ!
私に気性がないと思っているのか!
私は手を挙げ、彼女の頬を打とうとした。
小雪は用意していたのか、正確に私の手首を掴み、悪意を露わに言い放った。「私を殴ろうなんて、死ぬ気か!」
小雪は私の背後を見て、目を光らせると、突然手を離した。
私の手は、無意識のうちに彼女の頬を打っていた。
その一撃は、私自身も予想していなかった。
次の瞬間、彼女は顔を押さえて泣き出した。
「お義姉さん、どうして私を殴るんですか……」
何も言う間もなく、後頭部に激痛が走った。髪を掴まれ、頭皮が裂けるような感覚で、体全体が後ろに引っ張られた。
痛みで声を上げ、床に倒れた。頭が割れそうだった。
張本人の拓海が、江藤小雪を抱きしめ、これまでの冷静さは消え、緊張した面持ちだった。
「見せて。」
彼は小雪の頬を両手で包み、かすかな赤みを丁寧に確かめた。
「真希!」神仏の怒りが天地を覆う。
小雪はタイミングよく、善良な役を演じた。
「兄さん、怒らないで。私が悪かったの。お義姉さんのものを触るべきじゃなかった……お義姉さんも、あまりの怒りで私を叩いてしまったんだよ。責めないで。」
拓海は小雪を抱きしめた。このおバカな妹は、いつだってこんなに優しいんだ。
私は頭を押さえながら立ち上がり、彼らの睦まじい芝居を見る気はなかった。
「それを返せ。」
拓海の陰険な目が私を射る。
「何をだ?」
小雪がノートを掲げた。
「これです。」
拓海が手を伸ばした。
ダメ、彼に見せられない。
私は飛びかかったが、拓海に容赦なく押しのけられた。
彼は日記帳を掲げ、深淵のような目で言った。
「このために、お前は小雪を打ったのか?」
「違う。ただ自分の物を取り戻そうとしただけだ。」
拓海は私を信じない。自分の目を信じている。
「警告したはずだ。もう一度小雪に手を出したら、許さないと。」
一体どう言えば、どうすれば、彼らは私を解放してくれるんだ!
「それを返せ。もう二度とお前たちの前に現れない。」
私の執着が、拓海の疑念を呼び覚ました。
「この日記、そんなに大事か?何が書いてある?」
彼は開こうとした。
「やめて!」彼に見せるわけにはいかない。
日記には、少女の夢から絶望までのすべてが詰まっている。
彼へのときめき、喜び、悲しみ、苦しみが文字となり、一言一句が彼への愛の証だった。
それは私の心の独白であり、彼に見せられない秘密であり、最後の尊厳だった。
私は必死で日記を奪い返そうとした。拓海は小雪を抱えたまま、柵の端へ素早く移動した。
小雪がよろめき、拓海にぶつかった。
拓海は小雪を守ろうとして、手を離した。
「ダメっ……」
私は彼が手を放すのを見ていた。
日記が私の指先をかすめ、プールへ落ちていくのを見ていた。水しぶき一つ上げずに。
それと共に沈んだのは、私の青春と最も純粋な感情だった……
「あら、お義姉さん、ごめんなさい。兄さん、わざとじゃなかったんだから。」
拓海は私が柵に凭れて放心しているのを見て、危険そうに目を細めた。
「真希、来い。小雪に土下座して謝れ。」
また謝罪?今度は土下座付きか。
私は彼らを振り返って言った。
「謝るよ。代わりに、私の日記を元通り返してくれる?」
あの頃の私を、返してくれるのか!
彼らにできるはずがない。
「江藤小雪、お前のせいだ!」私は手を振りかぶった。
拓海に捕まり、彼は躊躇なく、逆に掌を返して私を地面に叩きつけた。
世界が視界で回転し、声は耳障りな轟音に変わり、両目を赤く染めた。
「真希、お前、俺の逆鱗に触れたな。者共。」
数人の護衛が入ってきた。
「ボス。」
「こいつを閉所に閉じ込めろ!」
「承知!」
二人の護衛が近づくが、私はただ拓海と小雪の背中を睨んでいた。
彼の限りなく優しい声を聞いた。
「数日後にオークションがある。エイル王妃の冠が欲しいってずっと言ってただろ?兄さんが取りに行ってやる。」
彼女の花のような笑顔が見えた。「兄さん、ありがとう!」
屋敷に閉所があることは知っていた。かつて誤って、血まみれの人がそこから引きずり出されるのを目撃したことがある。
今、彼は私をそこへ閉じ込めようとしている。
わざわざそんなことしなくても……
拓海と小雪が部屋の出口に差しかかった時、背後で護衛の叫び声が上がった。
「真希様!」
拓海が振り向き、瞳孔が震える。
柵の向こう側で、私は蝶のようにひらりと落ちていく……
「真希ッ!」