拓海とはもう会わないと決め、ホテルに部屋を取ってぐっすり眠るつもりだった。
ベッドに横たわっても、どうしても目を閉じられない。
記憶が繰り返し心をかき乱し、愛と憎しみが絡み合い、闇の中で私は寝返りを打ち続けた。
夜は、狂うのに最もふさわしい時間だ……。
セクシーで刺激的なタイトドレスに身を包み、ダンスフロアで踊り、強い酒で現実を忘れた。
若くてハンサムな男が、熱い吐息を浴びせながら、私に密着してくる。
私は彼の首に腕を回し、近づき、さらに近づく。
拓海、私はね、別にお前じゃなくてもいいんだからな。
何様のつもりだ!
見て、みんな私のことが好きなんだから……。
私は笑った。妖艶な体は、最強の媚薬だ。
彼が手を伸ばし、うつむいて私の鎖骨に唇を近づけた。
「何をしてるんだ!」
拓海が夜の病室を訪れると、真希の姿はなかった。
配下に調べさせると、真希がホテルを予約し、バーに繰り出していると分かった。
駆けつけた彼が見たのは、他の男と密着して踊り、さらには軽薄な行為を許している彼女の姿だった。
一瞬で怒りが沸き上がった。
彼は真希を引き寄せ、手を出した男を蹴り飛ばした。
「真希!手術したばかりなのに、酒を飲むなんて!死にたいのか!」
顔、何枚もの顔……拓海の顔。
拓海のことなんて考えるな、もう考えるな!
グラスを掲げて言う。
「ねえ、お兄さん、飲もうよ?」
明らかに、真希は泥酔して誰が誰だか分かっていなかった。
彼をバーにいた男たちの一人だと思い込み、戯れているだけだった。
拓海は彼女手首を強く握り、顔を曇らせ、胸に怒りを溜め込んだ。
上着を脱ぎ、真希のくねる体を包み込むと、肩に担いで外へ出た。
「離してよ!もっと飲みたいの!イケメン探さなきゃ!」
もがいたが、結局都心の高層マンションに連れ戻された。
拓海にベッドに放り投げられ、柔らかいマットが跳ねた。
何度か起き上がろうとしたが、服は乱れ、まっすぐな脚、雪のような肌が、真っ黒なベッドの上で強く目を刺激した。
拓海は片手でネクタイを引きちぎり、真希をベッドに押さえつけた。
漆黒の瞳に薄い怒りが宿っている。
「真希、俺という夫を眼中に置いているのか?」
夫?
「ふん、私の夫ね……彼、私を愛してなんかないよ」
涙が目尻を伝い、ベッドに苦い花を咲かせた。
「私を嫌ってる。人をけしかけて私を殴らせた。私の生死なんて構わない。それに私の骨髄を奪ったの。すごく痛かったよ」
真希は泣きじゃくり、彼の非道を延々と呟いた。
無視されたこと、不当に扱われたこと、虐待されたこと……。
拓海の胸が締めつけられた。
親指で目尻をぬぐい、決壊した涙を拭おうとした。
彼女が言わなければ、自分が彼女に酷いことを重ねてきたことを気づかなかった……。
「もうしない。お前も大人しくして、小雪をこれ以上いじめるな。一緒にまっとうに暮らそう」
私は首を振った。嫌だ。
「いらない。もう彼はいらない」
拓海が真希の手首を押さえる指が、次第に力を増した。
「でたらめ言うな」
よく聞こえない。誰かが話している。すごくカッコいいお兄さんだ。
「へへっ」真希は彼の首に腕を回した。
拓海は真希が納得したと思ったが、次の瞬間、真希の口から出たのは。
「お兄さん、私……まだ処女なのよ」真希は顔を上げ、彼の唇を捉えた。
舐め、噛みつく。
下腹から湧き上がった衝動が、長年囚われていた欲望を解き放ち、もはや制御不能だった。
真希の言う通り、二人は夫婦だ。何か起きてもおかしくない。
彼女とまっとうに暮すと約束したのだ。
拓海は自分に言い聞かせた。手の甲に青筋が浮かんでいる。
ビリリ。服の破片が床に落ちた。
そして、一夜を共に過ごした……。
翌朝目覚めると、全身がバラバラになりそうだった。
頭を揉みながら見知らぬ部屋を見回し、胸がざわついた。
ここは、ホテルじゃない……?
記憶の最後は、男と踊っている場面。そして……。
布団をめくると、案の定。
裸で、体にはあちこちに艶めかしいアザが浮かんでいた。
腿の付け根の不快感と痛みが私に告げる。全てが現実だと。
私は人と寝たのだ。
「目覚めたか?」
ぼんやりとした意識の中で、拓海がドアを開けて入ってきた。
見間違いかと思った。
暫く彼を凝視し、間違いなく拓海だと確認した。
なぜ彼がここに?
「ここは?」
「都心のマンションだ」
「昨夜は……」
彼は眉を上げ、別の言葉で答えた。
「お前の服は俺が引き裂いた。新しいものを買いに行かせてある」
つまり、昨夜関係を持ったのは本当に拓海だった。信じがたい。
以前だって、酔ったふりをして彼を誘惑したことはあったが、彼は微動だにしなかった。
今回はなぜ、従ったのだろう?
彼は私を嫌っているんじゃなかったのか?触るのも嫌じゃなかったのか?
彼は牛乳の入ったグラスを持ってベッドに座り、聞いたことのない優しい声で言った。
「牛乳を飲め。」
私は受け取らなかった。かつてずっと欲しかったものが、手に入れてみても、想像したほど嬉しくはなかった。
はっきり覚えている。彼は私の骨髄を奪い、まっとうに暮らすと言った。
だから――
私の同意も意思も求めず、酔って隙を見せた私から、最初の一夜を奪ったのだ。
彼は、私が未だに彼との関係を求めていると思っているのか!
私の気分が優れないのを見て、彼は無理強いはしなかった。
クローゼットから白いワイシャツを取り出し、私に渡した。
「まずこれを着ろ。服はすぐ届く」
私が彼を最も激しく誘惑していた頃、彼の服――ワイシャツからショートパンツまで――をこっそり着るのが好きだった。
だがその後、私が触った服には、彼は二度と着ることはない。
私はそれに気づいてから、彼の服には一切触れなかった。
もちろん今も、これっぽっちも思わない!
私は彼の手を避け、薄い布団をしっかり巻きつけた。
足が床に触れると、体が前に倒れそうになった。
このクソッタレな足、まったく力が入らない。
「危ない」
拓海は素早く私を支え、再びベッドに寝かせた。
彼も私の拒絶に気づいたようだ。
「俺は……昔、お前に酷いことをしていたのか?」
酷いこと?
実際のところ、酷いも何も、彼は完全に私を無視していた。
良し悪しの問題ですらなかった。
私が甘えようが、ふざけようが、彼はいつも冷たかった。
三年の結婚生活の大半を、彼は海外で江藤小雪と過ごしていた。
大事な日以外、一年を通して彼の顔を見ることはほとんどなかった。
ある時期、私は彼を怨み、憎んだ。しかしそれ以上に愛していた。
彼が義理の妹小雪を好きだと知った日、私は耐えられず、このことを暴露して二人を社会的に葬ろうとさえ考えた。
だが結局、消えかけた恋心が頂点に立ち、私は手放すことを選び、時間で痛みを癒すことを選んだ。
だがここ数日、彼の行動は完全に、彼という人間に対する私の希望を絶望に変えた。
「拓海、私たち……」
携帯の着信音が、いつもながらタイミングよく不意に鳴り響いた。
「もしもし?」
電話の向こうで、小雪の弱々しい声が聞こえる。
「お兄様、どこ行っちゃったの?小雪、病院で一人で怖いよ」
「今から行く」
彼は電話を切り、申し訳なさそうに私を一瞥した。
「小雪の世話で病院に行かねば。お前はゆっくり休め。戻ったら、ちゃんと話そう」
彼の背中が遠ざかっていくのを見つめた。
拓海は気づいていない。彼が私に残すのは、いつも背中だけだということを。
拓海が病院に着いて間もなく、携帯が鳴った。
小雪からだ。
一枚の写真が送られてきた。
生理用ナプキンとスープの入った椀が写っている。
「生理中。お兄様がナプキン買ってくれて、スープも作ってくれた。大好き」との添え書き。
ふん、自慢か?