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第10話


拓海とはもう会わないと決め、ホテルに部屋を取ってぐっすり眠るつもりだった。

ベッドに横たわっても、どうしても目を閉じられない。


記憶が繰り返し心をかき乱し、愛と憎しみが絡み合い、闇の中で私は寝返りを打ち続けた。

夜は、狂うのに最もふさわしい時間だ……。


セクシーで刺激的なタイトドレスに身を包み、ダンスフロアで踊り、強い酒で現実を忘れた。

若くてハンサムな男が、熱い吐息を浴びせながら、私に密着してくる。


私は彼の首に腕を回し、近づき、さらに近づく。

拓海、私はね、別にお前じゃなくてもいいんだからな。

何様のつもりだ!

見て、みんな私のことが好きなんだから……。


私は笑った。妖艶な体は、最強の媚薬だ。

彼が手を伸ばし、うつむいて私の鎖骨に唇を近づけた。


「何をしてるんだ!」

拓海が夜の病室を訪れると、真希の姿はなかった。

配下に調べさせると、真希がホテルを予約し、バーに繰り出していると分かった。

駆けつけた彼が見たのは、他の男と密着して踊り、さらには軽薄な行為を許している彼女の姿だった。


一瞬で怒りが沸き上がった。

彼は真希を引き寄せ、手を出した男を蹴り飛ばした。


「真希!手術したばかりなのに、酒を飲むなんて!死にたいのか!」


顔、何枚もの顔……拓海の顔。

拓海のことなんて考えるな、もう考えるな!

グラスを掲げて言う。

「ねえ、お兄さん、飲もうよ?」

明らかに、真希は泥酔して誰が誰だか分かっていなかった。


彼をバーにいた男たちの一人だと思い込み、戯れているだけだった。

拓海は彼女手首を強く握り、顔を曇らせ、胸に怒りを溜め込んだ。


上着を脱ぎ、真希のくねる体を包み込むと、肩に担いで外へ出た。

「離してよ!もっと飲みたいの!イケメン探さなきゃ!」

もがいたが、結局都心の高層マンションに連れ戻された。


拓海にベッドに放り投げられ、柔らかいマットが跳ねた。

何度か起き上がろうとしたが、服は乱れ、まっすぐな脚、雪のような肌が、真っ黒なベッドの上で強く目を刺激した。


拓海は片手でネクタイを引きちぎり、真希をベッドに押さえつけた。

漆黒の瞳に薄い怒りが宿っている。


「真希、俺という夫を眼中に置いているのか?」

夫?

「ふん、私の夫ね……彼、私を愛してなんかないよ」


涙が目尻を伝い、ベッドに苦い花を咲かせた。


「私を嫌ってる。人をけしかけて私を殴らせた。私の生死なんて構わない。それに私の骨髄を奪ったの。すごく痛かったよ」


真希は泣きじゃくり、彼の非道を延々と呟いた。

無視されたこと、不当に扱われたこと、虐待されたこと……。


拓海の胸が締めつけられた。

親指で目尻をぬぐい、決壊した涙を拭おうとした。


彼女が言わなければ、自分が彼女に酷いことを重ねてきたことを気づかなかった……。


「もうしない。お前も大人しくして、小雪をこれ以上いじめるな。一緒にまっとうに暮らそう」


私は首を振った。嫌だ。

「いらない。もう彼はいらない」


拓海が真希の手首を押さえる指が、次第に力を増した。

「でたらめ言うな」


よく聞こえない。誰かが話している。すごくカッコいいお兄さんだ。

「へへっ」真希は彼の首に腕を回した。


拓海は真希が納得したと思ったが、次の瞬間、真希の口から出たのは。


「お兄さん、私……まだ処女なのよ」真希は顔を上げ、彼の唇を捉えた。

舐め、噛みつく。

下腹から湧き上がった衝動が、長年囚われていた欲望を解き放ち、もはや制御不能だった。


真希の言う通り、二人は夫婦だ。何か起きてもおかしくない。

彼女とまっとうに暮すと約束したのだ。


拓海は自分に言い聞かせた。手の甲に青筋が浮かんでいる。

ビリリ。服の破片が床に落ちた。

そして、一夜を共に過ごした……。


翌朝目覚めると、全身がバラバラになりそうだった。

頭を揉みながら見知らぬ部屋を見回し、胸がざわついた。

ここは、ホテルじゃない……?


記憶の最後は、男と踊っている場面。そして……。

布団をめくると、案の定。

裸で、体にはあちこちに艶めかしいアザが浮かんでいた。

腿の付け根の不快感と痛みが私に告げる。全てが現実だと。

私は人と寝たのだ。


「目覚めたか?」

ぼんやりとした意識の中で、拓海がドアを開けて入ってきた。

見間違いかと思った。


暫く彼を凝視し、間違いなく拓海だと確認した。

なぜ彼がここに?

「ここは?」

「都心のマンションだ」

「昨夜は……」


彼は眉を上げ、別の言葉で答えた。

「お前の服は俺が引き裂いた。新しいものを買いに行かせてある」


つまり、昨夜関係を持ったのは本当に拓海だった。信じがたい。

以前だって、酔ったふりをして彼を誘惑したことはあったが、彼は微動だにしなかった。


今回はなぜ、従ったのだろう?


彼は私を嫌っているんじゃなかったのか?触るのも嫌じゃなかったのか?

彼は牛乳の入ったグラスを持ってベッドに座り、聞いたことのない優しい声で言った。

「牛乳を飲め。」


私は受け取らなかった。かつてずっと欲しかったものが、手に入れてみても、想像したほど嬉しくはなかった。


はっきり覚えている。彼は私の骨髄を奪い、まっとうに暮らすと言った。

だから――


私の同意も意思も求めず、酔って隙を見せた私から、最初の一夜を奪ったのだ。


彼は、私が未だに彼との関係を求めていると思っているのか!

私の気分が優れないのを見て、彼は無理強いはしなかった。


クローゼットから白いワイシャツを取り出し、私に渡した。

「まずこれを着ろ。服はすぐ届く」


私が彼を最も激しく誘惑していた頃、彼の服――ワイシャツからショートパンツまで――をこっそり着るのが好きだった。

だがその後、私が触った服には、彼は二度と着ることはない。


私はそれに気づいてから、彼の服には一切触れなかった。

もちろん今も、これっぽっちも思わない!


私は彼の手を避け、薄い布団をしっかり巻きつけた。

足が床に触れると、体が前に倒れそうになった。

このクソッタレな足、まったく力が入らない。


「危ない」

拓海は素早く私を支え、再びベッドに寝かせた。

彼も私の拒絶に気づいたようだ。


「俺は……昔、お前に酷いことをしていたのか?」


酷いこと?

実際のところ、酷いも何も、彼は完全に私を無視していた。

良し悪しの問題ですらなかった。


私が甘えようが、ふざけようが、彼はいつも冷たかった。


三年の結婚生活の大半を、彼は海外で江藤小雪と過ごしていた。

大事な日以外、一年を通して彼の顔を見ることはほとんどなかった。


ある時期、私は彼を怨み、憎んだ。しかしそれ以上に愛していた。


彼が義理の妹小雪を好きだと知った日、私は耐えられず、このことを暴露して二人を社会的に葬ろうとさえ考えた。

だが結局、消えかけた恋心が頂点に立ち、私は手放すことを選び、時間で痛みを癒すことを選んだ。


だがここ数日、彼の行動は完全に、彼という人間に対する私の希望を絶望に変えた。


「拓海、私たち……」

携帯の着信音が、いつもながらタイミングよく不意に鳴り響いた。


「もしもし?」

電話の向こうで、小雪の弱々しい声が聞こえる。

「お兄様、どこ行っちゃったの?小雪、病院で一人で怖いよ」

「今から行く」


彼は電話を切り、申し訳なさそうに私を一瞥した。

「小雪の世話で病院に行かねば。お前はゆっくり休め。戻ったら、ちゃんと話そう」


彼の背中が遠ざかっていくのを見つめた。

拓海は気づいていない。彼が私に残すのは、いつも背中だけだということを。


拓海が病院に着いて間もなく、携帯が鳴った。

小雪からだ。


一枚の写真が送られてきた。

生理用ナプキンとスープの入った椀が写っている。

「生理中。お兄様がナプキン買ってくれて、スープも作ってくれた。大好き」との添え書き。

ふん、自慢か?



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